やどりぎ館でのティータイム -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「霞沙羅さん的には今日の仕事はどうでした?」
「ああいう無理の無い仕事ならいいんだがな。アイドルかどうかは別として、吉祥院は魔術業界では当然として、榊も剣関係の仕事は受けるしな」
「良かったのなら良かったです」
「雑談みたいで良かったよ。あのモデル二人も、エリアスも真面目にやろうとしているのを見れたしな、写真は撮られたがカウンセラーみたいな仕事だった」
この前モデル的な仕事について愚痴られたから、たまにはいい仕事に出会う事が出来て良かった。
「なんかあれば愚痴くらい聞くぜ」
「そうですね、その時にはお願いします」
「ところでもうイルミネーションをつけるのか?」
伽里奈は倉庫から出してきたイルミネーションをほどいているところだ。
「今日は晴れてますし、シャーロットとアンナマリーがやりたいみたいなんで」
「この辺でも始めてる家もあるしな」
「わー、伽里奈準備出来たの?」
吾妻社長達が帰ったので、作業要員2人が2階から降りてきた。
「これをそれぞれ門の左右にある木に巻き付けるんだよ」
「おー、やるぜ」
話は終わったので、霞沙羅はソファーに座り、伽里奈達は庭に出ていった。
「かまくらっていつ作るの?」
そろそろ雪が降っても完全には溶けずに、その上に積もるようになって来た。
「あれはフィーネさんが魔法で作るから。あのサイズは手作業じゃ難しいからねー」
「出来たら中に入ってもいいんだろ?」
「フィーネさんが使ってなければねー。たまにしか使わないけど」
二人はそれぞれのセンスで、イルミネーションのコードを木に巻き付けていく。
「シャーロットの家でもやるの?」
「勿論やるわよ。あのストリートの全部の家がやるもの。いくら魔術師の家だからって、ウチだけやらないなんて寂しいじゃない」
なら、折角ロンドンに繋がったのだから、頃合いを見て外国はどうなっているのか見に行きたい。
「ところでこっちの世界は何でこんな事をやり始めたんだ?」
「アメリカって国があるんだけど、今から150年くらい昔にとある町に住んでたちょっと変わった名物おじさんが聖誕祭には町の木を飾り付けよって、その発言が良いねってなって、町の人が皆でやり始めたのよ。それが時間をかけて世界中に広がった結果なの」
「粋な人もいたんだねー」
「悪くないな」
イルミネーションを巻き終えて、タイマーを噛ませて電源に接続した。
「何も起きないな」
「まだ明るいからね、明かりが点く時間を設定してるから、もうちょっと待ってね。そういえばもう一個あったの忘れてた」
去年までエナホ君がいたから、小さめな雪だるまのイルミネーションを買っていたので、それはテラスの手すりに、吹雪でも落っこちないようにくくりつけて設置した。
「まだよく解らないが、何か良さそうじゃないか」
「あとは電気が点く時間待ちだねー」
アンナマリーは電気が点くまで、掃き出し窓の横の椅子で張り込みをして、明かりが点くやいなや庭に飛び出していった。
伽里奈もこっちに来てもうすぐ4年だけど、無事に点灯したイルミネーションを見て、確かに粋な事を考えたおじさんもいたもんだと改めて思った。
* * *
2人とも特に何もない夜は、エリアスが伽里奈の部屋にやって来て、同じベッドで寝る事になる。
今日も館の仕事を終わらせて、さあ寝よう、とエリアスとベッドに寝ると、ぎゅっと腕を組んできて、耳元に話しかけてきた。
「貴方は私の物。私は貴方を手放す気は無いわ」
「急な話だね」
ボクなんかやったっけ、と思いながら続く話しを待つ。
「私は女神だから、人間とは考えが違うかもしれないわ。でも私はフィーネに感謝をしたいし、彼女の抱えているモノも理解出来る」
「フィーネさんは、難しいね。でもボクも出来る限りの恩は返したいなー」
この4年ほど、フィーネは住民として、女神として、先輩の立場で、悩んでいたエリアスにアドバイスをくれたり、時には説教をしたりして、支えてくれた。
フィーネは普段は孤高というか、あんな態度の人だからある程度までしか人を寄せ付けない。
