改造と改良 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
学院での用事が終了して、折角なのでまた実家に顔を出した。そろそろまた何かメニューの追加をしてもいいかもしれない。
「宿屋というと、私はこっちの方がいいんだがな。1階が食堂、2階に宿泊部屋。食堂では酒を飲んだ連中の喧噪で溢れる大衆的で賑やかな雰囲気。これだよなー」
ここで育った人間として嬉しいような悲しいような感想を述べる霞沙羅を連れて、夕食準備中のカリーナの宿にやって来た。
「おう、そろそろ来る頃だと話してたんだぜ」
今日は上の兄、父親、祖父の3人が夕食の準備をしていた。
「唐揚げと卵サンドはどうなの?」
「評判だよ。特に唐揚げは飲み客が必ず頼むもんだから量が必要でね。準備が大変だよ」
本当に大変そうで、唐揚げは絶賛準備中だ。
「冷えたワインはどうなってるんだと周りからも聞かれるぜ。まあ教えた所で魔術師がいないとな。だから教えてないぜ」
「卵サンドは持ち帰りの客が多いよ」
今は祖父が卵を焼いている。棚の皿にサンドが積まれているので、ホントに売れているようだ。
「そうなの、よかったー」
メニューの一つとして話題になっているのなら、紹介した甲斐があった。
伽里奈はカウンターに座って、霞沙羅はテーブル席に座った。
「そろそろまた別の料理が欲しいぞ」
「麵とか、メイン料理として腹にたまるもんでいいのはないか?」
「そうだねー、値段的にはこれかこれかなー」
記録盤で撮ってきた画像を見せる。ナポリタンとミートソース。飲み客や旅人が多い大衆料理屋なので、コストも低めでボリュームの面でもいいと思う。
「こっちはトマトケチャップっていうソースを作らないとダメだけど、これは他の料理にも使えるから。唐揚げとか従来品でも、これつけて食べるの」
「へー、それはいいな」
「それぞれ別の日に作るねー」
「しかしそろそろお前の嫁を見たいぞ。前も来たが、あそこの人は違うんだろ?」
霞沙羅はただ座っているだけでご満悦の様子だ。
「あの人は下宿の入居者だよ。今日は学院に用があったからラスタルに来てるんだよ。あのさー、あの人にちょっと空いてる部屋を一つくらい見せてもいいよねー?」
「ああ、今日はまだ何部屋か開いてるぞ」
「はーい、じゃあ霞沙羅さん、2階に行きますよ」
「一番奥の部屋はアリシアの部屋だ。もう学生が泊まりに来てるから開けるなよ」
「は、はーい」
アリシアの部屋。アリシアが使っていた家具と、置いていった書籍が並んでいるという特別ルーム。ルビィにも聞いたけれど、寮住まいの学生も偉大なる先輩の気分を味わいに、わざわざ泊まりに来るのだとか。
じゃあその部屋から離れた部屋を選んで、霞沙羅に案内した。
「おおー、これが宿の部屋か」
ごく普通レベルのベッドとテーブルと椅子が置いてあるだけの殺風景な部屋。でもちゃんと清掃はしているので清潔にはしている。
「冒険者が泊まるんだな?」
「ウチの宿はランク的に言うとビジネスホテルですからねー。商人とか仕事で長期滞在とか、まあまあ稼げている冒険者も泊まりに来ますよ。基本的にお金の無い初心者は別にある安宿っていうのが定番です」
「何か違うのか?」
「広い部屋に場所を決められて雑魚寝だったり、ゲストハウスみたいに安いベッドが並べられてて、大部屋での相部屋だったりです」
「そっちも見てみたいぜ」
霞沙羅はベッドの具合を確かめたり、窓を開けたり、そして写真を撮って、冒険者気分を満喫する姿を撮らされた。
「安宿はやめた方がいいですよ? 安いには安いなりの理由がありますからねー」
「犯罪の温床になってるわけじゃねえんだろ?」
「さすがにそれは無いですけど、掃除も最低限だったり、ベッドも硬かったりで」
「見るだけだ、見るだけ」
「だったらモートレルにしましょう。この町だとウチの宿でもなんか嫌味なので」
なんか儲かってる宿屋出身の英雄が、今更同じ町にある安宿の「中を見せて」と頼み込んだら、嫌がらせに近いし、見せてはくれないだろう。
「おう、いいぜ」
霞沙羅も満足したようなので、今日はここまでにして、やどりぎ館に帰った。
* * *
ザクスンはどうなったのかとか、魔族はどうなったのかとか、気になる事は多いけれど、フラム王国国民の、今は貴族であるアリシアが我が事のように気にする話ではない。
あそこもフラム王国に負けず劣らず、魔族との戦いの経験はあるから、今しばらくは忘れておこう。そう、今は忘れていい案件だ
だから今は自分の研究に専念するために、分校の研究室にやって来た。
