騒動の幕開け -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
間抜けな帝国残党に渡した「神降ろしの杖」の規模をダウンサイズした物を、カナタは「降魔の腕輪」と名付けた。
今回は事前に契約し、腕輪に登録した魔族を呼び出し、融合するという機能を持っている。
融合と解除は任意に行う事が出来るので、通常の生活は人間の姿で行う事が出来る。
残念ながら良いことばかりではなく、一度融合が完了してしまうと、魔族と一体化して半魔半人となり、正しくは人間では無くなってしまう。
ただし人間状態でも体は頑丈になり、寿命も延び、魔力も上がるけれど、反面レラ系以外の治癒系の魔法を受け付けなくなる。
魔族に変身を行えば、自己修復機能が働くけれど、人間形態時には変に怪我をした場合、気をつけないとバレてしまう。
後は魔族と一つの肉体を共有する事になるので、相手次第では色々とうるさくなる。
「説明はそんな所ですわね」
カナタは魔術師、ザクスン王国王立魔法学院出身だという、エルナークへの説明を終えた。なるべく長期間使って欲しいので、一長一短も話して納得した上で使って貰おうという配慮だ。
「レラ陣営になるという事はどういう事なのだ? 有り様を聞きたい」
エルナークはレラの神官に質問した。
「好きなように生きれば良いのです。レラの教義の中心はそれです。これまで通り生きればいいのです。端的に言えば、正義の味方になったとしてもレラ神は信じる者を見限る事も罰を与える事もありません」
戒律からの開放。これが反逆神レラが掲げる精神だ。
善行をしてもいいし、悪行をしてもいい。
レラを信じる者は、己の信じるままに生きればいい。つまりこれまでの生き方を変える必要はない。
「ただし、このお考えを解っていない多くの人達が貴方に害をなそうとするでしょう。嘆かわしい事です」
今は魔女がどさくさに紛れて、レラを信仰していた国を一つ残らず壊滅させてしまったので、後ろ盾となる大きな組織が無くなってしまったのが悔やまれる。
「多生肩身の狭い生活になるかもですわ」
「オレは最低限の付き合いしかしないので、そこは気にしていない。ただ力が足りないのだ」
エルナークは腕輪を手に取った。
「一つ頼み事をしたいのですが」
「何だ?」
カナタは2種類の袋をエルナークに渡した。
「こちらの四角い塊の方は異世界の魔物が何体か封じられていますの。丸い金属の方は人工的なレラの目ですわ」
「これをどうしろというのだ?」
「貴方と出会った日に町を襲った魔物はこの世界ではあのようすぐにダメになってしまいますが、ではこのレラの目を取り付けたら動き続けるのかという実験ですわ。どこか適当な場所にまいてくださっていいですの」
「その魔物に比べてレラの目が多いな」
四角い塊は8個だけ、金属の玉は20個以上入っている。
「貴方の練習用ですわ。レラの目で魔物や魔獣を操る機会があるかと思いますが、そんなに量産出来ませんでしょう?」
「…研究用にも使わせて貰おう」
「構いませんの。私はこれの結果を見る事が出来ればいいだけですので」
「解った。では始めて貰おうか」
エルナークは遂に腕輪をはめた。
降魔の腕輪は残念ながらこちらの神であるレラの力を使用するので、起動はレラの神官にしか出来ないから、カナタは見ているだけ。だからこの神官と組んでいるワケだ。
「畏まりました、新たな同志を歓迎致します。そして貴方に良き出会いがあらんことを」
* * *
突如王都サイアンに現れたサラマンダーの群れは対応遅れはあったものの、アリシア達が来たおかげで大きな被害が出る前に駆除された。
しかし反逆神レラの人間である魔族の出現が確認されたので、ザクスンの国王である「ゼーラント=アム=ザクスン」はひとまず関係者を集めて、事件の報告会を行う事にした。
「なんだ、私も参加していいのか?」
その場にいたという事で、「レラの目」を発見した霞沙羅もこの報告会に呼ばれ、王城の中に案内されている。
「こんな時にこの指輪が効果を発揮するとはな」
マーロン国王から貰った、フラム王国の客人を証明する指輪をはめていたので、霞沙羅はアリシアの知人として扱われることになった。
アリシアについては、冒険者時代に受けた仕事とはいえ、プリシラ王女の命を救った一人として、この王宮でも顔が利くから、その王女と一緒にこのトラブルを解決した一行として出席することになった。
「あくまで証人ということで何か情報が欲しいって事と、一応御礼がありますので」
サラマンダーを駆除したことと、火災が広まる前に消火したこと、多くの怪我人を治療したという事で、アリシアとエリアスと霞沙羅にお礼がしたいという。
実際の対策会議はこの報告会の情報を元に、将軍だのサイアンの魔法学院上層部だのが集まって本格的にやることになる。さすがに国家の問題なので、アリシア達が参加を要請されることはない。
「なんか服装がなあ」
