鎮魂の儀に向けて -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「結局、それでどうするんです?」
「うーん、どうするべきだ」
無事にロックバスター用の制御装置の確認が終わり、アリシア達はモートレルに帰ってきた。そして馬車が到着したのはモートレルにあるギャバン教の神殿の前。
ギャバン神は霞沙羅も面識のある相手なので、自分の教団に手を回してきたとはいえ、この世界の人間の気持ちとして、戦いで命を落とした戦士達の魂を鎮めるという行為は、自身も軍人として厄災戦を生き抜いた側の人間としてよく理解出来る。
ギャバンもその儀式を良いものにするために、戦士である霞沙羅を推薦しているのだろう。それは実際に地球でも宗教イベントで演奏を任されている人間としては、その評価は光栄だ。
問題なのは、いくら演奏が上手いからといって、異世界の、この世界の戦死者達に何の縁もない人間が弾いていいのかどうか、それを聴く事になる、生き残った人達に失礼じゃないかという部分だ。
宗教の話だけではなく、この大地に生きる人の気持ちの問題だ。
だからそこが気になって、結局話しを聞きに来た。
「ヒルダとしてはどう思うんだ? 元冒険者として、信者として、ハッキリ言っていいぜ」
「カサラさんは戦士として、生き残った側の気持ちは解るのでしょう?」
「まあ、それは」
厄災戦については、軍の方でも年に一度催しがあって、霞沙羅もそこで専用の曲を弾いている。
数日前にアイドルの件で愚痴ってしまったけれど、戦いを終わらせた英雄として引っ張り出される事については、生き残った人間としての責任だとは思っている。
今でも、あの戦いでいなくなってしまった上官や先輩達の顔や声がふとした時に蘇る事がある。それ以上に、生き残ったあの人達の家族はどう思っているのか考える事もあるくらいだ。
どっちの世界でも、一つ大きな戦いが終わってもまだ傷跡は残っている。
「ホントに私でいいのかって話なんだよ。こっちの教団にだって専門の演奏担当がいるんだろ?」
「何曲か奏でる内の1人だと思うわよ。それに何人かは他国で行われる儀で弾くのよ」
「神官は設備のある神殿間であれば、転移出来ますからね、出張するんですよ」
「なるほどなー」
とりあえず馬車から降りて、神殿にギランドルからの使者が来ているので、その話を聞くことにした。
教皇からの依頼の説明に来た神官が言うには、神託があったのも確かではあるけれど、セネルムントの教皇からも霞沙羅の話は聞いていて、演奏の上手さだけで無く、「部外者であっても神への敬意は感じた」との事。
その上でセネルムントの信者達からも大喝采を浴びたということを聞き、もしよろしければ、というお願いだという。
勿論「異世界人」という事は内緒で、アリシアの友人として正体はぼかすという。
「じゃあどういう曲なんだよ」
この神殿にも、小型ではあるけれどパイプオルガンがあるので、鎮魂の儀で演奏する曲はどうなのか、本書の写しがあるので楽譜を見せて貰う事にした。
「まあ、なるほどねえ。良い曲じゃねえか」
「作曲者も、戦いで息子さんや周囲の人を亡くしていますから」
その戦いは何十年も前の話ではある。古くから弾かれてきたという歴史がある。
鎮魂の曲は3曲あって、その内の1曲だ。
「聴いていけるんなら今から弾くぜ。それで判断してくれ」
「え?」
そりゃあ誰でも「え?」と言いたくなる。今見せたばかりの曲を、練習もしないで今から弾くと言いだしたのだ。
さすがにヒルダもギョッとしている。
「オルガンは使えるのか? 私も頻繁にはこっちに来られないからな」
言いながらも目を離さずに楽譜を見ている。これはまたぶっつけ本番でやる気だ。
神官達は首をかしげながらも、オルガンの準備が始まり、霞沙羅はオルガンの前に移動する。
「今見たばかりよ?」
音楽はもっぱら聴くだけのヒルダでもさすがに無理じゃないかと思うけれど、霞沙羅は随分自信満々だ。
でも出来ないことを言うことはないだろうし、出来ないならアリシアが止めるから、本当に出来るのだろう。
「多少間違うかもしれないがな」
大きさ的にはセネルムントのモノよりも小さいオルガンの準備が整ったので、また音の具合を見る為に適当な曲を弾き始める。
と、また数名いた信者、ではなく、今日はお休みでふらっと寄った騎士団メンバーが前に移動してきた。
「あの人、何かやるんですか?」
知らない曲だけれど、霞沙羅の演奏は上手い。いつもヒルダと超人的な鍛錬を見せている霞沙羅は、誰が見てもオルガンを弾くことにとても慣れている。
「今から鎮魂の曲を弾くのよ」
「ヒルダ様、あの人ここの人じゃないのでは?」
曲が終わったかと思うと、突然本番が始まった。また楽譜は見ない。
「ええー、初めてじゃないの?」
ヒルダも神官達も驚いている。また今回も目を閉じているから楽譜なんか見ていない。
さすがに何カ所か間違ったりはしているけれど、10分以上もある曲を今回も一発で弾き終えた。
「これでいいのか?」
「ええ、ありがとうございます」
最初はあまりの事にただ驚いていたヒルダ達は、見事に引き続ける曲に途中から椅子に座り、終わる頃には祈りのポーズで黙って聞いていた。
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