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ペンギンに会いに行こう -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 このところ雪が降る日が多くなっていた小樽も本格的に雪が降り積もり始め、土曜日には町中が深く真っ白になった。なんなら今も雪が降っている状態。


「こんなに雪が降ってるけど大丈夫なのか?」


 その牙をむき始めた北海道の冬にアンナマリーが不安の声を漏らす。


 隣にある霞沙羅の家に行くにも、くるぶしまで埋まるくらいに雪が積もった道を歩くことになった。


 車道にも車の轍がハッキリと残るくらいだ。


「ほら、今車が走っていったでしょ」


 タクシーが走って行った。


「ホントだ。じゃあ大丈夫なのか」


 水族館の場所は海のすぐ近くなので、全員が防寒対策もバッチリにして、霞沙羅の車に乗り込んだ。


「どうもこの振動が慣れないんだよな」


 今日の日の為に、何回かやどりぎ館周辺を車に乗せて貰っているアンナマリーは、得体の知れないエンジン音とその振動が不気味に感じる。


 しかも霞沙羅の車はターボエンジン車なので、その辺を走っている車よりも更にうるさいし、振動も大きい。だから女子2人は後部座席に乗った。


 ただ、屋敷にある馬車に比べて椅子は柔らかくて座り心地がいい。しかもエアコンのおかげで、室内温度は快適。全然寒くない。この辺の快適性を、あの英雄様は何とかしてくれないかと思ってしまう。


「じゃあ行くぜ。そうそう、帰りにエリアスを迎えに行くからな」


 エリアスは札幌で撮影のお仕事がある。今更だけど、雪景色をウリにした冬の観光用ポスターで、今事務所にいるモデル3人全員でのお仕事だ。


 撮影が終わるだろう大体の時間も聞いているので、その頃に大通公園に着くように、迎えに行く予定だ。


 走り出した車は真っ白に染まった小樽の町を、危なげない運転で水族館に向かって進んでいく。


 館から殆ど出歩かないアンナマリーにとっては、小樽の景色は中々に新鮮なものとなっていて、ずっと窓から外を見ている。


「こんな雪の中なのに、町には人がいっぱいいるな」

「この町は観光地だからねー。ここに来る人にとっては小樽の雪景色を見るのも観光目的の一つだから」


 フラム王国の誇る観光名所、聖都セネルムントよりも人が多い。アンナマリーにとってはなんだかよく解らない建物がいっぱい建っている町には、寒そうにしながらも景色を楽しんでいる人達が目に映る。