「そうね」
3人揃って、地球側の普段着で来てしまっているので、国王を初めとした集まったメンバーから見て浮いてしまっている。
「すみませんね」
「私の方も突然でしたから。全員緊急なので、皆さんの衣服を気にしているどころではないと思いますよ」
そもそもプリシラもモートレルに転移してからずっと、アリシア達の衣服がおかしい事を先程まで気にもしていなかった。
会議室にとりあえずのメンバーが集まった所で、事件の報告会が始まった。
ゼーラント王はプリシラ王女のお爺さん。フラム王国と違って、魔女戦争時と変わっていない、60代前半という歳もあって白髪が目立つけれど、戦の国の王だけあって、まだまだ威厳も充分。
「まずはサイアンの被害状況を聞かせよ」
これについては近衛騎士団の第一師団の団長と名乗る騎士からざっとした被害の説明が始まった。
サラマンダーが現れたのは正門の正面に広がるエリアだけ。この辺りには騎士や貴族といった地位にある人の住居が多くある場所。その数軒の屋敷がサラマンダーの炎による火災が起きた。
ただし、全焼は無く、屋敷の柱や壁、後は庭にある木や芝生や花が燃えたくらいだ。
それから、死者はいないけれど、市民と急遽対応に当たった警備の兵士達に怪我人が出た。この怪我人の大半はエリアスによって治療は終わっている。
「速報としての被害状況は以上になります。詳細な被害は現在調査中です」
「解った。追加の情報を含めて詳細が纏まり次第、再度報告をせよ」
「はっ!」
ゼーラント王からのその言葉で団長は座席に座った。
「さて、この度の襲撃を迅速に鎮圧した客人に礼を言いたい。ところでアリシア君、会うのは久しぶりだね」
「はい。魔女戦争で色々ありましてご無沙汰しています」
「魔女との最後の戦いの後にいなくなったと気になってはおったが、よくぞ戻った。その辺りのことは後日食事でもしながらゆっくり聞かせて貰いたいモノだ」
現国王の孫にあたるプリシラ王女の護衛から始まって、サイアンには何度か足を運んで、何度か直接依頼を貰った事もある。
戦の国の王という事もあって、ゼーラント王は強い人間が大好き。冒険者としては最初から全員強かったアリシア達は、ギャバン教信者として名の知れたパスカール家のヒルダがいた事もあって、冒険者ギルドを通さずに直接仕事の依頼をされる事もあった。
それもあって、ザクスンの国民ではないけれどゼーラント王の覚えもめでたく、アリシアは士官を誘われた事もあった。
「ところでそちらの2名について、簡単に紹介して貰えないだろうか」
「はい。こちらがエリアスで、ボクの…私のパートナーです。あの古代神聖王国の遺跡に眠っていた巫女です。今の、下宿を管理するにあたって、女神エリアスの母神であるアーシェルから紹介をうけました。女神と同じ名前ですが、巫女はエリアスと名乗るしきたりだそうです」
「あの伝説の国の生き残りだというのか。その巫女であれば多くの怪我人を治療したのも頷ける」
それを聞いて出席者達が驚嘆の声をあげる。
当時の神殿は遺跡として残っているけれど、おとぎ話に出てくるような古い国だ。
「それとこちらが新城霞沙羅さんで、下宿のある異世界の国の英雄の一人です。あの、鎮魂の儀でオルガンを弾いて欲しいと、教皇様から依頼を受けている人です」
「おお、聞いておるぞ。セネルムントでも見事な腕前を披露したとか。ところで気になるのだが、なぜ我が孫はモートレルへたどり着いたのだろうか」
「神殿間の転移にはギャバン神の力が働いていますから、そこに神託的な、何らかの意志が入ったのでしょう」
伝説の国の巫女だというエリアスが言うからとても説得力がある。勿論これは本当の話で、転移装置が壊れたわけではない。
霞沙羅にレラの目を見つけさせたかったのだろう。あと、鎮魂の儀でオルガンを弾いてもらうための、ザクスン王国への顔見せとそれによる地固め。
恐らくそこまで戦力としては考えられてはいないはずだ。
「レラの目については魔法学院に鑑定を任せている。なにぶん初めてのタイプなのでな」
「あの、プリシラ王女が元々いた町はどうなったのでしょうか?」
「先程ですが、魔物共は無事全滅させたと報告を聞きました」
これはプリシラが答えてくれた。
「そうですか、それは良かった」
「アリシア君、エリアス殿、シンジョウカサラ殿。今日は大儀であった。ここからは我が国で対応にあたろう。ただ一つ依頼があるのだが、アリシア君やフラム王国の方で今回の魔族に関する何らか情報が入ったのなら伝えてくれないだろうか。勿論、アリシア君の入国については、国王として保証しよう。マーロン国王にもよろしく頼む」
「はい、畏まりました」
魔族出現なのでこの後は一応、フラム王国にも一報入れなければならない。なのでその時にマーロン国王にはゼーラント国王からの依頼を伝える事にしよう。
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