けれど時々マッサージをせよと部屋に招いてはからかってきたり、眠るまで側にいろと言ってくる。
それに先日みたいに伽里奈を連れ出しては妙に接近してくることもある。
人に迷惑をかけることはないし、古い入居者として面倒見もいいので、館の生活では基本的には信頼されているけれど、急に距離を離してきたり、接近してきたりと扱いが難しい。
「貴方はフィーネのことをどう見ているの?」
「あんな性格の人だけど、シャーロットとかアンナにも気を使ってくれるような人だから、嫌いな人じゃないよ。神様がどういう…、うーん、口にするのが難しいんだけど、どういう気持ちで邪龍をやってるのか解らないけど、それでちょっと心に傷を持っているなら、世界の事を気にしないでここでゆっくり休んで欲しいし、嫌なことは忘れて貰いたいなー」
「あなたに変なお願いをしようとして、悪いとは思っているのよ。私はあなたを手放す気は無いし、あなたに嫌われたくは無いわ。これは解って」
エリアスもとても言い辛そうにしている。
「神様と人間の価値観の違いってある?」
「あるわ。別にあなたを道具や玩具扱いしているわけじゃ無いのは解って欲しいの」
エリアスはアリシアをぎゅっと抱く。
「私はあなたが好き」
2人1部屋だった頃はたまにしかベッドに来なかったけれど、正式に管理人になってこの部屋を使うようになってからは頻繁にアリシアのベッドに潜り込んでくる。
二人部屋の時は距離が近かったかけれど、今は壁を隔てたそれぞれの部屋に分かれてしまったかららしい。
アリシアだってそれは嬉しいし、来るのを待っている所もある。
伽里奈だってエリアスを手放す気は無い。
彼女が何かを望むのなら、出来る事は協力してあげたい。誰かに感謝をするのなら、それに付き合ってもいい。
「アシルステラで神様が人を愛する事って、ボク達が初めてじゃないよね?」
「愛の形は色々だけど、私を作ったアーシェル様だって、愛を傾けた人間はいるわ」
色んな世界から来る住民に話しを聞くことがあって、どこの神話の中にも、神と人の子という人物は存在した。
アーシェルの話は終わってしまった文明時代の記録だから今では完全に神話になっていて、どうやったのかまでは書かれていないけれど、冗談や実験で作られた子供では無いのは確かだ。
結果として大きな力を持たされたその子供は大きな騒動に巻き込まれたけれど、道具として作った子供ではなく、そこに愛はあったのだろう。
「その、人間は複数の女神に愛されるのはどう思うの?」
「貴族とかお金持ちとか、それこそ王族なんかは正室と側室とかあるし、日本なんかじゃ大奥なんてのもあったから、って何の話?」
複数の女神?
「英雄色を好むなんてあるけど」
「ボクはやたらめったら色を好んだりはしないけど」
そもそも2年も旅をしたのに、幼なじみのルビィにさえ手を出していない。
いやもう、複数の女神の時点で誰のことを言っているのかは解る。
でもエリアスも真面目だ。真面目だからこんな事になっているのだ。
「エリアスはフィーネさんの事、好き?」
「憧れてるわ。みんなの前ではあんまり話をしていないからそうは思えないだろうけど、立派な女神として尊敬してる。でもだからこそ、彼女の寂しさが見えてしまうの。だからその、難しいわね。あなたに嫌われたくないもの。私はあなたを手放す気は無いわ。それだけは覚えていてね」
「ボクも手放して欲しくないなー。ボクの一方通行な思いだったとしても。エリアスをすぐ側に感じて眠って、朝に目を覚ましたらエリアスが目の前にいるの、ずっと続けていきたいし」
「ええ、私も。だからその、時々フィーネに付き合ってあげてくれない?」
「マッサージとか買い物じゃなくて?」
「彼女が壊れてしまわないように、話しを聞いてあげて、寂しさを受け止めてあげて欲しいの」
この館にいる限りフィーネは家族。それはエリアスも同じ。
しかし愛する女神様からとんでもないお願いをされた。
でもフィーネはそんな考えを持っていただろうか?
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