アリシアの晩餐会 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
鎮魂の儀についてヒルダに相談すると、パスカール家も国境を越えての移動に問題があって、なかなか聖都ギランドルでの式典には行けていないという話だ。
仲間にギャバン教徒がいないし、転移が出来るルビィは興味が無いから、運んでくれと言うのはちょっとはばかられた。
でもアリシアは入居者であるアンナマリーに協力をする立場にあるので、ついでに連れて行って貰えるなら、話に乗ってもいい。
「いい機会ね」
モリモリと、アリシアに作らせた大エビフライを食べながら、ヒルダは鎮魂の儀への参加を決めた。
「大きいエビは良いわね」
「このガーリックライスも良いな」
隣ではレイナードも食べている。
リゾットも食べたいし、来年はお米の生産を増やしたいと思っている。
「うまうま」
子供達には食べやすいように、ちょっと小ぶりなエビフライを用意している。珍しい食べ物に2人とも喜んでいる。
「大神殿用に何か寄贈もしなければな」
人生の中で片手で数えられる程度しか聖都ギランドルに行ったことの無いルハードも、折角なので教団に贈るモノを考えることになった。
「アリシア君、このスープは本当に芋なのか?」
「ビシソワーズっていう、芋とタマネギを使ったスープです」
「いいじゃないか、これ」
「アーちゃんのその箱、売ってくれない?」
「これまだ実験中なんだけど」
とにかく、ギランドルに行くことになった。
* * *
今のアリシアではギランドルへの直接の転移は出来ないので、またエリアスに付いて来て貰って、久しぶりにやってきた。
「戦の神」と知られるギャバンも、「勝利の神」という側面もあるので、オリエンスほどではないけれど商売人の信者もいたり、芸術家や役者のような「勝ちたい」信者もいたりする。
ただ、一般市民からの信仰者は少なめなので、聖都といっても、遠方からの巡礼者が多くないのが特徴だ。
信者が多い騎士などは、基本的に地元にある神殿で用事をすませるのが常識で、冒険者や傭兵のような流れ者が、折角来たので、と礼拝するのが巡礼者の半数以上を占めている。
「聖都に行きたいという騎士や領主の信者は昔から多いけれど、他国にあるっていうのが問題ね」
周辺国とは同盟を結んでいたりと、仲が悪いわけでは無いけれど、巡礼となると仕えている国家とは他国なわけで、訪れる事に対しては抵抗感が生まれてしまう。
「この町は辛い料理が多いよねー」
ここザクスン王国はフラム王国よりも暖かい事もあって、スパイスとかいわゆる唐辛子的な辛い植物の生産が多くて、そういうモノを使う料理も多い。
それから、この聖都ギランドルも、近くにある王都サイアンも海に近いので、羨ましいことに、魚介料理も多い。
そんな町の市場探索はまた次の機会にして、早速大神殿に向かい、アリシアである事を告げて、エバンス家とパスカール家から預かった手紙を見せると、神官達は2人を応接用の部屋に通してくれた。
「両家とも敬虔な信者だからねー」
ヒルダはともかく、エバンス家はなかなかギランドルまで来る事は無いけれど、ラスタルの神殿からは敬虔な信者である話は届いているから、そんな家からの手紙であれば神官達も無視できない。
しばらく待っていると、司祭の一人がやって来た。
「これはアリシア殿、長い休息から戻られたと話は聞いております」
「冒険者の時はお世話になりました」
「我らが教皇様も一目会いたいと申しておりましたが、今は王都の方に行っておりまして、鎮魂の儀担当の私が対応させていただきます」
「それでなんですけど」
改めて手紙を渡し、内容を確認して貰うと
「両家から鎮魂の儀にご参加頂けるとは、大変ありがとうございます。後日神殿を通して両家には正式な招待状を届けさせていただきますと、お伝え願えますか?」
「解りました」
多分、大神殿から神官による転移を使用して、招待状を送るのだろう。
「どの方がいらっしゃるのか、おわかりですか?」
「パスカールは現領主のヒルダで、エバンスはランセル将軍の娘アンナマリーです。2人とも今はラスタルの町にいますので、当日はボク…、私が転移で連れてまいります」
「アリシア殿はどうされますか?」
「帰りもありますから、付き人的な感じで出席でいいでしょうか?」
「宗派こそ違いますが、魔女戦争を終わらせた方ですから、こちらからも出席をお願いしたい所でした。ありがとうございます」
そこで部屋のドアがコンコンとノックされた。
「すみません、プリシラです」
「おおプリシラ様。どうぞお入り下さい」
と、司祭が席から立ち上がった。
