飛行船は帰っていった -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ねえ、あれで引き下がっちゃって良かったの?」
折角東京から持ってきた幻想獣は思いの外、すぐにダメになってしまったけれど、謎の魔獣の襲撃だと混乱している町を3人は歩いて行く。
幻想獣が灰となってことである意味事件は終わったけれど、あれが吐いた炎によって火災も発生しているから、今度は消火活動が行われている。
「営業は一度引くことも重要ですわ。混乱した頭にあれ以上の話しをしても意味は無いですの。あの灰からはこの世界の人間では何も解らないでしょうけれど。その手でワニがいたことを理解すれば、落ち着く事でしょう」
「今回はもう少し、己の欲望と冷静に向き合える人物だと良いですな。折角我が神の奇跡を授けようというのだから」
「前回のはダメだったわね。まあイレギュラーが発生したのが一番悪かったんだけど」
それはモートレル占拠事件の話。
カナタが纏めた計画案では、王者の錫杖が全力を出すことは無い時点で、最初から成功するとは思っていなかった。ただ、ある程度の期間はモートレルで踏ん張って、供与した数々の魔装具や魔工具を使って、いいデータを取ってくれるという予定だった。
それがまさか一晩で解決してしまうとは。
「神降ろしの杖を使ってくれたので、まあ一定の結果は見せて貰いましたから、それで良しとしましょう」
素体となる人間が必要となるけれど、神降ろしなど到底無茶な人間が使用してもちゃんとレラには祈りが届いた。1回だけとはいえ、成功したことが解ったので役には立ってくれた。
目立ってしまうので、もうあそこまでの騒動にはしばらく加担しないけれど、あの杖のダウンサイズ版が次の目標だ。
今回は一発逆転用で終わるのではなく、持続性を持たせることがテーマ。
それを見るには、変にイキったり野心家では無い、価値が解った上で大事に所持してくれる人間が必要。
変に姿を現さないか、引き際を間違いない賢明さ、それを持っているのが必須条件。
「札幌の学生達はダメだった?」
「若すぎるというか、心が未熟すぎでしたわね」
あの杖をもう少し大事に使ってくれれば次を渡そうと思ったのに、3人揃って嫉妬の対象に突っ込んでいった挙げ句にあっさり成敗されたものだから、その予定は無くなってしまった。
「あの私に絡んできた少年は? かなりの能力だったわよ」
「ああいうのはダメですわね。足りないモノを自分で解決するタイプですもの。私と同じなので、話し合いにはなりませんね」
「今回の者はどちらでしょうね?」
「んー、半々といったところでしょう。ただ私の話を随分としっかり聞いていたので、興味が無いとは言えないようですわね。手が震えてましたわ」
「国内だけじゃなくても何かやらかしてるもんね。程度はあんまり高くないけど、自分なりのテーマを持ってるみたいだし」
近くに住む町の人に怪しまれないように、ある程度の協力をする表の顔と、この町以外の所では自分の実験をしているという慎重さは持っている。
ただ、魔術師としては平均値の域を出ていない事への苛立ちは多少持っているようだ。
「回答を待とうじゃないですの。では神官さん、ご連絡お待ちしておりますわ」
「ええ。それでは私はこれにて失礼します」
神官は路地の暗闇に消えていった。
「それでは私達は日本に帰りましょうか。次の事件を見守るとしましょう」
* * *
復旧したモートレルの魔物探知装置の稼働状態については、丸一日の観察で以前よりも安定していることが確認された。
「直ったという事でいいのね?」
「そうだナ。設計通りの動きをしていル」
ルビィからの報告を受けてヒルダも安堵した。
探知範囲は安定しているし、その距離も元々の設計通りに探知を続けている。
幸いと言っていいのか、この一日で魔物の反応は1つしか出ることは無かったけ。それでもルビィがその位置の状況を【遠見】の魔法で確認して、正しく探知されていることも検証出来た。
「うーむ、キッショウインさんはすごいナ。異世界の魔術師から色々教わってしまった。しかしこれで新たな課題と要因が解っタ。これは学院に帰って纏めないとナ」
今回問題となった地質と設置型魔術の相性について、吉祥院からはその分野の入り口部分しか聞かされていないけれど、学院に報告して王都周辺の地質についての調査を行おう。そして王都の探知装置についても再度問題点を洗い出して改良の余地がないか、検証しよう。
「やることが増えたナ。いやー、ラスタルに帰りたくなイ。もっとキッショウインさんと語り合いたイ」
さすが霞沙羅の仲間で、日本という国の英雄の一人だ。文明による魔術の差異についてはアリシアからも聞くけれど、日本生まれ日本育ちの現地人からの意見も聞いてみたい。
「冒険譚の次も早く書くのよ」
「いーやー、アーちゃんだけ羨ましーイ」
「え、何、ボクがどうしたの?」
アリシアがまたもやロールケーキを持ってやって来た。でも今日はフルーツ入りなので、ちょっと豪華だ。
「はいルーちゃん、小さい探知機の設計図だよ。でもあのアンテナはこっちの世界には無いからねー、伸縮しなくても良いから、連結させるとか、出来るだけ長いのをつけた方がいいよー」
PCから印刷してきた設計図をルビィに渡した。
「まあまあ、装置も上手くいったなら旦那さんも一緒にちょっと一息入れようよ」
「キッショウインさんの事ダ。アーちゃんだけあんなすごい人と知り合いになって羨ましイ」
「もー、また館に来ればいいじゃん。あの人もこっちに興味が出てきてるから」
「むう、だがあの人と話しをするには、そっちの魔術の知識が足りなイ」
「今度またテキストを持っていくから」
とりあえずルビィをなだめて、4人でおやつタイムにした。
「うほほ、今回は果物が入ってる」
ロールケーキを一番分厚く切ってあげたヒルダは、またモリモリと食べ始めた。
「こんな美味しいモノばかリ。しかもこの設計図、すごいよく出来ていル」
「アリシア君のレポートは初めて見るが、よく出来ている」
小型探知機の件なので、夫婦2人で書類を確認し始めた。
「あの低い出力であれだけ広い範囲を探知出来るのはなぜかと思ったラ」
常に全方位を探知をしているのでは無く、レーダーのように一定周期で探知魔法を放射して、魔物や魔獣から反射してきた探知波を受信している。魔力をずっと放出しているわけでは無いので、低出力でいいし、魔力消費も少なくて済む。
「まあ向こうの技術を反映させているんだけど」
「むきー、こんなやり方があるなんテ。このケーキはなんでこんなに美味しいんダ」
ルビィもロールケーキをモリモリ食べてる。
「これは、ウチのリューネに教えて欲しいね」
「気に入ったのなら今度教えに行きますよ」
「それはよろしく頼むよ。美味しい食べ物なら私も食べたい」
「でもアーちゃん、あの探知機ってあんなに範囲が広くなくていいから何個か作れないの? 出来れば警戒で出ていく時に持たせたいのよね」
魔術師がいればある程度近寄れば、魔力探知に引っかかるだろうけれど、騎士達はそうはいかない。ヒルダくらいなら、魔術が苦手でも剣士の感覚でわかってしまうけれど、それを騎士団全員に求めるのは無理すぎる。
「出来るとは思うけど」
「お金は出すわよ。あの冷たい箱も」
「探知機はこっちの部材で一個作ってみて、それ次第かなー。冷蔵の箱はもうちょっと先だねー」
今は分校に部屋もあるので、モートレルで部材を買いそろえて作ってみるのもいい。今度お店を回ってみようと思う。
危険を回避させるのはアンナマリーのためでもあるので、作っておいた方がいいだろう。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。