改造と改良 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「じゃあ揚げパンを作ろうねー」
冷凍箱を厨房の隅に置いて、揚げパンの調理に入った。といってももう焼き上がっているパンを揚げている間に、粉にして貰った大豆と砂糖を混ぜるだけ。
「こんどシスティーに畑の開墾に来て貰うんだけど、彼女が言うスープカレーって何?」
今度の休日に、甘蕪畑の開墾をした後で作ってくると言っていたそうだ。
「ボクが作ってるカレーはどろっとしてるんだけど、カレーの別バーションで、さらっとしたスープ状のカレーを作って、そこに焼いたり揚げたりした野菜とか肉を入れて食べる料理なんだよ。ちょっと前からシスティーが専門店を食べ歩きしたりして凝っててねー。館でもボクの代わりに作ってるんだよ。入れる具材にもよるけど、普通のカレーよりは豪華な見た目をしてるよ」
「それは騎士団の食堂でも出せそう?」
「具材によって値段が変わるから、その辺を抑えればいいと思うけど、日本でも普通のカレーよりかは値段が高くなる傾向があるねー」
「一回屋敷用に作って貰ってから考えましょう」
「変に具材をケチっちゃったりすると、単にカレー味のスープになっちゃって、がっかりする見た目になっちゃうからねー。ただやりようによってはカレー味のスープって事で野外演習で出しても悪くないかも」
話をしている間に揚げパンはあっさり出来あがった。
「このパンは騎士団で出せるの?」
「ヒルダは相変わらず騎士団の料理に熱心だナ」
「領主としてはいい傾向だけどね。大豆はいいけど、砂糖をどう考えるかかなー。日本だと学校の給食っていうか学校のお昼ご飯にたまに出るみたいだねー。パンを小さくしておまけとして出せば? 大豆は栄養価も高いし、運動量の多い騎士にはいいかもねー」
騎士団の食事に甘いおまけが出る事は無いから、新しい試みとしてはいいと思う。
大人が相手だし、甘さ控えめにすれば砂糖のコストは減らせるとは思う。
「まま」
子供2人もやってきた。
「ほら、アーちゃんがまた料理を持ってきてくれたわよー」
「ぱん」
出来上がった揚げパンは当然地味な見た目。でも油で揚がった表面が美味しそうではある。
「粉が落ちるからねー」
粉対策で受け皿を用意して、レイナードもやってきて、厨房担当者も含めて全員で試食を始めた。
「地味だけど、揚げてあるのがいい感じに作用してるわね」
パンの表面にパリパリ感が増えた。
「この粉がいいですね」
「うまうま」
「おいちい」
「子供は地味とかそういうのは関係なさそうだな」
「どっちかというと子供向けの食べ方だしねー」
パンもあまり大きくはなかったのであっという間に食べてしまった。
「残った粉が勿体ないわね」
「むせるかもしれないけどそのまま食べてもいいよ。イリーナのところでやった時は子供が奪い合いになっちゃったし。あとは例えばホットミルクに混ぜて飲むとかあるよ。キャンプの時にアンナマリーに飲ませたし」
「なら後でやってみようかしら」
「アーちゃん、あれはそろそろ食べられるのカ?」
「そうだねー」
冷凍箱を開けると、試験管の中でオレンジジュースがしっかり凍っていた。
「あら何これ」
「こっちは凍らせる箱だよ。いつかもっと遠くまで魚を運びたいから」
「ラスタルの一部貴族が、アーちゃんからアイスクリームとかいう冷たい食べ物を出されたと話題になっているが、これの事カ?」
「アイスクリームは牛乳を使うんだけど、こっちは果汁を凍らせただけだよ。単に箱の実験で作っただけだから。ドラゴン退治の時に出したシャーベットを硬くしたものだよ」
「あれは美味しかっタ。それに口の中がさっぱりしタ」
「あら何それ」
そういえばあの時はパスカール領とは無関係だからヒルダがいなかった。余計な事を口に出してしまった。
「これをちょっと柔らかく仕上げて、スプーンで食べるんだけど、基本的に冷凍箱が完成しないとダメだねー」
「じゃあ早く作りましょう」
「それを貴族の人達に急かされてるんだけど」
「それは急かすでしょう。魔術の心得がある料理人なんて殆どいないんだし」
とにかく今はアイスキャンデーを作ったので、試験管から引き抜いて、試食用にヒルダ達に渡した。
「別物だけど、懐かしいわね。旅の途中に果物を凍らせて食べたわね」
沢山歩いた休憩時に出してくれた凍った果物は、それはもう屋敷で食べるどんなデザートよりも美味しかった。冒険者時代のいい思い出だ。
「ヒルダ達の旅はこういうシンプルないいモノばかり食べたんだな」
「冷たくていいじゃないカ」
「魔法が使えるなら、こんな箱はいらないけどねー」
「アーちゃんと違って温度の調整が難しいから、必要じゃないカ?」
「うまうま」
「ちめたい」
子供達も喜んで食べている。フラム王国も冬で寒いけれど、揚げ物のせいで今の厨房は暑いので丁度いい。
冷凍箱については、今回の改良で密閉もちゃんと出来ていて、冷気が漏れて外側が凍っているような事は無い。改良は成功した。
「じゃあちょっと、これをあげるねー」
毛糸で編んだ子供用の腹巻きを2人の子供につけた。丁度正面に犬の模様を編んである。
「あら何これ」
「向こうの国の、腹巻きっていうやつで、今となっては子供が風邪をひかないようにお腹を保護する物だよ」
「わんわん」
「わん」
2人は犬の模様をペチペチ叩いて喜んでいる。
「お、いいものを貰ったな」
「ホントは夜に寝る時用なんだけどね、冷たいもの食べたからお腹を壊さないようにねー」
「アーちゃんは手先が器用だナ」
子供達は犬のマークの腹巻きを気に入ったようで、ペチペチしながら厨房を出て行った。
「そういえばアーちゃんがもう一つ箱を作っていたようナ」
「あれは料理を暖かいまま保管する箱だよー。料理はそんなに長時間は保温しての保管は出来ないけど」
「何に使うのよ?」
「この前飛行船にお弁当を積んだじゃん。あれを夕食まで温めたまま置いておきたいし、例えば晩餐会とかで、揚げ物焼き物なんかで作った料理の出番が来るまで保温出来るでしょ?」
「まあ確かに、行きも帰りも弁当を夕飯として食べている時に、あれを暖かいまま食べれたらとは思ったガ」
「アリシア君の執念はすごいな」
電子レンジとは違って、箱の中を常に温めておいて食べ物を保温するもの。
コンビニのレジ横のスナックコーナーに使われていたり、保育園のお弁当の保管に使っている温蔵庫を再現したものだ。
飛行船は国内移動なら最長でも一晩くらいで着いてしまうので、そのくらいの用途でいいかという感覚で作っている。料理を中にそのまま置いておくわけにもいかないので、保管用の容器も作りたい。
「学校にもアーちゃんがまた何か企んでいると言っておいてやろウ」
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