内緒のオペレーション -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
箱を持って逃げてきた女性は寺院庁の人間だと解り、一ノ瀬寺院で一旦預かる事になった。後々、寺院庁の北海道支局から引き取りにやってくるそうだ。
さっきの半幻想獣に跳ね飛ばされた数名の神官達は、怪我はしたけれど軽傷で、大事には至らなかった。
襲撃してきたのが幻想獣だったいう事で一応霞沙羅にも連絡をしたら、転移まで使ってやって来た。
ただ、霞沙羅が慌ててやって来た理由はその事ではなく
「警戒までして待ってやってたのに駐屯地に来なかったぞ、この野郎」
「それはまあ方向が狂ったか、何かだと…」
霞沙羅は半分呆れながら空地桜音に連絡をとった。
「このままでは逃げられないと判断して、一ノ瀬寺院の反応を見つけたのでしょうね」
たどり着いた時の状況は聞いたけれど、確かに小箱を取られるワケにはいかなかったから、逃げ込むのはあそこしか無かったのだろう。
「まあお前の所のヤツは寝込んでるし、今はいいし、結果オーライだが、いちいち伽里奈を巻き込むなよ。現場にはホールストンのシャーロットもいたんだぞ」
「その件については後日にでも」
「あいつはあれが何なのか確実に勘づいてるぞ。その辺にかけては私と同じレベルかそれ以上の人間だからな」
「解ってます」
「何も言うなといってはおくがな」
霞沙羅は電話を切った。
当の伽里奈は箱については黙ったまま、というか触れないようにしている。だからこそ、中身が何なのか、高位の魔導士の感覚からその取り扱いを、周囲の反応から読み取っているようにしか見えない。
「シャーロットも災難だったな」
「でも伽里奈がいるし、私もロンドンでは多少の経験はあるのよ」
「悪いがこの話は軍の管轄じゃねえから、私から詳しい話は出来無い」
「ホールストン家だから解ってるわよ。王家の宗教管轄機関にも秘密があるし、それには魔術師協会も触れないことにしてるのよ」
「賢明な配慮に感謝するぞ」
「じゃあ霞沙羅さん、この指輪は返します」
伽里奈は右手につけていた一つの指輪を外して渡した。
つい先日、何かあった時に撮影しろと渡しておいた魔工具だ。こういう事は軍の部下達では無理だし、伽里奈くらいでないと頼めない。
本当はこの用途では無かったけれど、渡しておいてよかった。
「この後の桜音さんとの話で必要でしょう?」
これは解ってるなと確信した。
「助かるぜ」
霞沙羅は指輪を受け取った。
やがて寺院庁の人間がやって来て、小箱と女性を回収して去って行った。
「新城大佐、あれって何だったんです?」
寺院が完全に蚊帳の外状態で話が進んでいくので、一ノ瀬がおずおずと聞いてきた。
「お前も一ノ瀬の人間なら解るだろ、空地家の秘匿事項だ。いち軍人の私は知らん」
「そ、そうですか」
気持ちは解るけれど、寺院に属する人間なら触れてはならない事があることをここで学ぶしかない。
「とりあえず無事でよかった」
霞沙羅は一ノ瀬と藤井の頭をそれぞれ労うようにポンポンと叩いた。
* * *
起こった事態が大事なので、霞沙羅は早速寺院庁から来てくれと連絡があり、乗り込んでいった。
勿論、この世界の人間ではない伽里奈には声はかからなかったし、無理に連れていくことはしない。
寺院庁の奥、空地家の人間が使用するエリアの、とある窓も無い部屋に案内されて待っていると
「やったのはまた伽里奈君でござったか」
吉祥院もやって来た。
「元々は私に話が来たんだぜ。それで駐屯地で待ってたら、寺院庁のヤツがたまたまあいつがいた一ノ瀬の寺院に行きやがった」
「ある意味正解を引いたのでござるな。あるいは天啓でもあったのかもしれんでありんす。何と言ってもやどりぎ館の管理人じゃん」
「寺院庁の奴らは館に住む権利もねえし、保護対象じゃねえだろ」
とはいえ、放ってくのも良くないという理由でやどりぎ館の運営者がお願いしたのなら仕方がないかもしれない。
「しかしこのブツで伽里奈君はまたランクアップでござるな」
「もう面倒くせえからA級にしてやれよ」
