鎮魂の儀に向けて -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ぶっつけ本番で弾いたにもかかわらず自然に祈ってしまった神官が、霞沙羅の事を教皇に報告しに戻る前に、アリシアは気になっていたことを確認する事にした。
「そういえば、聖都ギランドルと王都サイアンを結ぶ街道に現れるゴブリンとか魔獣はどうなりました?」
鎮魂の儀はもう少し先だけれど、だからといってのんびりはしていられない。
「それについては、アリシア様からの情報に従って対策用の結界を張りまして、それ以降は数を減らしております」
「それは良かった」
「鎮魂の儀には皆様方が安心してご出席頂けるように、原因の究明も行ってまいりますので、少々お待ちください」
教団の聖地が絡んでいるけれど他国の事件なので、冒険者をやめてしまったアリシアにはこれ以上は手は貸せないけれど、渡した情報でいい方向に流れていってよかった。
「こないだのあれか?」
「ええ、なぜかザクスンの方でも魔物で騒ぎになっているらしいんですよね。それで顔が利くプリシラ王女ってお姫様に伝えに行ったんですよ」
「余所の心配もいいが。アンナマリーがいるこの町はもういいのか?」
「モートレルはあの日の1回だけね」
探知装置も完全に動き出した今なので、モートレル周辺は問題無いし、領地内でも話は聞いていない。
「一応訊くが、その隣の国にも魔法学院はあるんだよな?」
「ありますよ、なにせ戦の国ですからね」
「じゃあ後は任せるしかないな」
「鎮魂の儀は必ず成功させます」
さすが戦神の神官。力強い言葉を残して、聖都ギランドルに帰っていった。
* * *
「アンナマリーの方も以前より楽になった感じだしねー」
シャーロットに頼まれたとおり、日本式の、蝋燭形のショートケーキの仕上げをしている最中だ。
焼き上がったスポンジを一人用に刻んで、生クリームと苺を挟んで層を積み重ねる。そして周りを生クリームで塗って、ちょっとデコレーションして、一番上に大きめの苺を乗せる。
これを人数分作り、冷蔵庫に入れて冷やす。一緒に飲むのはホットの紅茶でいいだろう。
シャーロットはレポート作りの真っ最中なので、これを見るのは食後になる。どういう感想を貰えるだろうか。
「モートレルは呪われているのかと思ったが、そうでもなかったな」
霞沙羅は一仕事終えたからか、厨房まで入ってきて缶ビールを飲んでいる。
「地方領主が治める町にしては大きめですけど、そこまで目立って価値があるワケではないですから」
「しかし今日は始めて町の外に出たが、結構悪くなかったぜ。あの道の先には何があるんだ?」
「徒歩で半日も行かない所に大きな湖があって、その畔に漁業なんかもやってる町があるんですよ。種類は少ないですけど、中くらいの川魚と小さめのエビが捕れます」
「半日未満か、歩いてみてえな。なんか危険なものがあったりはするのか?」
「町と町の間は警備もしっかりしてるんで、あんまり事件は起きません」
「つまんねえな」
「もー、安全維持はアンナマリー達の仕事ですからね」
「そう考えると、ギャバン教とやらの周辺で騒ぎを起こすってのはなかなか大胆な奴がいるな」
フラム王国で言えば、ラスタルとセネルムントの間で騒動を起こすのと同じ。精鋭の騎士団と魔術師団、そして神官達が目を光らせているのによくやると思う。モートレルの時と同一人物のようなので、そこまでの魔術師ではないのにこうまで騒ぎになるのだから、やり方次第という事だろう。
「鎮魂の儀とやらが無事に開催出来ればいいがな」
* * *
先程作っていたショートケーキが夕食後のデザートとして登場した。
「きゃー」
「ホントはホールで作って切り分けるんだけどね。なんかこっちの方が館の人に喜ばれるから」
シャーロットは早速、テーブルに置かれた白いショートケーキの写真を撮った。
「でもイギリス版もあっさりしてそうでいいよね」
日本のは見た目通りちょっとこってり気味かもしれないから、好みの問題だろう。
「今度買ってくるわ。ケーキ屋さんが同じストリートにあるのよ」
そんな事より早く食べたい。
これがショートケーキとは本場の人間としては認めたくないけれど、色々あるカレーのように同じ名前の別の食べ物として捉えれば魅力的な外見だ。
伽里奈の絶妙なクリーム捌きによって、そのクリームの凹凸が溶けた蝋燭のようにも見えて、女子の視覚を随分と楽しませてくれる。
「シャロも早く食べようぜ」
もう周りは食べ始めてしまっているので、早速フォークで一口目に挑戦する。
「んんーっ!」
生クリームの暴力に口の中が支配されつつ、苺の甘みと酸味が襲ってくる。
「これがショートケーキだなんて…、ゆ…、ゆる…、しちゃうっ!」
見た目にもシンプルな作りだ。そしてシンプルな甘みが口を直撃してくる。こんなの、嫌いな人がいるわけがない。
「んーっ!」
あとはもうモリモリ食べた。
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