アリシアの晩餐会 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ところでデザートは、なんなのだろうか」
料理自体はほぼ終わったけれど、品書きを見て誰かがつぶやいた。
そう、もう一つあるのだ。
デザートについては内容が書かれていない。さすがに魚介では無いだろうけれど、と待っていると、透明な容器に入れられた、見た目にも涼やかなアイスクリームが出てきた。
それぞれディッシャーで二杯分、丸いアイスクリームの塊が二個乗っている。
「な、何だこれは」
丸い形だが、焼き菓子ではない。かといってケーキでも果物でもない。
「アイスクリームです。牛乳と卵と砂糖等といった材料で出来た、冷たい食べ物です。スプーンですくって食べて下さい」
この場にいる人間で食べたことがあるのは一人しかいないので、アンナマリーが解説をしなければならない。
「ホントに出来てる…」
あの箱、アリシアの持っている魔法技術はすごいなと、アンナマリーは思う。さすが高位の魔導士クラスだ。
「!」
カチカチに凍っているわけでは無いけれど、アンナマリーの説明通りにスプーンで削るようにすくって、キンキンに冷えたアイスクリームをそれぞれが口に入れると、それぞれが声にならない驚きの反応をした。
「つ、冷たい。甘い」
「なんて濃厚な」
「ね、姉様、こんなの食べて狡い」
向こうだと冷凍庫があって割と簡単に作っているけれど、こっちだとこういう発想を持っている魔術師も殆どいないので、類似品が無い料理だ。
「私もこれが好きで」
これを使ってもっと豪華な姿をした、「甘い」を塔のように積み重ねたパフェとかあるんだぞ、とか言えない。味だってバニラだけじゃないんだ。
「お、お前は毎日何を食べているのだ?」
凍っているという点では、前回もシャーベットがあって驚いたが、今回は似て非なるもの。
アリシアに「料理作ってよ」と頼んだのは確かだが、今晩の一連の料理に、とうとう父親のランセルも立ち上がってアンナマリーに質問を投げかけてきた。
「毎日こんな沢山料理が出てくるわけでは無いのですが、なんか、色々と肉料理とかあったりしまして」
周りはやはり貴族。珍しいモノが大好きな人間ばかりだから、フライまでの数々の料理も驚きながら食べていたけれど、最後のアイスが、見た目が地味ながらも凍っている料理という一番のインパクトがあったようで、食べ終わった容器をじっと見ていたり、名残惜しそうに側面などに残った、溶けて液体になってしまっている元アイスクリームをスプーンでかき取っていたりと、大好評だ。
「これは、本当にこの屋敷で作られた料理なのか?」
「あ、あの、アリシアが別の新しい魔工具を作ってきてまして、魚を運んできた箱よりももっと冷たくなる箱で作ってます」
「アリシアを呼んできなさい」
* * *
結局アリシアは会場まで冷凍の箱を持ってこさされて、あのアイスクリームはどういう事なのかを問い詰められた。
「もっと内陸部への冷凍での輸送も良いかなと思ってるんですけど、まずはラスタルへの冷蔵運搬をメインに考えてまして。それでもちょっと実験用に作ったので、アイスも良いかなって思っただけです」
「ではこのデザートはその箱で作る事が出来るのだな?」
前回のシャーベットは道具を使わずに魔法で作られたモノなので、あれはないなと思ったけれど、今回は道具を使っているから誰でも再現することが出来る。
「これで作りました。あの、フラム王国での砂糖生産の目処も立ちましたし」
「国王から聞かせて頂いている。あの平民が食べる不細工な蕪を使うというものだな?」
「え、あれ、本当にやるんですか?」
蕪の砂糖の話は、ずっと前の初キャンプの時にアリシアが持ってきた記憶があるけれど、本気で生産をするつもりになっている事に、アンナマリーは驚いた。
「ヒー…ヒルダとハルキスに提案をしたら、なんか皆に悪いって、国家レベルの話になっちゃって。あの蕪、それほど人気ないじゃないですか。じゃあ今年のはまだ漬物として漬けてない分から始めて、来年からは増産して、砂糖専用にしようって」
「アリシア、その冷たい箱は簡単に作れるのか?」
他の貴族からも声が挙がった。
皆アイスクリームがまた食べたい。何でもうちょっと、せめてもう一塊入れてくれなかったのかと思っている。そのくらい衝撃的だった。
