ペンギンに会いに行こう -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
他の動物や魚を見ていると、ペンギンの散歩時間が近づいたので、コースの側に移動して待っていると、もう一つの飼育スペースから元気よくジェンツーペンギン達がペタペタと歩いてやって来た。
コースに人が入らないように、ちょっとしたロープが設置されてあるけれど、大した高さはなく柵でもないので、さっきの展示場所よりもよっぽど近くをペンギンが通ることになる。
「うわー、近いっ! 止まったっ!」
ペンギンの気まぐれなのか、アンナマリーのすぐ目の前で一羽が止まったので、伽里奈はすかさず同じフレームに収まるように写真を撮った。
それからペンギンたちがペタペタと移動するのを追いかけたり、コースアウトするハプニングを楽しんでいると、やがてコースを一周して、大盛況のままペンギンたちは帰っていった。
「くう、か、可愛すぎる」
ガーガーとちょっとうるさい鳴き声には驚いたけれど、生のペンギンはやっぱり可愛かった。
「家に帰ったらプリントアウトしてやろうぜ」
大満足したアンナマリーは最後にもう一度コツメカワウソを見て、これも気に入ってしまった。
折角の休日なので、アンナマリーがずっと待ちわびていたペンギンを見せることが出来て、本当によかった。
「じゃあ遅めのメシでも食って、札幌に移動するか」
「そういきたいんですけど、2人が水族館の罠に引っかかってます」
出口近くにはミュージアムショップがあって、そこに2人が引っかかっている。
アンナマリーはジェンツーペンギンのぬいぐるみ、シャーロットはゴマフアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみを持って、じっと見ている。これはもうダメだ。
「買ってやったらどうだ?」
「そうしないと動かないでしょうね」
* * *
水族館に併設されたレストランで食事を終えて、霞沙羅の車は一路、札幌の大通公園に向かって走り出した。
「むぎゅー」
「きゅー」
後部座席でアンナマリーとシャーロットの2人は、それぞれ買って貰ったぬいぐるみをナデナデしたり、ぎゅーっと抱きしめたりしている。
買ってあげると言った時の2人の喜ぶ顔はすごかったけれど、こんなに気に入ってくれたのならお金を出した価値もあった。
カワウソのぬいぐるみは売ってなかったのでよかった。
「まあ、喜んでくれてるならそれでいいけど」
「前に貰ったあの夫婦ペンギンとはまるで別物じゃないか」
これぞちゃんとしたペンギンのぬいぐるみにご満悦のアンナマリーだが、部屋にいる青とピンクのペンギンが気になっている。
あれはあれで可愛い。しかしあれをペンギンと呼んでいいのだろうか。
「その割にベッドの側に置いてるじゃない」
「ペンギンとしては疑問だが、なんかあの顔が可愛い。だが今日からはこいつはベッドに置いておいてやろう」
レギュラーでベッドの上にいるのは今のところ大きなクマとオコジョだけ。その他のは机や棚に並べてある。でもこのペンギンはお気に入りの一つとしてレギュラー入りが決定した。
「もー、アザラシちゃん、そんなおめめでこっちを見ないでー」
「そいつはさっきのとは別物じゃないか。あいつはそんなにフワフワしてないだろ」
「アンナは知らないから教えるけど、これはアザラシの子供の姿なのよ」
「なにー、なんで大人はあんなに不細工なんだ?」
「赤ちゃんだから防寒用の毛が生えてるのよ。体が出来てくると泳ぎやすいように抜けていくの。ペンギンも雛はモコモコでしょ?」
「動画にいた地味な奴だな。あれは確かにモコモコだったな」
とにかくご機嫌な2人を乗せて、車はやがて高速道路を降りて、札幌の中心街へと近づいていく。
札幌の町に入ると、小樽に比べてもやっぱり栄えているなと思ってしまうくらい、民家よりも大小のテナントビルやお店が多く、車通りも多い。
「何か町がキラキラしてるな」
まだ日が落ちる時間では無いけれど、繁華街が近づくとお店の明かりが目立ってくる。
