セネルムントへの新しい風 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日はイリーナ達、オリエンス教神官に「対レラ魔法」を教える為にセネルムントにやってきた。
結局あれからザクスンからの情報は無く、アリシアも提供出来る情報は無かった。それでも魔族を倒したという話も無いので、予定通りに教える事になった。
マーロン王の方からもギャバン教に働きかけていたので、そちらに伝える事については、モートレルの神殿を通して要請があった。でもそれはまた今度として、まずはオリエンス教が優先だ。
「とりあえず見てみないとな」
オリエンスの神聖魔法は、アシルステラに接点があるやどりぎ館でも使えるけれど、一般的な神官が使うとどうなるのかの検証をする為に霞沙羅もやって来た。
幻想獣も元はといえば神の力で出来上がる生命なので、対レラ魔法の技術が使えるのであれば応用したいというのが霞沙羅の考えだ。
幻想獣駆除を目的とする軍の人間としては、専門の神官では無いアリシアが独自に開発して、実績もある魔法という事もあって、充分に研究に値する内容だ。
厄災戦で失われた戦力の補充に時間がかかる中、現時点でいる人員で戦力を強化する事も必要な案件だ。幻想獣に対してより効果の高い魔法を作る事へのヒントがあるのならぜひ欲しい。
あと折角なので、温泉大国神奈川県出身者として見過ごせない事があって、知り合いになったイリーナにある提案をしに来た。
まず目的地の研修施設は、大神殿でも東西南北の神殿でもなく、専用の建物があるので、そちらの方に移動中。
「カレーの匂いがするな」
大神殿の巡礼者向けの食堂からカレーの匂いが漂ってくる。
「巡礼者に好評なのよ。だから回数も増えているの」
「ボクとしては卵も出したいんだけど」
「何で卵?」
「源泉で温めてゆで卵にして出すんだけど。温泉卵っていうんだけど」
「温泉はオリエンス神からの賜り物なのよ。それを使って料理とか無いでしょ」
「えー、いいと思うんだけどなー」
高い信仰心故に頑固なイリーナと話をしながら、案内された建物にやってきた。
「オリエンスは商売の神様と聞いたが、そこの神官であっても積極的に戦うんだな」
「基本は信者を守る為よ。町だけでなく街道でも何かあれば出ていくのよ」
「確かにな」
研修室には数十人の神官が揃っていた。対レラ用の魔法は2つしかないとはいえ、初心者でも使える通常の浄化や聖剣化よりもちょっと難易度の高い魔法なので、神官として高いレベルにある人達が揃っている。
飛び入り参加の霞沙羅には空いている座席に座って貰って、参加者達にテキストを配って、まずはアリシアから魔法を伝授されているイリーナ司祭から、この魔法の概要が伝えられた。
「レラの神官に対しても使えるんですね?」
「レラの神官は攻撃的な魔法を使用しますからね。特に防御魔法は有効です」
レラの神官に出会う機会はそんなに無く、堂々とレラを信仰していたワグナール帝国等も滅んだ今は、戦う場面は非常に稀だ。ただ、いなくなったわけでは無いので油断は出来ない。
それに、魔族はこの大陸のどこかで年に数回は現れるので、備えておくべきだ。
「じゃあアリシア、お願いするわね」
「はい、じゃあ座学のあとに外で実習しますからねー。対レラ用の魔法は2つです」
アリシアが開発した神聖魔法はたったの2つ。攻撃用の【商神の剣】と、防御用の【商神の楯】だ。
攻撃用は聖剣化、防御用は障壁を作成する。
「特徴は、魔人や魔族といった反逆神レラに作られた生命等への効果が高い事。欠点は通常の戦闘にはそれほど効果が無い事」
特化しているが故の裏返しで、全く使えないわけでは無いけれど、例えばゴースト系には浄化の威力が落ちる。
「それは解っておいて下さいね」
【商神の剣】は聖剣化で、手持ちの武器にかけて使用する。付与した魔法力を消費する事になるけれど、ある程度の距離まで、纏った力を飛ばす事も出来る。
【商神の楯】は防御障壁。こちらも楯や鎧といった装備品にかけて、魔族や神官達からの攻撃を強力にガードする。
付与魔法なので、小隊などの集団の中に神官が1人いれば足りる。
「じゃあ魔法の構造について話しをしましょう。テキストの4ページ目からになります」
* * *
座学での抗議が終了してから、研修施設にある演習所に移動した。
「戦う相手がいないので手応えが無いですけど、発動だけは確認しないとダメですからね」
「研修が終わったあとに不安点があれば、私の神殿に来て下さいね」
この後アリシアが帰っても、セネルムントには実戦を経験しているイリーナがいるのでフォローも安心だ。
二人の指導の下で、早速出席者達は実際の魔法の発動を始めた。神聖魔法なので、オリエンスに祈りの声を届けなければならない。
各神官達はアリシアに教えられた通りにオリエンスへ祈りを捧げ、力を借り、魔法を構築していく。
「どうです、霞沙羅先生、何か使えそうですか?」
「まあまずは地球で使えるように変換してからだな。神聖魔法とはいえお前が使えるレベルなら、私もいけるだろうぜ」
テキストも貰って、座学ではしっかり教えて貰ったし、魔法自体も映像に収めた。あとは小樽に帰ってからだ。
「カサラさんも神聖魔法を使えるの?」
「霞沙羅さんはボクと同じタイプの人だから」
「随分乱暴な宗教観をもっているから、どうかとおもったけど」
「聖法器の制作と修理もやる商売柄、一つの神だけ信仰するわけにはいかないからな。使う神聖魔法は、親類がやってる保育園とこの神さんに決めているだけだ」
「保育園?」
「文明が違うから説明しにくいが、幼児に向けた学校だと思ってくれ」
「詳しく聞かない方が良さそうね」
神官達の方はといえば、魔法の習得は順調なようだ。
さすが選抜されて集められた高位の神官達。一部は時間はかかっても、全員2つの魔法の発動が確認されたので、ある程度慣れた所で研修は終了となった。
「治癒魔法もやって欲しいわ。症状に特化した魔法の完成度も上がっているみたいじゃない」
「そうだねー、どこかで時間を取って教えるからねー」
「この後はどうするの?」
「ボクの野望は潰えたけど、霞沙羅さんが温泉に用があってねー」
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