内緒のオペレーション -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日の高校での実習授業はフィールドワーク。基本的には魔術の触媒や薬の元になる魔術素材を集めるのが目的だ。
小樽魔術大学の敷地は広く、キャンパスやグラウンド、演習所として整備されているのは実にその半分にも満たない。
あまり整備されていない森になっているエリアがとても多いので、この授業は月に一回程度行われている。
フィールドワークを行う区域は決められていて、舗装はされていないけれど、道はちゃんと整備されているから安全に授業を行う事は出来る。
ただ、さすがに今年度の授業は今日でおしまい。森全体に雪が積もっているので、歩くのはともかく、素材を探すのが難しくなっている状況だ。
なので今日はそれなりに雪が積もった森の中を歩くのが主目的で、採集は出来たら行う程度。
でもこの状況を体験出来るのも、小樽校ならではと言える。
伽里奈とシャーロットも今日は座学や実技ではないので、防寒装備を調えて雪の降る中で参加している。
「わあ、あれなに?」
シャーロットは森の中でキョロキョロしている茶色の小さな動物を見つけた。
「シマリスだよ。学校の敷地だけど、森の中だからねー」
「んー、小っちゃくてかわいい」
シマリスは急に走り出して、目の前から去って行ってしまった。
「館の裏は小山っていうか森になってるから、たまに庭まで来る事もあるよ」
「えー、そうなんだ」
生徒の安全の為にこの区画は柵で囲ってあって、大型の野生動物が入ってくることは無いけれど、小さい動物や鳥なんかはどうしても入ってきてしまうから、探索中に今みたいな出会いはある。
なので触らないようにとか、エサをあげないようにとかのルールがある。
「すごい学校ね」
通っている校内に広い森があって、天然に育っている魔術素材があるのもすごい。
普通は植物園を作って栽培するか、学校からは少し離れた森にある敷地で実習を行う。ちょっと足りないから採ってきます、ができる環境にはない。
シャーロットの学校もロンドンの市街地ではないにせよ、企業があったり、人が多く住んでいる場所にあるから、知れば知るほどこの学校の環境は面白い。
「単に田舎にあるだけだぜ」
中瀬は小樽生まれなので、大都会生まれのシャーロットの言葉に苦笑いをするしかない。
この学校は小樽という土地柄、校内に高低差があってちょっと使いにくい。でもシャーロットのいる学校は平地にあるので、歩きやすそうだと思っている。
それに、寒い土地柄だけど雪はこんなに積もらない。単純に魔術を学ぶのなら、シャーロットのいる環境の方がいい。
「一長一短だねー」
「さすがにこの環境はレポートには書けないかな。無いモノは無いもの」
魔術の勉強をするには面白い場所にあるけれど、今あるロンドンの学校に、じゃあ裏山を作りましょう、とかは不可能なので、書くとすれば、こういう環境の学校も国に一つくらいはあってもいい、くらいな補足的な書き方になる。
「あの鳥はなに?」
木の枝に白い3羽の小鳥が止まっている。
「あれはシマエナガ」
「かわいいー」
冬は真っ白な羽毛に包まれ、正面から見ると絶妙なパーツ配置の顔をしているので、ここ数年で一気に人気者になった鳥だ。
「そういえば素材探知用の魔法って使わないの?」
生徒達はただただ自分達の目を頼りに森の中を確認しているように見える。それだと効率が悪い。
「あれはまだ無理だよ。2年生からかなー」
とはいえ目で覚えるというのも大切だ。だからA組も1年生の間は探知魔法は教えられていない。
逃げる気も無いシマエナガに見送られながら、伽里奈達は森の中を進んでいった。
* * *
霞沙羅が駐屯地の執務室で面倒くさい事務仕事に追われていると、内線が鳴った。
「ん、何だ?」
「新城大佐、空地家の桜音という方からお電話です。お繋ぎしてよろしいでしょうか?」
「大僧正の孫だぞ。面倒くさいが繋いでくれ」
厄災戦では最前線で大活躍した霞沙羅の顔は広いとは知っているけれど、大僧正の家の人間と聞いて、内線の向こうの事務員が慌てた。
ありそうでなかなか無い名字だけれど、音の響きが「吉祥院」と違って普通に聞こえるから、まさかのそこと双璧をなす人物からの連絡だった。
「慌てるな、普通に回せばいい」
「は、はい」
一旦内線を切ると、もう一度鳴ったので受話器を取る。
「久しぶりです、新城さん」
「お前真面目になったな」
バカ息子とは言っても、グレていたわけでは無く、それなりの力は持っていたので、それに怠けていただけだ。
今は次期大僧正である父親の元でしっかり勉強をしていて、口調も大分変わった。
厄災戦では英雄と呼ばれるような活躍は出来なかったけれど、霞沙羅にとっても戦友と呼べる人間の一人だ。
「ははは、おかげさまで。ところで今は周りに誰もいませんか?」
「部屋には私だけだぜ」
「よかった。一つお願いがあるのですが」
「軍人の私だぜ? 神官のお前が何の用だよ」
「北海道の話なんです」
「面倒事かよ」
依頼内容としては、寺院庁のマークが入った、とあるモノを持った人間が一人来るから、駐屯地で匿って欲しいという。
ただ、その人間は怪我をしている可能性があるという。
そして当然のように、追っ手がいるので、撃退するか、可能であれば捕縛して欲しいという。
「そいつは何を持ってるんだよ」
「それは寺院庁の管轄です。秘匿事項の為、軍に伝えることは出来ません」
字面だけだと非常に失礼な物言いだが、桜音の言い方に霞沙羅は納得した。
「いいだろう。しかし札幌と真駒内の2つの駐屯地があるぞ。私がいるのは札幌だ」
「恐らくどちらかに…」
何かから逃げているのだろうから、もう連絡は取れないだろう。
「どっちの駐屯地にも言っておいてやる」
「すみません」
「以前に口を滑らせた、パーツの一つを北海道に埋めてたな?」
「ご想像にお任せします」
「住んでみれば選んだ理由も解る。中身は黙っておいてやる」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べて桜音は電話を切った。
「どいつもこいつも私の所に面倒事を持ち込みやがって」
しかしこれは日本全体の問題だ。仕方が無い。持っているモノには触らないよう注意事項に加えておこう。
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