「保温と気密の問題とかで、ちょっとこれ、このままだと外まで凍っちゃうので、このままは同じモノは作れないです」
今回は中から冷気が漏れて蓋の接合部が凍っていた。機能としては成功だけれど、構造としては失敗だ。
「今は出来ないと言うだけだな?」
「まあそういうことです」
「じゃあ作れ、良くして作れ。出来たら買うぞ」
あのアイスクリームが自分の屋敷で食べられるのならと、他の貴族達も頷いている。
「まあ、あの冷蔵の箱もいずれは売るつもりですし」
「よし、魔法学院には期待しておこう」
魔法学院て何屋さんだっけ、と思いながらも、研究成果を売ることもあるから、まあそうなるかな、とも思う。
兎にも角にも、今日の晩餐は近年まれに見る程の良い食事会だったと満足して、品書きを大事そうに持って、貴族達は帰っていった。
「う、うーん、大変な事に」
「我々貴族の前にあんなモノを出せば、それはああなる。しかし、冒険中の話はヒルダ殿やルビィ殿から色々と聞くが、君の魔術はどこか発想が違うな」
「単純にルビィには勝てないですから、自分の方向性を見いだしただけです」
同い年の同学年でそこまで差の無いナンバー2じゃなかったかな、とランセルは思うけれど、本人同士では1位と2位には覆せない差があるのかと考えた。
「とにかく、今日は我が屋敷に来てもらい、あれだけ満足させて客人達を帰すことが出来た。アリシア君、感謝する」
品書きは全員が持って帰ったので、夫婦揃って、この場にいなかった貴族達に今日食べた料理を自慢する気だろう。
「そうですか、それは良かった。でもちょっとボクはあんなに一度に色々作るのはまだそこまで慣れていなくて」
「そうなのか? ウチの人間を使ったとはいえしっかり出来ていたと思うが。では次に向けて、アンナマリーは何かいい料理は思いつくのか?」
「カレーもいいんですが、ハンバーグっていうのがありまして、こちらにも似たような見た目のものがある挽肉料理なんですけど、完成度が全然違っていて、種類も色々あって。こう、ハンバーグとスープとサラダと、あとライス、ガーリックライスで食べるのが好きです」
「私の娘が気に入っているのであれば、それは美味しいのだろう。次回機会があれば、それだけでも良いぞ」
ここ数日、セネルムントから名前だけは流れてきたカレーという食べ物も気になるけれど、娘がすんなりと名前を出したハンバーグという料理も気になる。
それにガーリックライスとはなんなのだろうか。そんなに美味しいのか。
「とにかく次も期待したい」
なぜか次もやれという話になっている。
「ところで厨房では何を食べてたんだ?」
娘の、アリシアに対する口が悪い。
「ピザを食べてたよ、何種類か作って。ポテトもあったし」
「くうー、ピザとか、狡い。一切れくらい出して欲しかった」
昔から家族みんなで同じ料理を食べてきた妹が羨んでいるピザってなんだろう? それをなぜアリシアは使用人達にだけ食べさせたのか。
だがきっと美味しいに決まっている。
あとで厨房の人間に確認を取ろう、と兄達は思った。
娘の反応は、今日のところはアリシアに随分と信頼を置いている証拠なのだろうと、ランセルは黙っておこうと決めた。
「それはともかく、アリシア君、申し訳ないが一つ頼まれて貰えないか?」
「他に何かありますでしょうか?」
「キミは隣国ザクスンの、聖都ギランドルにも出入りをしていたと聞いているが」
「ボク自身はギャバン教徒では無いですけど、ヒルダもいますから、冒険者の時に何回か仕事をしています」
「そのギャバン教では、宗派を問わず戦いで散った戦士の魂の安寧を祈る、鎮魂の儀という儀式があるのは知っているな?」
「ありますね」
「規模は小さいながらラスタルの神殿でも行っているので、騎士の家としてそちらには毎年参加はしているのだが、今年はエバンス家の代表としてアンナマリーを連れて、聖都ギランドルでの式典に参加してくれないか?」
「お嬢様をギランドルにお連れすれば良いのですか?」
「私が聖都に行くんですか?」
「そういう事だ。式典はまだ先だが、手紙を渡そう。教団も準備があるだろうし、出席の意志を伝えてはくれないか?」
「だったらヒルダも誘ってみますね?」
「そうだな、彼女も敬虔な信者だし、それもいいかもしれない」
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