国へのご報告など -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日も外で実習の授業は、伽里奈が雪のゴーレムを作って、グラウンドで練習組とそれをターゲットにしての2組に分かれての内容を引き続き行う事になっている。
ゴーレムに打ち込むのは楽しいけれど、落ち着いた状態での基本に返った魔法の実践も必要だ。だから前半後半で入れ替えで行われている。
今日のお隣は、2年B組。普通のクラスだけれど、向こうは上級生で初級魔法を使っているわけで、これもまたゴーレム作りのいいデータ取りになるので、協力して貰っている。
簡易結界での魔法練習も始まったけれど、一人当たりの練習回数はまだまだ少ない。だから期末試験が近づいてきているこの時期に、少しでも多く実技対策をするべく、どちらの生徒達もいつもより真面目に授業に取り組んでいる。
「シャーロットはゴーレムがおかしな動きをしないように見張っててね」
攻撃は設定していないし、動作範囲も決めてあるし、それほど動きも速くないので、事故は無いと思うけれど、それでも万が一の事があれば、シャーロットに破壊して貰うように頼んでいる。
「私もゴーレムを作りたい」
代用品の為に衰退してしまった技術なので、基本知識だけはシャーロットにもある。けれど応用技術が無いようなので、この際に教えておきたい。
そうなると、この実習授業は必ず複数の組が同席するので、シャーロットに1年E組を任せて、伽里奈は別の組を、という事も出来るようになる。
それに勉強で留学しに来ているから、卒業レポートの一環で、学校では教えてくれない技術をマスターさせて国に返してあげるのも伽里奈の仕事でもある。シャーロットは勉強の為に留学しに来ているのだから。
「だったら家でやろうよ。結構雪もたまってきてるし」
「絶対よ」
シャーロットはこっそりとこのゴーレムの術式をレポート用のメモに取っているけれど、伽里奈もそれは予想済み。
一から教えてあげなきゃならないような子じゃないから、そういう自主的な行動は歓迎だ。
家に帰っておさらいと細かい調製部分の話しをして、実践させてあげよう。
「伽里奈君、ゴーレムがちょっと硬すぎるみたいよ」
2年生の先生からゴーレムへの注文が入った。
2年生だしと、堅めに設定したけれど、なかなか壊れていない。
「ちょっと調整しますね」
一旦ゴーレムを止めて、パラメーターをいじくり、再起動させる。
「これでどうですかねー」
2年B組の生徒の火炎魔法が当たり、先程よりも大きな欠損が発生する。
「いいんじゃないか、1年」
2年B組は今日始めてのゴーレム体験になるけれど、これまで出来なかった授業なので、全員楽しそうに魔法をぶつけている。
とりあえずこの冬は北海道にいるというアドバンテージをたっぷりと味わって貰えるといい。
ゴーレムはいずれ教師達にも作れるようにフォーマットを作って、伽里奈のいない授業でも利用出来るようにするという課題も出来たので、早いウチに設計を確定させる必要がある。
それにはまず安全性の確保が課題だ。
やがて、2年生用のゴーレムが崩れ落ちて歓声が上がった。
E組の方も無事に破壊が出来たようで、こちらも皆でキャイキャイ喜んでいる。
「確かに、目標設定と達成感は必要かもね」
2年の先生もスノーゴーレムを見るのは今回始めてだから、中々面白い試みだと感じてくれている。
いずれ多くが戦いの場に出ていくのだから、VRでの疑似体験も悪くないけれど、遊び感覚であっても体を動かしてリアルな実体験をさせておく方がもっといい。
「おーい、もう一個頼む」
「はいはーい」
伽里奈も耐久力の調整の為、手元のメモで術式の調整を行い、再度2体のゴーレムを作成した。
* * *
放課後は、またゴーレムの件で教師数名と今日の結果を基に簡単な打ち合わせ。
シャーロットも勉強の為にと付いて来ているけれど、来た当初に比べて教師達もホールストン家のお嬢様に対しての緊張が薄れてきている。
新城大佐の息がかかった伽里奈がしっかり面倒を見てくれているというのもあるし、性格も明るいし、意外とE組に馴染んでいるので、心配が杞憂だったと思っているようだ。
授業中は反抗も批判もしないし、静かにしてくれている。多少、授業を無視した伽里奈へ相談をする声は聞こえるけれど、それはレポート作成の一環として流している。
そして今日の話し合いでは、スノーゴーレムの形をどうしようかという話題になった。
教育上、人型でいいのか、動物にするのか、メジャーな幻想獣にするのか、マスコットキャラでも作るのか、どれがいいのか。
「とにかく動くものに当てて、壊す事という達成感に行き着くことが重要なので」
「なぜ今はあの形なんだい?」
