ペンギンに会いに行こう -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「おらあ、いつもあいつにしているように、この私を寝かせてみせろよー」
宿泊部屋に入った途端に、霞沙羅は酔っ払ったように伽里奈に寄っかかってきた。
身長が10センチも違うので、何か無理な体制になってしまっているけれど、仕方ないので、無理矢理抱え上げた状態にして、ベッドに寝かせた。
「急に酔い出すとか…」
確かに夕食後には紙パックの日本酒をちゅーちゅー飲んでいたから多少酔っているだろうけれど、話が終わった途端に急に悪絡みが始まった。
「言う事言ったからいいんだよ。後は寝るだけ、寝るだけ」
霞沙羅はいつも寝巻きで寝るわけだけど、いつのまにかちょっとはだけてしまっていて、それを直してあげる。
「お前は結構大胆だよな」
「先生がだらしないからですよ」
霞沙羅はけだるそうにベッドの上を、左右にゴロゴロと転がり始めたから、結局また寝巻きがはだけ始めた。
「愚痴聞いてくれよー」
「はいはーい。じゃあ足出して下さい」
もうはだけた寝巻きはどうでもいいから、雑にどーんと出された左足裏のマッサージを始めた。
「お前、私のことを、ん、格好いいとか思ってるだろ」
「半々ですよ、半々」
今は勿論格好悪い。
「いつまでも私をアイドル扱いしやがって。お前の体なら…、いや、お前の体もよく見るといいわけねえな」
「そうですかねー」
少女の姿はしているけれど、霞沙羅ほどのインパクトは無い気がするけれど。
「くそー、私生活を発表してやりてえ」
霞沙羅の私生活は、確かに家にゴミや服をばら撒いたりはするけれど、清潔感についてはやどりぎ館に掃除を頼む程度には常識的だ。
誰もやった事は無いけれど、一週間ほっといたらゴミまみれの部屋になるかもしれないけれど、恐らくどこかでブレーキがかかる可能性は高い。
ネコのアマツの世話はしていて、トイレの掃除は自分でやっているし、餌用の入れ物は洗っている。
家の本棚も、並べ方はバラバラだけど、ルビィの部屋のように床に積まれてはいない。
工房も散らばっているわけでもなく、ゴミは落ちていないし工具は整理されている。
自分の日常にかかる所だけいい加減なので、フィーネは「甘えているだけ」と言っていた。
この人は見た目が格好いいし、有能で、24才でもちゃんと大佐をやっているし、としっかりしているので、どこかでガス抜きをしているのかもしれない。
まあ、今日みたいなのはなかなか無いけれど。
「このところ色々ありましたからねー」
伽里奈が日本に来てからもうすぐ4年、自分が巻き込まれる事件というのは最近まで殆ど無かったけれど、霞沙羅は普通に軍人として、事件に関わる事はあった。
「ん、すまねえな」
「その辺で苛ついてます?」
「お前はどうなんだよ、私の、ん、事情に巻き込まれてるんだぞ。純凪さんには、ん、面倒かけてないのに」
「時期の問題でしょう? そもそも純凪さんだって厄災戦の時期には、霞沙羅さんと関わらないでも、多少なりともこの周辺で動いているわけですし」
当時は地球人は住民としていなかったのでやどりぎ館の管理人には関係なかったけれど、近所付き合いというモノがあるし、寺院庁との付き合いもあったから、本当に軍や警察が間に合わなかったりした際は、密かに出ていったりはしていた。
「いや、まあ、ん、そうか」
「逆にボクの方は、霞沙羅さんにアシルステラの面倒事に巻き込んでますし、オルガンとか」
「あれは楽しいからいいんだよ。私が夢見た世界だぞ」
「楽しんでるなら幸いですよ」
「お前のところの連中も、ん、多少見た目に引っかかってる奴はいるが、基本的には、ん、同士というか、同類扱いしてくれるしな」
「軍人アイドルは嫌ですか?」
「もういいだろって話だよ。だがまあ、昼間の奴らみたいに、ん、人生の目標を見つけた、みたいなことを言われると、なあ」
「エリアスもそうですけど」
「女神がモデルとか…、まあいつも今やることが見つかって良かった」
あれは今年の3月のこと。たまたまあの吾妻社長に札幌の路上で声をかけて貰って、霞沙羅に相談したら「あのおばさんは大丈夫」と太鼓判を押されたので、所属することを決めた。
本当にたまたまの巡り合わせだけれど、霞沙羅の確認が無ければ、やることはなかったかもしれない。
「感謝してますよ、ボクも。榊さんには悪いですけど、霞沙羅さんの裸見たり、こんな風に体触ったりして」
「なんであいつが、ん、話に出てくるんだよ」
マッサージをやってない方の足で蹴られた。
「そろそろ警察の研修も終わるじゃないですか。男部屋は開いてるかって聞いてきましたよ」
「な、あの野郎」
榊瑞帆もこの家に住む資格があるので、住みたいと言われたらこれは止められない。
「この家でくらい、皆のアイドルを休みましょうよ」
また蹴られた。
「あいつ、配属は吉祥院と、ん、同じで横須賀じゃねえか。どうやって出勤するんだよ」
「霞沙羅さん、横須賀は同じ日本ですからね。時差は無いんですよ」
また蹴られた。なんかちょっと弱かった。
「弟分としては、まだまだ頼られたいですけどねー。さすがに榊さんも家事は出来ませんし」
「あいつはいつ来るつもりだよ」
「まだ、部屋は開いてるか、としか訊かれてませんよ」
「後でメールでも送ってやる」
「何度か泊まりには来てますけど、住むとなると準備がありますからね。教えて下さいね」
霞沙羅は仰向けになって、手で顔を隠し始めた。やっぱり男のことになると、霞沙羅も女子になる。
「…なんか吹き込んだか?」
「自分で決めたそうですよ。ヒーちゃん達のことを話した人がいるみたいで」
「くっそ。…まあ職場は違うし、実際住む事になる家も違うしな。あいつ、絶対お前の世界に連れて行ってやる」
「ヒーちゃんも喜ぶでしょうね」
舌打ちをして、また蹴ってきた。
強い奴がいるぞ、と誘ったのは霞沙羅だ。余計なことをした、と今更悔やんだ。しかしこの家の食事は美味しい。それもずっと言ってきた。
あー余計なことを言った、と思いながらも、チラリと見える霞沙羅の口元はなんだか嬉しそうだった。
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