改造と改良 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日も霞沙羅はお気に入りの戦闘服でやって来た。もう日本では着る事は無いと思っていたけれど、アシルステラの世界に合うとの事なので気兼ねなく着れるそうだ。
アリシアの方は、学院で着るように用意しておいた服装だ。裾が短すぎるジャケットに股下までの長いワンピースの上着に、相変わらす短いスカートの下に短パンを履いて、黒いガーターストッキングとブーツという姿。そして案外長いポニーテール。
「お前は冒険中に何を着ていたんだ?」
「モートレルの冒険者ギルドに絵がありますよ。今の所長さんが描いてくれたんです」
「付くもの付いてるのに、似合ってるからむかつくんだよな」
なんならスリーサイズでもやや女性的で微妙に凹凸があったりするので、知らない人間が見たら判別が出来ない。
「せめてこういう長いスカートにしたらどうだ?」
「霞沙羅先生を見てるとそれも考えますけどね。可愛くないじゃないですか。まだボクには合いませんよー」
確かにスカートから見えるこの美脚、とか言ってる場合じゃない。
まだボクには合わない、ってなんだろう。
ならその内ロングスカートを履くという事になるのだろうか?
とにかく2人は轟雷の杖に制御装置を取り付ける為にルビィの研究室に向かった。
「おー、先生お待ちしてましタ」
ルビィはやって来た霞沙羅とアリシアを応接用のソファーに招いた。この部屋を訪れるとアリシアがちょとずつ書籍の整理をしていくので、最近のソファー周辺はかなりスペース的に余裕が出来てきている。
「イリーナがいるが、こいつになんか頼まれてたか?」
先に来ていたイリーナがソファーに座っていた。
「イリーナは轟雷の杖がどうなるか見に来ただけなのデ。では先生、轟雷の杖でス」
「ルーちゃんは随分ご機嫌だねー」
「轟雷の杖はちょっと使いにくかったからナ。これでもう少し使ってやれるゾ」
「じゃあちょっと貸せ」
制御装置は柄の一番上、轟雷の杖本体の先端部にくっつけるような位置に装着された。
「先端部がちょっと重くなったがな」
制御装置は腕輪くらいの大きさだし、轟雷の杖で殴り合いをするわけでもないので、多少重くなっても気にならない。
それに背は低いけれど、ルビィも腕力は鍛えている。殴り合いになれば並の兵士では太刀打ち出来ない程の棒術も身につけている。
「こいつは出力をゼロにする意味が無いから、リクエスト通りに一割毎に、10段階の出力制御にしたぞ」
魔装具として魔術基板の力を切る理由が無いので、10%が最小となる設定だ。
「お前には設計図を渡しておくぜ」
この後、個人で整備や研究をするだろうから、ルビィにはこの制御装置の設計図を印刷してきたので渡した。
「いやー、すごイ」
ルビィは早速制御装置のダイヤルリングをカチカチと回して、能力制御が効いているか確認する。
「ぬー、ちゃんと機能していル」
ルビィは先日教えて貰った魔術基板を投影する技で、空中に浮かび上がらせながら、設計図を参考にして、機能の具合を確かめた。
元々杖に刻まれていた魔術基板に制御装置の魔術基板がしっかりと融合しているのがすごい。
「ちゃんと使ってやがるな」
「そりゃあ、こんな便利な技を使わないわけはなイ」
ひとまず確認は取れたので、早速町の外にある演習場にで実際に実験してみる為に、タウなどの参加者を集めて転移で移動した。
「お、広いな」
牧場のように柵で囲われた広い土地が、ラスタルの城壁の外にある。地面は色々と魔法を使った結果として、周辺の草原とは違って、土がむき出しで、デコボコしている。そこに石作りの建物が一軒ある程度。
ここがダンジョンとは違う、大きな魔法用の実験場だ。
「ヒルダのところでも見たが、町を囲む城壁を外から見るっていうのが、非現実感があっていいよな」
霞沙羅の周辺にいる人達も、日本の服を着ていないし、いかにも魔法使いというおじさんおばさんがいる。少し離れた所には街道があって、そこを旅人や馬車が往来している。
そこに城門から何やら馬に乗った騎士達が出てきた。城壁周辺の定期的な警備が始まるようだ。
「北海道にもありそうじゃないですか? 美瑛とか富良野とか」
「無い、絶対に無い。おい写真撮ってくれよ」
「ルーちゃんの杖の確認が終わったらですよ」
とにかく、大賢者タウを初めとした、学院上層部が関心を寄せている制御層装置を見せる為に、作り出した土のゴーレムを的に、轟雷の杖の威力変化の検証を始めた。
「まずは一番低くしテ」
リングを最低にして雷撃の力を使うと
「おおー、効いてル」