「失礼します」
と入ってきたのは、まだまだ子供っぽさが残る、金髪のお上品な雰囲気のある女の子。
急にザクスンの王女が入ってきたので、アリシアは慌てて席から立ち上がり、エリアスは何となくそれに従った。
「アリシアお姉様、ようやく戻ってこられたのですね。お体の具合は?」
彼女がアリシアを「お姉様」と呼ぶのは、8歳の時にメイド姿でボディーガードをやった事があるからで、アリシアがいなくなった3年の間にはさすがに男だという事は解っているけれど、今のところ直す気は無い。
それにアリシアは今日も女子っぽい服を着ているので、これはもう「やめて」とは言える雰囲気でも無くなっている。
「もう全然、いきなりラスタルの大騒動を解決するくらいには元気ですよー」
わあ久しぶり、とばかりにプリシラはアリシアに抱きついてきた。
久しぶりなのにまだ懐かれているようだ。
ちなみに、兄として2人の王子がいる。立場上、兄妹だといってもあまり甘えることは出来ていないと以前にも言っていた。
「お隣の背の高い方は?」
「ボクのパートナーで、エリアスと言います」
「冒険者パーティーの方では無いのですね?」
「うん、神官のイリーナ以外は全員が自分の相手を見つけちゃってるし」
「とてもお綺麗な方ですね」
そう言われてエリアスはアリシアに肩を寄せてきた。身長差から肩が頭に当たっちゃってるけれど。
「ところで王女はどうしてこの町にいるんです?」
「ええ、ちょっとお話しします」
とりあえず全員席について、王女であるプリシラがここにいる理由を聞くことにした。
「ここの所聖都と王都の間で魔物の目撃が多く寄せられていまして。鎮魂の儀も近いですから、それで今日の私はこの大神殿に協力をして貰い、状況の確認と、周辺の警戒をしているのです」
だからなのか、ドレスとかではなく、軽装の鎧姿で、神殿内だというのに腰には剣を刺して武装している。
「ゴブリンとか?」
「そうです。強力な魔物ではないのですが、街道を歩く人達にも被害が出ていますから」
そういえばセネルムントの割と近くでもそんな感じだったなー、と思い出した。
魔物くらいはよくある話、といえばそうだけれど、こちらは聖都と王都の短い街道沿いの話。
人通りとしても大事なエリアなので、警戒自体は毎日行われているはずだから、盗賊とか魔物とか、そういうものは中々発生し辛いはずだが、余程豪胆なゴブリンがいるのだろうか。
「竜騎乗りさん達も?」
「彼らにも周辺を飛び回って貰っています」
「王族とはいえアンナマリーよりも若い子が、現場仕事をやっているのね」
「王族だからです。ここギランドルは我がザクスン王家を初めとした信仰の地ですから、そこを守るのも聖都を擁する国家の責務だと思っています」
セネルムントの孤児院にこの王女と同い年の子がいた、と考えると結構しっかりしているんだなとエリアスは感心した。
勿論、この王女が直接現場に出て行っているというわけではないけれど、城に閉じこもってないでちゃんと表に出てきているのは立派だ。
「武家の家、というかギャバン教もあって正義感の強い王家だから」
「なるほど」
神様本人はそこまで武人という性格の持ち主ではないのだけれど、戦士向けの教団となるとその信徒の正義感も強い。
「姫様が来られて、神官達も喜んでおりますよ。やる気十分です」
「まずは今日だけですけど」
「それでもいいのですよ。プリシラ王女も動いていらっしゃる事が、我々共の励みにもなるというモノ」
ボディーガードが終わってからも何回か会っているけれど、最後に合ってからもう約4年が経っているので、アリシア的にも随分としっかり王女をしてるんだなと感心している。
「お姉様は今何をされているのです?」
「あのー、こことは別の世界で、このエリアスと一緒に下宿の管理をしながら、最近は魔法学院に顔を出したり、料理を作ったりしてるんですよー」
「モートレルの神殿から、騎士団の料理が良くなったと聞いています。こちらの世界には無い料理なのだとか」
「ヒルダの所は近いですからね」
「そうなんですね。出来たら私達の騎士団にも何か提案をしていただけると。冒険中のお姉様の料理はザクスンの中でも噂になっていますから」
「そうですねー、ここの国でも色々やってみたい料理があったりします。辛い料理とか、ご飯を使った料理とか有名ですもんね」
「是非よろしくお願いしますね」
ホントに素直でいい王女様に育ったなと確認して、今日は用事も終わったので、街道警備の邪魔をしないように館に帰ることにした。
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