伽里奈が渡してくれた指輪にはあのニコイチ幻想獣との戦闘の映像が記録されている。先日の狐面の2人組とまた遭遇した場合を見越して渡していたのに、意外な活躍をする事になった。
相変わらず、あの頼りない外見に見合わない戦闘力を発揮しているけれど、そのおかげで珍しい現象を映像に残すことが出来た。これにはさすが異世界の英雄といったところ。
偶然の出会いとはいえ、伽里奈は今回の相手に対して、とある事を断定しているので、魔術協会としてもとてもいいデータが手に入った。
「ヒントは話しちゃってるから、箱の中身も勘づかれたみたいじゃん」
「冒険者とはいえ、最終的には神と戦ったヤツだぜ。その神を自分のモノにしているし、普通の感覚じゃやってけないだろ」
あの日はやどりぎ館に帰り、霞沙羅は映像を見ながら伽里奈に説明を求めた。
話しをする中で、伽里奈は襲ってきた女性を「半分人間、半分幻想獣」と断定した。動きもおかしいし、伽里奈は実際に相手を掴んだり素手で殴ったりしているので、そこでどういう存在なのかを解析したようだ。
単なる剣士と違って高位の魔術師だけあって、相変わらず抜け目がない。後に英雄となる6人パーティーのリーダーをやってただけはある。
稀に知恵を備えた幻想獣が人間の姿に化けることはある。でも今回はその解析の通り、人間と融合している。取り込まれたのか、手を取り合っているのかまでは解らないけれど、こちらも前例があり、レアケースではあるものの、否定は出来ない。
「すみません、お待たせしました」
時間より少し遅れて、空地桜音と、数名のベテラン神官がやって来た。この神官達は、空地家を守護する存在で、一般の職員ではない。
「早速話しをさせて頂きますが、あの小箱の中身はお二人もご存じと思いますが、50年前に寺院庁で独自に封印した、極めて強力な幻想獣です」
「厄災戦の時にお前が口を滑らせたヤツだろ。バラバラにして日本各地に埋めたとかいう」
「今回はその一つです」
実際に寺院庁の表のデータにも、魔術協会にも存在しない幻想獣が50年前に出現して、空地家が討伐を行ったけれど、活動休止状態にする事が精一杯で、幾つかにバラして、秘密裏に日本国内に封印し、退治出来るようになるまで弱ることを待つことにした。
ただ、封印場所は空地家に関わる一部の人間しか知らされておらず、霞沙羅と吉祥院もそこは一切知らない。
「お前達が掘り返したわけじゃないんだろ?」
「各パーツは常にモニターはしていますが、まだ手が出せる状況ではないので、しばらくは掘り返す予定はありません」
「桜音君、一ノ瀬寺院に駆け込んできた女性はどういう経緯で小箱を持っていたんだい?」
「封印の障壁に干渉する存在があったので、人を行かせたら交戦状態になりまして、箱の奪い合いの結果、新城さんの所が安全かと思いまして」
霞沙羅は今回の件についてある程度の情報を知っているので、誰よりも信用出来る相手だった。
「方角的にニセコか積丹の山中にでも置いてたのか?」
「その辺りはお話し出来ません」
この2人は信用出来るけれど、だからといって特別に教える事は出来ない。この辺の桜音の変化は空地家の一員として成長したんだなとは感心出来る。
巻き込んどいてそれはねえだろ、とちょっとイラッとはするが、大局を考えるとそれでいい。
「この後場所は変えるだろうからいいが、私の偉大なる弟分様が色々とデータをもたらしてくれたぞ」
「今回はアリシア君がワイルドな戦い方をしたから、顔がバッチリ映ってるねえ。ハーフ&ハーフだからホントにこの顔をしてるかは保証出来ないけど、幻想獣は姿を変える事があんまり無いから、この姿でいるとは思うねえ」
「まずはその顔で追ってみますよ」
「気をつけろよ、撮影しているのが伽里奈だから相手が弱そうに見えてるだけだからな」
寺院庁から10人を派遣し、結局1人だけが生き残ったという結果だ。
伽里奈は殴ったり掴んで投げたりしているけれど、普通の人間にはとてもではないけれど出来ない。
「また面倒くさいことになってきたぜ」
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。