邪龍神様のもう一つの顔 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
少し前に軽く頼まれていたとおり、今日のアリシアはフィーネの世界に連れてこられてしまった。
こちらの世界でフィーネを「フィーネ」と呼んでいいのかと相談したら、本来の名前は「邪龍神ネルフィナ」と言うようで、人間の前にはこの南国感漂う金髪褐色の女神の姿で出ていくことは無いので、本人だという事は絶対に解らないという。なのでアリシアがこの土地に深く関わることも無いだろうから、今後も「フィーネ」でいいと言われた。
フィーネ名義では年齢不詳の放浪の賢者をやっていて、いくつかの国家に時々顔を出しては、未来を見通す目で国家に助言を与えたり、魔術師の組織と関わったりと、人間社会を渡り歩いている。
さらに、時々弟子を取って魔術を教えたり、「邪竜神ネルフィナ」案件ではない別の大事件では、勇者とか英雄とかいった人間に助力をしたりと、普段は人間にそれとなく手を貸している。
あくまで、人間が調子に乗らないように、定期的にお仕置きをしているだけだ。
前回「邪竜神ネルフィナ」が暴れたのは百年と少し前で、やどりぎ館に来る前には何人かの弟子を取って、魔術師として養成していた。
今日会うのは、今のところ一番新しい弟子の人。
一番新しいと言っても40年前に免許皆伝となった、現在はもう60代の女性。セネスタ王国という国の魔法騎士団のトップに君臨している偉大な魔術師だ。
「小僧よ、わかっておろうな」
いつも通り黒いドレスを着たフィーネに腕を組まれた状態で城下町を歩いて行くアリシア。
わかっている、とはこの世界での自分の立場。
フィーネは今、異世界から紛れ込んできた少年を元の世界に帰してやるまで、アリシアを自分の世話係として置いてやっている、という状態。これを演じろと言っている。
フィーネからはこの世界の魔術もある程度は教わっているけれど、演じる役回りはちょっと剣の腕が立つ程度の、世話係。
今日も女子の服を着ているけれど、あくまで男。髪もポニーテールにしている。
「わかってまーす」
今日の予定はこの弟子への挨拶と、異世界人ならではのこの世界には無い料理の提案準備である。
文明としてはアシルステラとほぼ同じなので、食糧事情もそれほど変わりはない。
「フィーネさんはどこに住んでることになってるんです?」
「こことは別の、ある山中に霧に包まれた塔を建造し、フィーネはそこにおることになっておる。霧が晴れる…、我が招かぬ限り塔は見えぬし、入ることも叶わぬがな」
「人と交わる為にしっかりキャラ作りしてるんですね」
「小僧の世界には、こういう神はおらぬようじゃな」
「こっちだってフィーネさんくらいしかいないでしょ」
「そうでもない」
「えー、そうなんですか?」
世界が違うと神様の立ち位置というか役割が違うんだな、と思った。そもそもあえて邪神の役割を持っていたりとか、聞いたことが無い。
「ところで世話係と腕を組む意味はあるんですか?」
「我の物じゃという証じゃ。良いではないか」
「いたた」
また腕をつねってきた。
「今日はあの小娘女神の許可を得ておる」
なんかこう、急に女子っぽい動きをする時があるんだよなあ、と思いながら、今回はこれまでの恩返しでもあるので、初めてのフィーネからの大きめな依頼を遂行することとしよう。
* * *
フィーネの賢者としての知名度はかなりのもので、お城に到着すれば、入城前にちょっと待たされたけれど、丁寧な対応で中に通してくれた。
このお城は王様が住んでいるのではなく、ある障害からの防衛拠点としての性格があるお城。
町の近くに魔物が湧く渓谷があり、不定期に湧き出してくるので、その対策本部がある。
残念ながら現在がその発生時期なので、お城は臨戦態勢にある。
応接に通された2人のところに鎧姿の立派な騎士2人を連れた、一人の女性がやってきた。
「お師匠様、お久しぶりにございます」
「元気にやっておるか、と挨拶をしたいところじゃが、そういう時期でも無いようじゃな」
「折角お越しいただいた所、申し訳ありませんが、今は大したおもてなしも出来ず」
「お主のせいではあるまい。そういう時期なのじゃ。ただの顔見せ故、すぐに帰る。お主は自分の仕事を優先すれば良い」
当然フィーネなので、魔物出現の合間を狙ってやって来ている。
ただ、この弟子を休ませてやりたい気持ちもあるので、早めに本題を告げて、城を出ようと思っている。
「その隣の少女は、新しい弟子ですか?」
「こんな姿ではあるが小僧じゃ。こやつは弟子では無く、我の世話係として置いてやっている者じゃ。どうも異世界から来たようでのう、今はこの小僧を元の世界に戻す事を目標としてその方法を見つける研究をしておる」
「異世界人ですか?」
「こやつの世界はなかなかに文明が進んでおって、よい料理知識を持っておる。折角なので帰る前に、この世界に料理をもたらせぬか、今はこやつが使える食材がないか、各地を回っておる」
「そ、そうなのですか」
「なので今日は、この城下町の市場を見てから塔にでも帰る予定じゃ。お主らにとっても折角の休息時間であろう。今日は挨拶だけじゃよ」
「本来ならば歓迎したいところですが…」
休息と言ったように、この魔術師も、ついている騎士も、やや疲労がたまっているように見える。日々戦いが繰り広げられているのだろう。
「よい。料理が決まればここを優先して、何か作らせよう。こんな時こそ、力の出る料理が必要なのじゃ」
とフィーネはソファーから立ち上がって、小さなテラスに出た。やや離れた所に問題の渓谷が口を開けている。
「しかしこれではのう」
パチンと指を鳴らすと、上空から幾筋もの光線が、広域にわたってゲリラ豪雨のように降り注いだ。
「根本の解決には至らぬが、三、四日は休み、次に備えるとよい」
やっぱり師匠はすごい。
魔術師達は頭を下げて、フィーネ達を送り出した。
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