内緒のオペレーション -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈とシャーロットの2人は一ノ瀬寺院にやって来た。
先日のすすきの事件で伽里奈の大立ち回りを目の当たりにしたので、一ノ瀬と藤井がちょっと相手をしてくれと言ってきた。
でも伽里奈も2人に頼み事をしているし、A組の状況も知りたいので、その交換という意味で相手をすることにした。
ついでに日本の寺院が見たいとシャーロットもついてきた。
「シフォンケーキっていいわよね」
今日はプレーンのシフォンケーキを焼いて持ってきた。フワフワでほんのり甘く、派手なわけではない、お茶と一緒に食べれば丁度いい具合の食べ物。
「やどりぎ館のは夜に皆で食べようねー」
先に一ノ瀬と藤井の2人が住んでいるマンションに行って、部屋にシフォンケーキを置くと、寺院に移動した。
一ノ瀬寺院の戦い方としては、宗教組織なので神聖魔法をメインに使いつつ、魔術も使用するといった二刀流。
警察組織に協力する関係から人によって、幻想獣を相手にするなら神聖魔法を、魔術師を相手にするなら魔術をメインとする人間に別れていて、一ノ瀬と藤井はまだ若いので、ある程度の腕前になるまでは、両立する方針になっている。
そして今日教えにきたの剣技については護身用だ。
剣については、多くの人間が普通の、何の力も乗っていない剣を持って、相手によって神聖魔法か魔術を付与して、擬似的な聖剣や魔剣として使っている。
「で、どういうシチュエーションでやるの?」
「二対一でやってもらえる? 私達って二人一組でやってるから」
「はーい」
伽里奈は練習用の木刀を借りて、早速二対一でやり始めた。アンナマリーとの練習の事もあったので3分毎で区切るようにして、シャーロットに声をかけて貰う事にした。
この2人は寺院に所属する現役の神官よりも一歩引いた立場だし、今は魔術の勉強の方をメインにしているので、見習いとはいえ、祖父や父に稽古をつけてもらって騎士団の一員をしているアンナマリーの方が強いな、というのが印象だ。
それでも、並の学生に比べるとある程度は度胸も戦闘経験もあるし、息もあっている。二人組でやっているなら悪くは無いと思う。
「か、伽里奈アーシアって、ちょっと強すぎるんですけど」
一ノ瀬が言うように、数セットやって、息を切らせている2人に対して、伽里奈は汗一つかいていない。
動きも全然無駄が無くて、2人がかりで挟み込んでも、なぜか見えていないはずの死角になる位置も把握されていて、危なげなくあしらわれてしまった。
「でもまた相手をして欲しいわ。なんていうか、遠慮なく打ち込みが出来そう」
「デザートも持ってきてくれるし」
「あんたねー」
「でもシャーロットちゃん、羨ましいな。伽里奈アーシアのデザートが食べられて」
「毎日ってわけじゃないのよ」
「それでもよ、それでも」
シャーロットに対してはこの2人も最近はホールストン家という部分はあまり関係なくなってきているから、館で何を食べているのかとか、札幌にはどういうお店があるのかとか、そういう話で盛り上がってきた。
やっぱり食べ物の話は分け隔てなく出来ていい。
シャーロットは日本での料理に興味津々なので、秋田出身の2人との話も弾んだ。
「横手やきそば、今度作って」
「目玉焼きが載ってるだけでしょ?」
「ソースが違うのよ。幾つかバリエーションもあるし、伽里奈君にメールを送っておくわ」
何だったら自分達のも作って欲しいという打算もある。そういえば久しぶりに食べたい。多分伽里奈なら上手く作ってくれそうな気がする。
「はーい、おねがいねー…、おお?」
伽里奈だけが気が付いたけれど、なぜか上空からというか、背後の山からどういう事か人が落ちてきているので、位置を調整して、木の枝をバキバキと折りながら落ちてきた人物を器用に抱き留めた。
「うわ、怪我してるよー」
20代半ばくらいの女性が、登山者のような服装を着ているけれど、所々から流血していて、血まみれというわけではないけれど、全身に怪我とか火傷がある。
傷からして熊に襲われたというわけではない。相手は武器を持った人だ。
伽里奈は近くのベンチに寝かせて、一ノ瀬と藤井を呼ぶと、2人も慌ててやって来た。
「な、何なに?」
「怪我をしてるからとりあえず治癒魔法を掛けてくれない? ボクもシャーロットも出来ないから」
「う、うん」
一ノ瀬は治癒魔法を使い始め、藤井は楽になるように服をちょっと緩めた。そんな事をしていると、コート下の上着の中から小さな箱が一つ転げ落ちたので、伽里奈は拾い上げた。
「寺院庁と空地家のマーク?」
拾い上げた箱はやや古ぼけていて、表面に2つのマークが刻印されていて、地球の神聖魔法は使えないながらも、知識だけはある伽里奈が手放したいくらいの悪寒が走った。
この箱は中にある何かを封印している。
「ど、どうしたの伽里奈?」