 確かに白く染まっている町は綺麗だ。


「うお、海だ」


 どんよりした空、高い白波が立つ黒いっぽい海が見えるようになった。


 港町ブルックスに年に何回か行くアンナマリーも、こんな荒れた海は見たことがない。海とは青いモノのハズだが、目に映る海にはどこか恐怖を感じる。


「…本当に海なのか?」


 うねる海面、やたら高い波に飲み込まれたら死ぬな、と思ってしまう。


「横浜生まれの感覚からしても、晴れれば結構綺麗なんだぜ」

「今は時期が悪いかなー」

「だが砂浜を歩く訓練もした方がいいぜ、雪が降ってない日にでも」

「そういえばこんな所に海水浴場ってあるの?」


 シャーロットの目から見ても、この海で泳げるのかと思ってしまう。海沿いを行く電車から見える風景も、寂しい崖添いばかり。


 小樽にしても港町なので船やヨットの姿はあっても砂浜は見えない。


 夏までいるわけでは無いけれど、折角海沿いなのにと地元民の事が心配になる。


「札幌の方に向かえば、銭函とかドリームビーチとかって広めの海水浴場ががあるぜ」

「他にも小さいのがちょこちょこあったりはするんだけどねー」


  * * *


 やや荒れ気味の海を見ながら、4人が乗った車は水族館に到着した。今日は休日だけあって人出があり、駐車場には多くの車の姿がある。


「風も強いし足下に気をつけろよ」


 駐車場は一面真っ白になってしまっている。凍っているわけではないけれど、歩き方が悪いと雪に足を取られて滑ってしまう。


 しかも場所は海の側なので同じ市内とは思えない風に煽られる。


「お前はアンナマリーを見てやれ」

「はーい」


 先に冬に慣れている伽里奈と霞沙羅が降りて、後部座席から2人を外に出した。


「うわっ」


 一歩踏み出そうとして、いきなりアンナマリーが雪で滑りそうになったので、伽里奈は抱き留めた。


「なるべく歩幅を小さめに歩いた方がいいかなー」


 アンナマリーが伽里奈の腕にすがりついてくる。一昔前だったら問答無用でひっぱたかれていただろうけれど、今はそれどころじゃない。ペンギンはもう目と鼻の先にいるのだ。絶対にペンギンを見る。


「わあ霞沙羅」

「ほれほれ、腕を掴んでろ」


 シャーロットも滑ってしまう。仕方ないので、腕を組んで施設に入館した。


「ペンギンはどこだ」


 入り口にペンギンの写真があったので、アンナマリーはもう今か今かと興奮している。


 異世界の建物に入り込んでいるという事はもう頭にはない。とにかくペンギンに会いたいという事が、今頭の中を支配している最優先事項だ。


「ペンギンはもうちょっと先だから」

「随分と焦らすじゃないか」


 一応順路があるので、それに沿って早足で外に向かう。


「屋内の方になんか可愛いのがいたから後で見たい」

「カワウソでしょ、また後で戻りましょ」


 そして建物を抜けた屋外の海獣エリアにペンギンはいた。散歩をするペンギンはまた別の場所にいるので、時間になったらそっちに移動することにする。


 まあとにかく


「あ、あれがペンギン」


 アンナマリーの目当てだったジェンツーペンギンが、この寒空の下、元気に歩いたり泳いだりしている。


「なんだ、なんなんだあの生き物は」


 動画では見ていたけれど、本物はアンナマリーの想像よりも大きかった。


 それがよちよちと歩いて、一羽のペンギンが柵越しにアンナマリーの方に歩いてくる。


 念願のペンギンが手が届きそうな距離にやってくるのでボルテージは最高潮だ。


「あいつ、私の方を見ているぞっ! くうっ、そんな無垢な目でこっちを見るな、可愛すぎるだろっ!」


 ペンギンはしばらくアンナマリーを見ると、ふいと視線を移して、他に歩いて行った。


「か、可愛すぎるっ! 何であんな生き物がいるんだっ!」


 もう大興奮状態だ。


「うわっ! 転んだっ! 立ったっ! 泳いだっ! また転んだっ! 喧嘩してるっ!」


 やどりぎ館に来て約3ヶ月、ようやく会えたペンギンにアンナマリーは心を奪われまくっている。


「アンナ、よかったわね」

「うおおお、本物、かわいいっ!」

「ここじゃなくて、お前が動画で見ていた旭川だとこれより大きなキングペンギンもいるから、この冬に行ってみるのもいいか」


 伽里奈も連れてきて良かったなー、と貴族のお嬢様育ちを忘れてはしゃぎまくる、ただの女子と化したアンナマリーを微笑ましく見ていた。


「シャロは何が見たかったんだ?」

「お隣にいるアザラシよ」


 ペンギンのスペースの通路を挟んだお向かいにアザラシがいた。


 こちらも寒空の下、のんびりと寝転がっていたり、泳いだりしている。


「なんだあの不細工なのは」


 何か肥満体型だし、陸上を移動する動きもおかしいし、色も地味でツルツルだ。


「えー、ブサ可愛いのよ。ほらあそこ、ペチペチしてるー」


 一頭の、床に転がっているアザラシが、自分のわがままボディーをペチペチ叩いていて、その度にプルプルと体が揺れる。


「まあ、確かに、よく見ると可愛いな」

「そうでしょ」

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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