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アシルステラの新たな障害 -2-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

「しかしすまないな、無関係な人間がオルガンを弾きに来て」


 やどりぎ館から転移が不要でパイプオルガンを弾ける場所が見つかったので、、霞沙羅はモートレルのギャバン教神殿にやってきた。


「いえいいのよ。実際そんなに使ってないのよ。折角設置したモノだし、あるモノは使わないとね」


 霞沙羅は親類から横浜にある大きな寺院での演奏を頼まれることもあるし、近々軍での慰霊式典もあるから、どこかで練習出来ないかと思っていたところだった。


 それに勝手に寺院庁の案件に巻き込まれることになって、苛ついてきたので、領主のヒルダに頼んでパイプオルガンを弾かせてもらうことにした。


 ストレス解消に家のシンセサイザーで一人でただただ曲を弾き続けることもあるけれど、今日は荘厳な音を奏でるパイプオルガンの方がいい。押すと抵抗のある鍵盤の感触もいいし、建物全部から反響する、あの体が震えるような音を聴くのがいい。


 信心深いわけではないし、ギャバンは時々飲む相手なのでその顔がちらついてしまうけれど、神殿の持つ独特の雰囲気の中で、ちょっと心を落ち着けようと思う。


 これとは別に、アリシアはアリシアでバターチキンカレーと豆カレーとタンドリーチキンをヒルダの屋敷で作っている。やどりぎ館の夕食も、それは別に作っているけれど、同じメニューだ。


「こっちのじゃない曲も勝手に弾くからな」


 一応、場所を借りている御礼もあるので、先日の楽譜を見せてもらった鎮魂用の曲から始めると、神官達や町で依頼完了後の休日を過ごしていた冒険者や傭兵もやってきて、礼拝堂に座った。


 騎士や市民に比べるとガラの悪い彼らも、今までの稼業の中で思うところがあるのか、霞沙羅の演奏を静かに聴きながら、祈ったり、うっすらと涙を流す等、確実に心に響いていた。


 今回はもう間違えることもなく一曲を完璧に演奏し終えて「よしよし」と思っている霞沙羅に、人数が少ないのでセネルムントほどではないけれど、拍手が巻き起こった。


 振り向くと警邏中のアンナマリー達まで入ってきていた。


霞沙羅が誰か知らない冒険者や傭兵達は裏の事情など知らず、なにか照れたような顔をして、黙って寄付金を置いて、町に出て行った。


「霞沙羅さん、鎮魂の儀で充分弾けるわよ」

「そんな気は全く無いんだがな」


引き続き弾いた二曲目は日本での曲なので誰も知らないけれど、それでもまた何人か残ったり、入ってきたりして、静かに聞いていた。


「うーむ、このくらいでいいか」


 まだ2曲しか弾いていないけれど、気持ちも落ち着いてきたし、なかなかの手応えを感じたので、もうやめにした。


 霞沙羅としても理由はいい加減とはいえ、オルガンを弾く際は曲が持っているテーマは大事にしているから、異世界の曲でも鎮魂とは、という事を頭に置いている。だから響く人には響く曲になっている。しかしこれでいいのかとは悩む。


 聴いている方のヒルダもたまにはこういう心静まる時間を過ごすのもいいかと思っている。


頭を垂れて、ステージ真ん中にあるギャバン神の像に祈りを捧げていると、側にいた神官が慌てだした。


 なんと神殿間移動の転移装置が光を放ちだしたのだ。


「なんだ、転移か?」


 壇上にいる霞沙羅もどうなるのか見ていると、1人の少女と、1人の神官と、3名の騎士が姿を現した。しかし、無事に転移が完了したというのに、やってきた方も慌てている様子だ。


