学校での施策が始まる -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
放課後には授業で使ったゴーレムの件で教師達に呼び出されて、今後の運用に向けて軽く打ち合わせを行った。
これから雪が降り積もる季節なので、いくらでも作れる雪のゴーレムは面白そうだから、授業に使えるように調整を続けて欲しいと。
「横浜校の図書にもあったけど、ゴーレムってあんまり使ってないよね」
教師の反応はよくても、今回はこんな壁が存在する。教師が悪いのではなくて、世界における文化のお話し。
やどりぎ館への帰り道、シャーロットにその辺の事情を聞いてみた。何と言ってもこの世界の魔術の標準となった、長い魔術の歴史を持っている国のことだ
「古い屋敷だったりお城だったりでは、昔作られたゴーレムがセキュリティーとして置いてあったりするんだけど、最近は色々機械があるじゃない? カメラだったり、センサーだったり、最近はロボットとかドローンとか。警備会社もすぐに来てくれるし」
警備会社にも魔術士はいる。
「それで衰退しちゃったの?」
「そういうこと。使い勝手も悪いし」
「だったらシャーロットはゴーレムを作れる?」
「一応は、学んだけれど、習得後は使ってはいないの」
「ん、んー、なんか勿体ないなー」
どっちが良いとか悪いとかではないけれど、ようは使い方だ。
学校だけでなく軍でも使えるから、ゴーレムの件は色々と調整していきたい。
「館に帰ったら、早速ロンドンに行こうね」
話は変わって裏門の話。
やどりぎ館の裏門からシャーロットの家の近くまでは、今日の正午に繋がっているはずなので、まずはそれの確認が必要だ。
日本とは時差が9時間あるのでなかなか使い勝手が悪いけれど、これでシャーロットは自宅に本とか服を取りに行くことが出来る。
「うう、どこに繋がっているのかしら」
「基本的には自宅だったり、職場の近くなんだけどね」
今の時間は午後4時半だから、ロンドンは朝。一般的な家庭は朝食を食べ終えたくらい。
それもあって学校終わりに家に行くと、家族にも伝えているから、向こうではシャーロットが来るのを待っているはずだ。
やどりぎ館に着くと、鞄を置いて早速裏の扉をシャーロットが開けると、門の先は狭い路地になっている。これは大丈夫だ。
「あら、成功ね」
先に帰っていたエリアスも気になって、シャーロットがドアを開けるのを見に来た。
「機会があったら服を買いに行きたいわね」
「その時は案内するわよ」
無事にロンドンに繋がっていることが解って、早速シャーロットは路地を抜ける。
路地を抜けると、閑静な住宅街に出た。
「あ、家の目の前じゃない」
行き違いが出来る程度の車道を挟んで、その向こう側がホールストン家の屋敷だった。
これは当たりだ。
「日本とは違う国って実物を初めて見るけど、良い感じの町だね」
車道はアスファルトではなくて、石畳のままで、周囲の家も結構歴史を刻んだような時間の流れを感じる、古風でありながらオシャレな通りになっている。
見える範囲内ではホールストン家が一番大きな家で、こちらも歴史のある建物だ。
テレビで時々映るロンドンの中心部とはかなり違う落ち着いた、静かな区画だ。
「近くで良かったねー」
「じゃあ帰る時はこの2軒の間に入っていけば良いのね」
「そうだよー」
なお、2軒の間にある小道はシャーロットにしか見えないし、入ることが出来ない。
まだ朝なので開いていないけれど、2軒とも何かのお店のようだ。
「じゃあ家に挨拶してくるわ」
シャーロットは車道を渡って、自宅に向かっていった。
* * *
「シャロの家に扉が繋がったのか」
モートレルから帰ってきてからひとっ風呂浴びたアンナマリーが、ようやくシャーロットがいないことに気が付いた。
アンナマリーがよく知らない機械で家族とは連絡を取り合っていることは聞いていたけれど、まだ13才ともなればやっぱりまだ家族が恋しいし、顔を見ながら直接話をしたかったこともあるのだろう。実家に行ってからそれなりに時間が経っている。
そしてもうそろそろ夕食、という頃にようやくシャーロットは帰ってきた。
「家族と話が出来たか?」
「うん」
アンナマリーも半年くらい家族と離れていたから、やどりぎ館になかなか帰ってこられなかった気持ちはよく解る。
でもシャーロットはこれからいつでも家に帰れるから、伽里奈が作る夕食が目当てで帰ってきた。
その気持ちもよく解る。アンナマリーは先日、ローストビーフの魅力に負けてしまった。甥には悪いけれど、伽里奈のローストビーフを逃すわけにはいかない。
「また休日にでも服とか本とか取り替えに行くわ」
アンナマリーも今となっては伽里奈に頼めばいつでも家に帰れるので、その気持ちはよく解る。家に帰る手段が確立されたら、その後は案外どうでもよくなる。
それはともかく、愛犬の写真も撮ってきてご機嫌なシャーロットと話をしていると、夕食が出来たので、食卓に向かった。
今日はハッシュドビーフとサラダと、なぜかマルゲリータのピザ。
ハッシュドビーフは自国の料理なのでシャーロットが希望して、ピザは先日の晩餐会で出なかったから、アンナマリーが食べたいと希望したら今日のこの夕飯になった。
何か変な組み合わせだけれど、美味しいモノは美味しい。次に屋敷に行った時は、ピザは絶対に作って貰わないといけないくらいに。
今日のメイン料理であるハッシュドビーフは、一見カレーと同じ料理に見えるけれど、ベースとなるソースその物が違っているので辛さはなくマイルド。タマネギの甘みもいいし、薄いとはいえ牛肉も結構使われていて、その風味も強い。
アンナマリーも好きなビーフシチューとも似たような料理なのに、食べ方が違っていて面白い。
お父様今日の夕飯も美味しいです、と先日屋敷での晩餐でちょっと怒られたので謝りながら食べる。ハッシュドビーフには生クリームがちょっとかかっていて、よりマイルドになっていてやっぱり美味しい。
いつものようにご機嫌に全員揃っての食事をしていると、フィーネが口を開いて
「観光客が言っておったが、水族館でペンギンの散歩が始まっておるそうじゃ」
「もう始まってたんですねー。じゃあそろそろ見に行く?」
「小娘は週末は休みであろう?」
「んー、じゃあ行くか? とりあえず誰も何の事件も無い今のうちだぜ」
水族館は小樽市街地からは離れた場所にある。
意外と便数のあるバスでも行けるけれど、館からだと一旦小樽の駅まで行って、そこからの乗車になるし、帰りもバスになる。
こちらの世界に馴染んでいないアンナマリーをあんまり人混みの中で連れ回したくはない。だから霞沙羅が車で送ってくれることになっている。
「ペ、ペンギンに会えるんだな?」
相変わらずテレビは見ないけれど、何度もペンギンの動画を見て予習済み。ようやくアンナマリーがペンギンに会いに行く事が決まった。
「だったら私も行く」
「じゃあシャーロットを入れて4人でいいな?」
「カサラさん、よろしくお願いします」
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