これは持ち主であるルビィにはハッキリ解るけれど、威力が10分の1になった雷撃を受けたゴーレムは静かにバラバラと崩れ落ちた。
「おおー」
轟雷の杖にしてはあまりにも威力が落ちているので、タウ達からも驚きの声が挙がった。
それから一目盛り毎に威力を変えていくと、ゴーレムの砕け方が崩壊から爆散に変化していった。見た目の威力もまさに段違いに変化していく。
「おー、先生、これすごいじゃないカ」
「普段使い出来そうか?」
「いやー、これは全然使えるゾ」
外付けで、既に刻まれた魔術基板を拡張する形で制御するとか、かなりすごい。
そもそも「直してやる」と言われてこの装置なので、霞沙羅は地球側でこの魔術基板同士の連結方法を確立していると解る。これはさっき貰った設計図をバッチリ見返す価値がある。
「おいルビィ、我々にも少し貸すのだ」
ルビィの確認が終わったとみるや、タウ達が殺到してきた。新しい技術にはやはり目がない。
興味の塊の超上級魔術師達が、それぞれが取っ替え引っ替え轟雷の杖を手にして、ダイヤルを回し、制御の効き方を確認する。
「ちょっと、地面が大変な事になってますよー」
もうゴーレムとかどうでも良くて、何も無い地面にガンガン雷撃が命中して、大穴が開いてボコボコになっていく。
近くには街道もあるしアリシアは注意するけれど、そんな事は気にせずに、大の大人達が杖一本に子供のように熱中する姿は、ある意味、学院の高位に位置する人達の性を現している。
「ルビィとヒルダはようやく使いやすい武器を手に入れたって感じね」
魔女戦争で強力な魔獣を倒していた時は頼もしかったけれど、終わってからは武器を仕舞い込んでいたので勿体ないと思っていた。
「お前はどうする?」
イリーナも霞沙羅の腕前を確認して、ハンマーにひと工夫出来ないかと考えている最中だ。
「制御系じゃなくても、こいつの魔剣のように機能を変化させてもいいし、ハンマーの魔力を利用して追加の機能を乗せてもいいぜ。冒険中にこれがあったら良かったとかあれば、相談に乗るぜ」
「吉祥院さんの杖に付いてる楯の機能があるといいんじゃないかと思うんですけど。でもなんであんなのつけたんです?」
「あいつはでかいから目立って結構狙われるんだよ。それでつけた。まあ結局は自前で壁を作って、私らの援護用に転用されたんだがな」
「誰の話?」
「霞沙羅さんの仲間の人だよ。魔術師専門の人がいるんだー」
「あいつには生半可な魔法は効かないし、近寄ろうにも並のヤツじゃ懐には入れないしな」
魔法はダメ。銃火器では壁が越えられない。動きが遅そうなのでと近寄ればリーチがあるのと、実は身体能力が高いので返り討ちに遭う。
「その人の杖が見てみたいわね。私も基本的には前に出るワケじゃないから」
前に出ないって、あれ、そうだっけ? とアリシアは思うけれどツッコまない事にした。
「じゃあ機会があれば紹介してやるよ」
「よろしくね。それからアリシア、国王様経由で教皇様に話があったのだけれど、対レラ用魔法の話ってホントにやるの?」
「あそこで杖の取り合いをしてるタウ様がイリーナから話しを聞いたって言ってたよ。ザクスンに魔族が出たから、フラム王国も備えておこうって話になって。あれって教団に伝わってないの?」
「私は覚えているけど、あまり出番も無いし上手く教えられないのよ」
「まあ魔族に特化しすぎて、魔族が出てこないと役に立たないからねー」
日常的に使えない神聖魔法の意義を考えると、教団に教えていないイリーナを怒る気にはなれない。
実際に教えた所で、何人が使う事になるのか、それは疑問に思っている。ただ、この先何が起きるか解らないので、教団の知識として残しておいた方がいいかなとは思う。
「何の話をしているんだ?」
「反逆神レラの眷属とか魔族対策に特化した神聖魔法の話です。ボクが作ったんですけど」
「そんなのがあるのか?」
「魔族なんかとは有利に戦えるんですけど、それ以外には使い道が無いのが欠点です。でもこんな状況なので。その魔法を教団に教える予定がありまして」
「へえ、気になるな」
「アシルステラ人専用なので、霞沙羅さんでは使えないですよ?」
「魔法の概念自体は使えるかもしれんからな。どっかのタイミングで聞かせてくれ」
「まあいいですけど」
症状特化型の治癒魔法も元はといえば霞沙羅からの知識だし、逆に地球の神聖魔法に影響が無いかといえばそんな事はない。
一旦テキストに纏めるので、無駄かどうかはともかくとして、その時にでも話しをするとしよう。
「それにしても大人気だな」
学院上層部達はまだ轟雷の杖にご執心だった。
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