「聖誕祭が近いからねー。お店とかが色々とイルミネーションで飾り付けてるから」
「ねえ伽里奈、やどりぎ館も何かイルミネーション点けるの?」
「そろそろ、門の左右にある小さい木に取り付けるよ」
「えー、そうなの。だったら私がやる」
「そんなに大したものじゃないけどねー」
車が駅前を通ると、アンナマリーは見たこともないような町の風景に見とれていた。駅には札幌駅を象徴する、見上げるような高さの駅ビルがあるし、その他のテナントビルも多くて、とても賑わっている。
実際のところ、伽里奈も最初の頃は札幌に来る度に駅ビルを見上げていたモノだった。
やっぱりアシルステラから来たらこうなる。ラスタルの王城や聖都セネルムントの大神殿も背が高いが、それよりも高い。
それに町の規模では霞沙羅が生まれ育った横浜の方が上なのだけれど、雪景色の札幌は格別に綺麗だ。
「あの三角の背の高いのはなんだ?」
大通り公園沿いの道に入った所で、タワーが見えた。
「テレビ塔って言うんだけど、途中のあの窓の付いてる所までは登れるよ」
「今となっては町に埋まってきているな。ただ長い公園が目の前にあるから、結構遠くまで見えるんだぜ」
「高い建物とか塔があるという事は何か攻めてくるのか? 町が随分栄えているが、大変なんだな」
「あれは、高い所から町を見て、景色が綺麗ねっていうだけの物だから、その、アンナが頭の中で考えてる城壁とか、お城に付いてる塔とかとは違うのよ」
「観光用だよー」
「むう」
車は近くのコインパーキングに駐めて、撮影をしているという公園の区画に移動すると、まだ終わっていなかったので、少し離れた所で待つことにした。
「2人ともそれ持ってきちゃったの?」
「寂しい車の中に置いていったら可哀想じゃない」
「お前は人の心が無いのか?」
雪は降っていないので、濡れることは無いけれど、ぬいぐるみを持ってきてしまった。
買ったモノを気に入ってくれるのは嬉しいけれど、ちょっと気に入りすぎじゃないだろうか。
「やっぱ地下行かないか?」
寒い中突っ立っているのはさすがにつらい。撮影はまだまだ終わりそうもないので、エリアスには終わったら連絡をくれるように心の声で伝えて、伽里奈達は暖かい地下街の喫茶店で時間を潰すことにした。
「ところで、エリアスは何をしているんだ?」
とアンナマリーが聞いてくるけれど、3人ともどう答えれば良いのか考え始めた。
アシルステラにも肖像画という文化は、お金持ちを中心にある。お尋ね者の似顔絵もある。宗教画もある。でも販促用のポスターは無い。
店内には説明するのに良さそうなポスターも無かった。
「うーん」
そもそもアシルステラでは撮影が一般的では無いので、口では上手く説明する事が出来ない。
「聞かない方がよかったかな?」
「そうしてくれ」
残念ながら誰も答えることは出来なかったので、話題を変えた。
「このペンギンに会えるのは今の所と、アサヒカワとかいう所しか無いのか?」
「ジェンツーペンギンは、登別にもいたかなー。あそこも散歩をやってた気がするけど」
「そういやあそこにもキングがいたな」
「ここにはそんなにペンギンが住んでるのか?」
「まあ気候がね、多くのペンギンは気温が低い所に住んでるから、冬になるとああやって外に出すことも出来るんだけど」
「くぅ、そのキングとか言うペンギンにも会いたい」
「登別ってクマ牧場とかなかった? 一度行きたいの」
「クマを育てているのか? そんなのもあるのか?」
「こう、クマちゃんにおやつの果物を投げられるんだけど、みんながあの手この手でアピールするらしくて、可愛いの」
クマちゃん、と可愛らしく呼んでいいのか悩む巨体で獰猛なヒグマだけど、自分にリンゴを投げてくれと様々なポーズを取るところは確かに可愛い。
登別くらいならまた連れていってもいいかなとは思う。…転移が出来るし。
喫茶店初体験のアンナマリーは、何とかこっちの人を装いつつ、今日の水族館の話をしていると、ようやくエリアスから「撮影が終わった」という連絡が入ったので、地上の公園に戻った。
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