伽里奈の育った世界感的にあれが浮かんだのだが、それは内緒。
でも鎧の騎士はちょっとレトロだ。
「人間的であって、顔が見えないので人間性がないじゃないですか。何となく硬そうですし、ゲームとかマンガとかでも馴染みがあると思うんですよ」
「ウチの国ならそれでいいと思うんです」
シャーロットも話に入ってきた。
日本なら伝統の鎧武者像があるけれど、あれはなんか怖い。
「熊とかはどうだい? 可愛くするとか」
「可愛いクマがだんだん崩れていくのはなんか怖いですね」
「雪だるまがいいかもしれません」
「ドラゴンとか?」
「アリクイとか、こう両手を広げて構えるじゃないですか」
「生徒から募集もいいかも」
霞沙羅との野望の為だから、黙っているけれど教師達も乗ってきてくれるのはいい。
教師達も良い教育を提供する改革をしたかったのかなと感じる。
まだゴーレムでの授業を体験していないのが大半なので、雑談レベルで終わってしまったけれど、教師達もやる気があるのは解った。この辺は随時、霞沙羅に伝えておくことにしよう。
勿論吉祥院にはだんまりで。
* * *
「クマちゃんは無いわ」
「まあでも、強くて大きいってなると、ねえ」
「私は鎧の騎士でいいと思うわ」
館に帰ってきて、夕飯の準備前にちょっと時間をとって、シャーロットへのゴーレムの個人授業を始めた。
「かまくらとかいうのはまだ作らないの?」
「あれはもう少ししてからじゃな。まだ雪が足りん」
わざわざテラスに椅子を出して、フィーネは温かいココアを飲みながら座っている。今は晴れているから、夕日に沈む町を見ているそうだ。
「三日後にはまた雪じゃ」
「ちょっと雪を使いますよ」
「庭のモノであれば勝手にやるとよい。いずれ手に負えんほどの雪がたまるであろう?」
フィーネの発言はごもっともなので、先日降った雪が隅っこに積まれているので、それを使う事にした。
シャーロットにゴーレムの術式を渡して
「出来上がる魔術基板は書いてあるとおりだよ。その開いているところに行動パターンと姿とパラーメーターを組み込んでいくんだ」
「ゴーレムってある程度フォーマットがあるような気がするわ。それとは違うのね」
「こっちの世界では廃れちゃったからねー。横浜校の本を見たことがあるけど、本も少なかったから、参考にならなくて面白くなかったなー」
やっぱり地球は機械が充実しすぎているのが魔術的には悪い影響だと思う。
「ボクの世界では人ぞれぞれのフォーマットを作って、用途によって調整してるんだけど、ここの基礎部分以外はバラバラだね。あ、この術式はこっちの世界用に翻訳してあるからね」
「は、はい」
じゃあこのゴーレムは何なのだろう。自分が知っている魔術基盤とは違う。伽里奈は何を教えようとしているのだろうか。ちょっとパパやグランパに訊いてみたい。
でも今日もちゃんと動いていたのだから、こちらの世界の魔法として成り立っているという事だ。
「ここの箇所は、行動とパラメーター部分はこのメモ通りにやってね。応用はまた今日とは別の機会に説明するよ。姿は自分で作ったイメージを当てはめてね」
「はい」
学校で実際にゴーレムを作った経験はあるけれど、今日のは別の術式。
今貰った伽里奈のメモ内容は限られているので、本当に基本のゴーレムしか作れないけれど、これは面白そうだ。
伽里奈に指定された魔術基盤を構築し、ゴーレムのイメージを当てはめる。
「{立てゴーレム}」
雪の山に魔法を撃つと、ぐりぐりと形が変化していき
「やっぱりー」
部屋に置いてあるクマのぬいぐるみそっくりの姿になった。最初から負担がかからないようにサイズは指定してあるから、全高は60センチくらい。
「なんか良いのが思い浮かばなくて」
「別に何かに使うわけじゃないし、練習用にはいいと思うよ」
「伽里奈はゴーレムを何に使ってたの?」
「冒険者だったから、人間そっくりに作って囮とか脅しとか、デコイとかが多かったかな。今はアンナマリーのいる騎士団に対して、大型の魔物の予行演習とかそんなのかなー。ダンジョンとか塔とか研究施設とか持ってないから、警備用には使ってないかな」
「普通の用途は施設の警備用であろうな。変わり種では馬代わりにゴーレムに乗って移動する魔法使いもおるな」
「そうですよねー。シャーロットは雪もいっぱいあるし、一日一個の日課にしてもいいかも」
勿論雪だけが素材ではないけれど、これからの時期はどこかに捨てたいくらいに庭にあるので、まずはゴーレムの魔術に慣れるところから始めて欲しい。
今日作ったクマのゴーレムは色々と動かした後、崩れて雪の塊に戻った。
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