アリシアは鍛冶屋から新しく納品された金属の箱を使って、2つ目の冷蔵箱と、その逆の役割である温蔵庫の作成。そして冷凍箱の密閉部分の改良を行っている。
「アーちゃんよ、あの先生が使った転移魔法は私も使えるのカ?」
あの日、霞沙羅の見せた職人としての能力の方にかき消されてしまった、改造された転移魔法の事を急に思い出したようで、早速ルビィが確認のためにここにまでやって来た。
「ボクとルーちゃんの間では使えると思うよ。どっちかが使った転移魔法に、もう一人が呼び寄せる為に座標を書き込むから、一方だけでもいいんだけど、まずは相手の居場所がわかってないとダメなんだ」
「どういう事で判別するんダ?」
「魔力って持ってる人によって、気配っていうか、あれは誰かっていう特徴があるでしょ?」
「確かニ」
「それで誰かって、見ないでも解るくらいの知り合いじゃ無いとダメで、位置を確定して、遠見の要領で相手術者の魔力に合わせて書き込まないとダメなの」
「なかなか使いにくいんだナ」
話をしながら、冷凍箱の内部には、これまで以上の樹脂を取り付けて、密閉出来るよう精度を上げた。
「そうなると射程も短そうだし何に使うんダ?」
「呼び寄せたい人が、呼び寄せる人を正確な位置に転移させる為だよ。事件の時とか、先に中に侵入した人が、本隊を入れる時とか、戦場では小隊を移動させたり。宝物庫の時は逆だったけどね。でも仲のいいペアでの運用だから使い勝手はそんなに良くはないかなー」
「でも一応教えて貰いたいゾ。そういえばカサラ先生はこっちの転移魔法も使えたのカ?」
「まだ土地勘が無いからいつもはボクがやってるけど、魔術自体はお互いに教えたから、慣れの問題だよ」
伽里奈は地球に4年近く住んでいるので、地球でも転移魔法が使えるけれど、霞沙羅は時々モートレルとラスタルに行くだけで、大陸の地理や町の位置関係が解っていないので使っていない。
この前のはお互いの距離が近かったからだ。
「あとなんかこの前、飛行船の周りになんか飛ばしてたあレ。あれは何なんダ?」
「簡易的な使い魔の応用だねー。紙飛行機っていう、紙で折った玩具みたいな物なんだけど、あれに飛行魔法と探知魔法を乗せて、飛行船が飛んでる所の観測をしてたんだよ。建造物とか、大きい物の確認に使ってるよ」
紙はまだまだ高いし、紙飛行機という文化が無いので、アシルステラでは説明が難しい。
一応、紙飛行機に折らなくても飛ぶけれど、安定性が悪い。
「アーちゃんも使えるのカ?」
「うん、出来るよー」
「よし、今度教えて貰おウ」
教えて貰う事がいっぱいあるな、とルビィは嬉しく思う。
そこにノックもせずにバーンと扉を開けてヒルダが入ってきた。
「アーちゃん、揚げパン作って」
「揚げパン? 誰から聞いたの?」
「イリーナが言ってたわよ」
先日セネルムントで子供のおやつとして作った揚げパン。あれはヒルダみたいなのが食べるような物でもないので、話もしていなかった。
確かに、コストの高い砂糖と油が必要になるので、平民のご家庭では頻繁には作れないけれど、食べ物としては貴族用では無い。
「ヒーちゃんがあんなの食べるの?」
「ウチにも子供がいるのよ」
ヒルダも子供がいるし、配下達の家庭にも子供がいるから、おやつとしては確かにいい。
「パンを揚げてるだけなら町の名物にもなれそうじゃない。屋台とかお店の商品にはなるでしょ」
「まあいいけど、この後?」
「時間があるならでいいわ」
「そんなに時間はかからないけどねー」
だったらと、とりあえず小さくて安いのでいいからパンを買って、大豆をすりこぎで粉にしてて欲しいと伝えると、ヒルダは帰っていった。
「私も気になるゾ」
「この前お団子食べたでしょ。それにかかってたきな粉を、揚げたパンにまぶすだけなんだけど」
「そのくらいだったらリューネに口で伝えれば出来そうだナ」
「そんなモノだよー」
密閉部分の修正は済んだので、果たして問題が無いかどうかの確認で、アリシアは水筒から大きめの試験管にオレンジジュースを一個一個注いでいって、棒を入れて、冷凍箱に入れた。
「何をしているんダ」
「冷凍箱の修正具合を見る為に、オレンジジュースを凍らせて食べるんだよ。棒は持ち手だよ」
作っているのはアイスキャンディーだ。
「アーちゃんが旅の途中で作ってくれた、凍らせた果物は美味しかったナ」
「あれの果汁だけを凍らせるんだー。じゃあヒルダの家に行こうか」
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