改造と改良 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
轟雷の杖の改造具合を確認したらイリーナはセネルムントに帰っていった。
タウ達も制御装置と改造結果に満足したので、その御礼として霞沙羅の希望を聞いて、学院のとある施設に向かっている。
「そろそろ冒険譚の販売が始まるんだゾ」
「もう製本が終わり始めてるんだねー」
「納品は貴族からになル。まあ一次二次と製本はまだまだ続ク。また次の本も書き始めないとナ」
となると新刊がアンナマリーの手に渡る日も近づいているという事だ。彼女が読み終えたらまた読ませて貰おう。
「しかし悪いな、宝物庫まで見せて貰って」
「杖の制御装置でタウ様達の機嫌がいいからナ。それに今は以前に起きた錫杖の盗難事件対策で異世界人の知識も借りたいところなのだそうダ」
王者の錫杖は再び宝物庫に納められたけれど、盗難の手口が解らない以上、対策の立てようが無い。
そこで仕掛けの全てとは言わないまでも、魔術に詳しい人間なら触っただけで解るレベルのセキュリティーを霞沙羅に見て貰おうと、決まった。
勿論同レベルで2つの世界の魔術を習得しているアリシアも対象だ。
宝物庫は研究用とは別に作られたダンジョンで、頑丈な石作りの建物の中に、地下ダンジョンへの入り口があるという作りになっている。
建物への入り口は鍵を、ダンジョンへの入り口を開けるには、鍵となるアイテムを賢者達が管理しており、収納されているアイテムについてはランク付けがされており、それぞれに保管する区画が決められている。
「ボクも職員時代に何回か入ったくらいだなー」
エリアスの手で壊滅させられたワグナール帝国の帝都から奪い取ってきた王者の錫杖をここに納めたのは賢者達なので、この建物に入るのもアリシアには5年ぶりくらい。
「王者の錫杖はその危険性から宝物としては最高ランクに設定されており、通常は我ら天望の座の人間が持つ鍵が全て揃わないと、保管された区画の扉が開く事は無い」
そもそもの話、その鍵となるアイテムは盗まれていないので、この建物の中に入るのは何とかなるかもしれないけれど、その先にあるダンジョンの中に入れないし、扉が開いたという形跡は無かった。
霞沙羅は許可を貰って、ダンジョン入り口を触って、中の構造が読み取れないか、探知を行った。
「探知を誤魔化すわけだな」
対探知魔法が、その探知結果を欺瞞するよう仕掛けられている。しかも約十秒ごとに通路の探知結果が組み変わるという念の入れようだ。なので、外からはダンジョンの仕組みは解らない。地図は鍵アイテムと同じく各賢者が持っている。
鍵アイテムがあれば、この対探知魔法は黙らせる事が出来るけれど、ランクが上の区画を探知すると、一つ、また一つと解除が必要となる。
「すげえな」
ダンジョンのメンテナンスの為にこの対探知魔法を止める手立てはあるけれど、それは秘密にされている。
「ヒントになるかわからねえが、鍛冶として一つ技を見せてやろう。第一区画だけ使わせて貰っていいか?」
「カサラ殿にはなにか思いつく手段がおありか?」
「私は…、自分が作ったモノだけの限定だけどな。アリシアに轟雷の杖を持たせて、ルビィと一緒に適当なところまで歩かせてくれ」
「あれやる気ですか? こっちの世界じゃやった事がないですねー」
「王者の錫杖を盗んだヤツが誰かってのは、私は制作者と同一人物かその子孫だと思っているぜ。適当な場所で空っぽの転移魔法を使ってくれよ」
アリシアはルビィから轟雷の杖を借りて、2人で開けて貰った宝物庫に入っていき、一旦入り口の扉を閉めた。
「相変わらず探知を誤魔化してきやがるが、私には轟雷の杖の場所が解るんだぜ」
霞沙羅は轟雷の杖の位置を特定し続けているので、アリシアの転移魔法の位置も騙されない。あとはそれに転移先の座標を書き込んでやるだけ。
「私に出来るのはここまでだが」
アリシアとルビィが宝物庫の扉の前に転移してきた。
「アイテムだけを直接引っ張ってくるのは、ちょっと無理だな」
「カサラ殿、今何をしたのだ?」
知らない人間が見れば、単にアリシアが転移で中から出てきただけにしか見えない。
「ある程度、魔術的に相手を理解する必要性があるんだが、転移魔法の転移先を私の方で指定したんだよ。アリシアはここでもう一回やってくれ」
今度はアリシアだけが転移魔法を使用すると見せかけて、魔術基板が足下に書き込まれるが、空白部分がある。見れば解るけれど、そこには転移先が書き込まれる所だ。
「ここに私がだな」
霞沙羅が空白部分に転移先を書き込むと、アリシアがこの建物の外に転移した。
「あいつが持っていた轟雷の杖には私の作った制御装置が付いてるから、私はある程度の範囲内ならばどこにあるか解るんだよ。これは鍛冶屋の独特の感覚だな。だからこの宝物庫の対探知魔法に騙されずに、あいつがどこにいるのかを理解出来た」
これは小樽大襲撃事件の時に、高校にいたアリシアを大学に転移させた魔術だ。あの時も霞沙羅が弄った魔剣をアリシアが持っていたので、正確な場所が解った。
「道具だけをこの中からどう盗んだのかは解らんが、まあこういう可能性もあるんだぜ、という話だ」
外に追い出されたアリシアが入ってきた。
「はい、ルーちゃんに返すよ」
「ぬう、カサラさんはすごいナ」
ルビィも宝物庫の中で、転移先が空白の転移魔法を確認している。
「この転移術は吉祥院家発祥だぜ。欠点は相互にそれなりに親しくないとダメな点だな。それは別の話として、鍛冶屋としては、錫杖の制作者と盗んだ相手の関係が、同一か血筋かと絞れるわけだ」
「狐の2人の、どっちかが制作者なんでしょうね」
「カサラ殿、これを防ぐ手段は?」
「魔術では無く、ある程度極めた職人の感覚みたいなもんだからな。私も母校の宝物庫で色々実験したが、場所の特定だけは防げなかったな」
あくまで自分が作ったか、制作者の血筋の人間が作ったか、でしか出来ないので、アカの他人が作った道具にはこの感覚は働かない。
「王者の錫杖を作る程の相手となると、その感覚を持っていてもおかしくないと、そういう事だな?」
「会った事も無いから仮説でしかないが」
「ボクは会っただけですけど」
「この建物にももう少し何か施した方がいいが、そうなるとこの建物に入るのが危険になるか」
「近寄らせないようにする設備が必要か。まずはそのセンで考えておこう。カサラ殿、貴重な技を見せて貰った」
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