ペンギンに会いに行こう -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈の館での仕事が終わり、いつもなら寝る時間に、伽里奈とエリアスはとある番組が始まるのを待った。
今年の1月から放送している「ウキウキ常務」という地元番組に、今日の放送からあの先輩モデル2人が番組アシスタントとして登場するから、事務所関係者として見なければ、と2人でベッドに座って、テレビをつけて待っている。
勿論事務所の後輩として今後は毎週録画もする。
そこに霞沙羅が入ってきた。
「いやー、あの元編集長が余計な話を提案してきやがった。…何を見る気だ?」
「エリアスの先輩2人が番組のアシスタントとして、今日から参加するんですよ」
「初日だもの」
「これ、なんか知らんが榊のヤツに録画を頼まれてんだよ」
「え、あの人が?」
「番組MCがボーカルやってるバンドの曲が気に入ってるらしく、それで私に録画させて、ダビングしたディスクを送ってるんだよ」
「えー、ボクもたまにしか見ないのに」
地元ではそこそこ見ている人はいるけれど所詮ローカル番組なので、中身は地元向け。関東に住んでいる人が見る必要は無いような気がするけれど、バンドのファンなら仕方が無い。
番組放送後に見逃し配信もやっているから道外でも視聴出来るのに、わざわざ録画までするとか、よほど番組MCのバンドマンが好きなのだろう。ヒットチャートにも乗ってこないマイナーなバンドだし、少しでもその姿を見たいというファン目線からすれば見逃せない番組だ。
英雄の一人だからといって、そこは人の趣味なのだから、それは仕方がない。
「始まるわよ」
今日は「常務」の役割になっているバンドマンの、新しい「秘書」という役回りのアシスタント2人の紹介が前半にあり、後半では早速苫小牧の漁協にロケ車で向かっている道中で終わった。
「地方局とはいえまあ大きな仕事だよな」
とりあえず本業はモデルとはいえ顔を売ることが第一だ。番組中でもちゃんと「モデル」として、ショーの時の映像だとか、仕事としてのポスターや雑誌が紹介されていた。
「視聴率は悪くなかったから、その強化って事みたいよ」
局アナが夕方の帯番組に異動する事もあって、ロケに出れなくなるので改編期を前にこのタイミングで、というパワーアップ企画だ。
エリアスもその第一回目を見て、先輩達の晴れ姿を喜んでいる。
「いい話じゃないか。小樽の魔天龍の言うとおりにやってきたわけだしな」
占いと称して未来予知が出来る余所の世界の女神様が助言するから、非現実的な大きな結果は出ないけれど、それなりに良い運命に導いてくれる。
その範囲内で、自分達で行動を選択しろというのが小樽の魔天龍こと、フィーネの占いだ。
「それで何か言いたげでしたけど」
「あれだよ、あの社長が連絡をよこしてきやがって、会社HPでちょっとインタビュー企画をやりたいから、出てくれねえかだと」
「霞沙羅が仕事上、吾妻社長社長と知り合いなのが聞いているけど、どの程度の仲なの?」
「私のコーナーを、当時所属していた出版会社が委託される形で3年程度現場を見てくれてた感じだな」
厄災戦中から強くて綺麗な、天才少女と呼ばれた軍人だったので、幻想獣の被害に苦しむ国民を勇気づける為にメディアに引っ張り出されたりと、優秀な軍人の一人として、アイドル的な扱いをされた。
それがあの吉祥院を初めとした有能な軍人のリーダーとなって、厄災戦を終わらせてしまったので、戦後復興のゴタゴタの中でも引き続き、「軍人を募集しています」というPRも含めてアイドル活動をやらされて、実際に効果もあった。
そんな感じで、だったらちゃんと誌面を作ろうという方針になって、ファッション誌の名物編集長だった吾妻に白羽の矢が立った。
雑誌編集長の仕事の合間を縫って、3年間の契約で、広報誌の誌面を盛り上げる大役をこなしてくれた人だ。
霞沙羅としては甚だ迷惑だったけれど、自分の役割を解っていたので、いやいやながら付き合った。
今も広報誌が人気なのは、吾妻社長の手腕によるものだ。
「お互いにこっちに来てからは会ってないが、まだ誌面の監修はしてるみたいだな」
それがモデル事務所の売り上げの一部になっているのは、エリアス達は知らなかったりする。
「そのコネがあるから、軍に話は通るだろうぜ」
霞沙羅は正直、もう軍のアイドル活動は別の若いのにやらせろよと思っているが、人気が下がらないのだからやめようが無い。
「なんつうか、あの2人のように私に憧れてモデル業界に入ってくるのも少なくないから、まあ戦友みたいなもんだから、インタビューしようぜって話だ」
霞沙羅の言葉がだんだん愚痴ぽくなってきているくらいに、軍のアイドル扱いはもういいと思っている。
また次の撮影も予定されているようだし。
「エリアスにとっては羨ましい話でしょうけど」
「変われる物なら変わって欲しいくらいだぜ」
「でも求められていることは解っていると?」
「めんどくせえよな」
口は悪いけれど、綺麗なお姉さんだし、軍人として有能で正義感も強いので、アイドル性を求められてしまう。
「何か手伝うわよ、何が出来るか解らないけど」
「まあそうなんだがな、何か手伝ってくれ」
それだけ言うと霞沙羅は立ち上がった。
「あれ、どこで寝るんです?」
「たまにそこの弟分に愚痴を聞いて貰いたいから、宿泊部屋でも借りるぜ」
「そのくらいなら貸すわよ」
「ええーっ!」
「お前らみたいに仲良く寝る気はねえよ。マッサージしてる間だけ愚痴を聞いてくれ」
珍しく霞沙羅が弱音を吐いてくるので、伽里奈はそれに付き合う事にした。
この人と自分はある意味同じような立ち位置にいるので、勝手に格好いいとか思っていないで、格好悪いところも見てあげないとダメかもしれない。
この人だって自分と同じように煩わしさから逃げてきたんだし、愚痴くらい聞いてあげよう。
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