「シャーロット、結界の準備しててね。キミの結界なら並の相手に破られることはないから。ボクは範囲に入れなくていいから、一ノ瀬さん達3人を範囲に入れてね。自分達だけ守ってね。ボクを援護しようとか考えなくていいよ」
「は、はい」
伽里奈が急に真面目な口調で喋り始めたので、シャーロットは一ノ瀬達の側に移動して、杖を持って、結界の準備を行う。
その間に伽里奈は小箱を懐に入れて、持ったままだった木刀に
「{結晶剣、雷}」
雷の魔力を結晶化して纏わせた。
そこに山から滑るように何者かが走りよってきた。
運の悪いことに、直線上にいた、自分達とは別に鍛錬をしていた神官の人達が跳ね飛ばされた。
その何者かは真っ直ぐに伽里奈に突進してきた。
「結界を」
伽里奈は短く指示すると、間髪入れずにシャーロットが結界を作った。そしてその人影が振り下ろしてきた斧を伽里奈が受け止めた。
「!」
速度を乗せて渾身の腕力を込めた一撃を頼りなさそうな外見の伽里奈に余裕で受け止められて、フードのついたコートを着たやや大柄な人物は一瞬後ろに下がったが、また斬りかかってきたので、伽里奈も迎え撃った。
雷の力の結晶が斧と打ち合ったので、強烈なスパークが発生した。斧自体はただの斧だが、なにがしかの力で強化されているから、雷の魔力が斧を伝って相手に届いて感電することは無かった。
「大人しくその箱を渡せば、この地を去りましょう」
伽里奈は右手にはめている、指輪を起動する。
「やっぱり目的はこれかー」
懐に入れたあのヤバい感じのする箱がこの人物の目的だろう。だから伽里奈はそれとなくシャーロット達のいる位置からずれるように移動した。
「やだねー」
こうすれば巻き込まれることはないかもしれない。
「警告はしました」
「これを渡したら今は帰るんだろうけど、この中の者はいずれボクらの所にも巡り巡ってくるんでしょ。だったら渡せないし、出来たらキミを逃がしたくないねー」
問答無用で斧で斬りかかってくるので、伽里奈も今は何も考えず迎撃を行う。
斬りかかる度に雷のスパークが起きる。
フードからチラリと見える顔、服装と腕や足を見るに相手は女性のようだが、腕力も速度も人間離れしている。
でもそれは先日の狐面の女性とは違う、人外のモノ。
周りの木の幹を使って、立体的に攻撃してくるその身のこなしは、巧みに浮遊的な、軽い重力制御を行っていて、通常の人間の軌道とは違って、翻弄しようとしてくる。
「でもねえ」
こういう事ならライアの方が余程厄介だ。
上下左右を跳び回り、後ろに回り込もうとも慌てることなく、伽里奈は斧の攻撃を余裕で受け止める。
そして突っ込んでくる女性の攻撃を受け止め、左のストレートを決める。
ドンッ、と折れるほどの勢いで木の幹に叩きつけられたその体を追いかけて、胸ぐらを掴んで、その体を乱暴に、地面が凹むほどの力を込めて叩きつける。
さらにそこに剣を振り下ろすと、その体はスーッと横にスライド移動し、空に飛び上がった。
「{氷刃、乱}」
伽里奈の手から大量の氷の刃が乱れ飛ぶが、相手は体の周囲に障壁を張って防いだ。
《さすがにここじゃあねえ》
寺院の境内だし、近くに人はいるしすぐ側は住宅街では、あまり大きな魔法は使えない。
「妙な気配がするけど半分人間じゃないね。この箱に何の用なんだよ」
目の前にいるのは人間の女性に幻想獣成長型が同居している。纏っているといってもいいかもしれない。
幻想獣は結構な成長具合のようで、力だけでなく知性まで備えている。
これを単独でやっているのか、それとも元になっている人間と、別にいる何者かで組んでやっているのかはまだ情報が少なくて解らないけれど、怪我をした女性が持ってきた箱を渡せばいずれは大きな騒動になり、小樽にも影響が出かねない。だから伽里奈も無関係ではない。
「それは必ず貰う」
想定していなかった強さを持つ伽里奈に対して、これ以上は無理だと判断した半幻想獣は、憎々しげな表情を浮かべながら、攻撃をやめた。
「どうかなー。ボク一人に苦戦しているようじゃ、無理だと思うよー」
「必ず奪う」
空中に止まったままだった幻想獣は、悔しそうに言うとどこかに飛んでいった。
《もー、いつも環境のせいで中々上手くいかないなー》
ここにいるのがヒルダ達だったり霞沙羅だったら、もうちょっと周りを気にせずに殲滅させたんだろうけれど、それは叶わない。別の怪我人も出てしまっているし。
「シャーロット、結界はもういいよ」
「はい」
伽里奈の合図でシャーロットは結界を消した。
日本の事情に巻き込んでしまったけれど、今日はシャーロットがいてよかった。
「一ノ瀬さん、寺院庁か空地家に連絡取れる? 変な小箱が盗まれてますよって」
「う、うん」
「後は怪我人だけど」
治癒魔法で怪我は治ったとはいえ、大夫体力を消耗した女性は気を失っているし、さっきの半幻想獣に巻き込まれたのが何人かいたはずだ。
「またこっちの事情かー」
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