「プリシラ王女じゃない」

「プ、プリシラ様どうしました?」


 やって来たのはザクスン王国のプリシラ王女と、そのお付きの近衛騎士だ。


「ここのマーロン国王の娘か?」

「いえ、隣の、鎮魂の儀を執り行うザクスン王国の王女よ」

「へえ」

「どうされました?」


 周囲の反応だけを見るとどうも来るという話は来ていないようで、モートレルの神殿の神官が慌てている。


「アリシアが同盟がどうとか言ってたが、王族の人間が勝手に余所の国に来てもいいモノなのか?」

「そんなわけないわよ。だいいち私も聞いていないわ」


 この神殿は、神官の出入りがあるだけでも、パスカール家に事前の連絡をするようにはしている。それが、隣国の王女が来るのを黙っているはずがない。


 顔見知りだし、様子もおかしいので、その「なぜ」を今追求する気はないけれど、ヒルダも事情を知りたいから、余計な口出しをせずに神官に任せている。


「ここはどこです?」

「ここは、フラム王国はモートレルの神殿です」

「え、王都サイアンの神殿ではないのですか?」

「そうですよ。だから我々も驚いているのです」


 プリシラが慌てて、周囲を見回すと見知った顔がある。


「お久しぶりね、プリシラ王女」

「ヒ、ヒルダさん。じゃあここは本当にモートレル?」

「ええそうよ。何があったか解らないけれど、とりあえず落ち着いて、椅子にでも座って」

「は、はい」


 プリシラ達が勧められて椅子に座る中、神官達はひとまず落ち着かせる為に飲料用の水を取りにいった。


 実際に来たことは無いけれど、ギャバン教の神殿だし、他国とはいえギャバン教信者の顔見知りが治める町なので、プリシラ王女は多少落ち着いたようで、それを見て護衛の4名もひとまず安堵している。

 神官が持ってきた水を飲み、一息ついたプリシラが言うには、聖都ギランドル付近の魔物出没が落ち着いたところ、王都を挟んだ反対方向の街道沿いの町で、今度は魔獣が出たという。


その事件は、町の人々が見ている前で、散々暴れた魔獣が灰になってしまうという奇妙な終わりを迎えた。


 であれば両方に関連性はないかと事後の調査に向かうと、そこでまた変な魔獣が発生した為に、その町の神殿から王都サイアンに避難したのだが、なぜかモートレルに転移したのだという。


「だからお付きの方は鎧に傷が入っているのか?」


 魔獣の攻撃からプリシラを守ったのだろう。一人の鎧の肩当てに大きくひっかき傷が入り、もう一人の楯には火に炙られたような跡がある。


「サラマンダーか何かかしら」


 お、なんかすごい名前が出てきたな。と思ったけれど、王女と領主の前なので、霞沙羅は黙っていた。


しかし気になるのは「ゴブリン」とか「サラマンダー」とかいう名称とキャラクターが二次元の創作物としてなぜ地球にあるのかということだ。


 地球にはそんな生き物はいなくて、物語や伝承に端を発するものだ。


 それでもって幻想獣が発生してしまうが、それは別の話で、この前もモートレルの近くの森で色々な魔物や魔獣と出くわしたけれど、ほぼほぼゲームなどのイラストと大きくかけ離れていない。


 なぜ存在しない世界で、存在する世界と同じ創作物があるのだろうか?


「アリシアがナポリタンやらカレーをこっちに持ってきてるのと同じなんだろうな」


 いつかの時代にこっちにいた人間が地球に来て、そこで創作物として概念を伝えたとかそういうモノなのだろうか。霞沙羅もやどりぎ館に住んでいるのであり得ない話ではない。


「あの方は何者なんです?」


 ステージ上からニヤニヤしながら話しを聞いているだけの霞沙羅が気になったのか、プリシラはヒルダに質問をした。


 今日の霞沙羅はジャケットとジーパン姿なので、ラシーン大陸では見たこともない服を着ている。


「アリシアが管理している下宿に住んでいる、向こうの世界の英雄さんなのよ。鎮魂の儀でオルガンを弾いて貰えないか、と教皇様に提案されている人ね。さっきまで鎮魂の曲を弾いていたの」

「異世界人同士とはいえ、一国の姫の前じゃこの位置状況は良くないか…」


 無関係とはいえ王族を無意味に見下ろすのも良くないか、と霞沙羅はステージから降りてきた。


「それで姫さんはどうするんだ? 町も心配じゃないのか?」

「そうね、でも事故が起きてるこの状況で神殿の転移装置を使うのは危ないわね」

「急いで帰るならアリシアかエリアスを呼んだ方がいいぜ」

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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