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アリシアの晩餐会 -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 ブルックスで必要な魚介類を買って、アリシアは転移でラスタルに帰ってきた。これからエバンス家で行われる晩餐会に向けて料理の準備をしなければならない。


 今回のテーマはやっぱりこの冷凍箱のアピールだから、新鮮な魚介類を使った料理に比重が置かれている。


 本格的な輸送が始まったら、まず買って貰うのは王族や貴族といった富裕層だ。それが軌道に乗ればいずれ庶民にも、と国王も思っている。


 だから海鮮系の料理が少ないラスタルに対して、こういう料理があるんですよ、という紹介も含まれている。販促、そう魔法学院の販促活動でもある。


 それと今日はもう一つ、隠し球がある。


 魚介類を持ってエバンス家の屋敷に入れて貰い、早速厨房に向かった。


「折角子爵になったというのに、今回も客人としてのもてなしをするどころか、料理を作らせてしまう事になってしまい、申し訳ない」


 先日ちょっと重い話になってしまった、モーゼス公爵が挨拶にやって来た。


「しかし孫が褒めている、君が持ってくる料理が食べたいのも儂の本心だ。こんな年の人間だが、やはり新しい料理には目がない」

「今後のラスタルに関わる料理ですからね。お金も出して貰ってますし」


 今日の食材は全てエバンス家のお金で揃えられている。


「なんていうか、向こうの料理を持ってくるのは、3年間ずっと考えていたことですから」

「笑顔でそう言われてしまうと、これ以上何も言えんな。すまないが、今日はよろしく頼む」


 モーゼス公爵は苦笑いをしながら厨房から出て行った。


「じゃあすみませんけど、またお願いします」


 前回作った昼食は国王も喜んでいたというから、料理人達は今回もアリシアに従おうという決意で集まった。


  * * *


 厨房には、今日はホストなので早めに帰ってきたランセル将軍や、来客対応のサポートの為に早めに帰ってきた2人の息子も顔を出した。


 前回はアンナマリーの兄は2人とも屋敷にいなかったから食べていないけれど、実は弟のカイルの方は森林伐採の時にお試し程度とはいえバーベキューを貰っているので、あの話は家族の中では共有されている。


 すごいものを食べたと。


「今日はまたよろしくお願いする」


 次男カイルは、アリシアより一つ下の18才。アリシアは元平民だが、今は子爵、と自分よりも上の立場なので中々取り扱いが難しそうにしている。


 とりあえず挨拶を終えて、来客の準備の為に去って行った。


「エバンス家の一員だから、ボクも付き合いにくいよー」


 自分は子爵だぞ、とマウントを取る気も無い。元将軍と現将軍がいるのもあるし、その家の中ではさすがに偉そうには出来ない。


 する気も無いけれど。


 そしてアンナマリーもやって来て、そんな身分の悩みを相談しても、やっぱり答えは出ない。


「まあ、仕方ないというか」

「それでエリック君はどうだったの?」

「約束通りにちゃんと犬のぬいぐるみで遊んだぞ」

「それはよかったねー」


 学院に行く前にアンナマリーをこの屋敷に送った時に、甥っ子君は今日を楽しみにしていた、とばかりに飛びついてきたそうだ。


そして遊んだ後の今はお昼寝中。


「ところでブルックスに行く前に置いていったその箱は何だ?」


 厨房の片隅には、地球で言えば炊飯器くらいのサイズの箱を、アリシアは置いていっていた。


「これ、冷凍用の箱だよ」

「冷凍って、あの館でアイスクリームが入ってるやつか?」

「アイス作ってるから。もう入ってるよ」


 冷蔵箱とは別に追加で作っていた冷凍用の箱の中には、丁度入るサイズの金属の箱を入れてあって、そこでもうバニラアイスを冷やしている最中だ。


「ア、アイスクリームがこっちの世界で食べられるのか?」

「バーベキューの時は地球で作って、前回のシャーベットは厨房で魔法で固めて作ったけどねー。このアイスは箱も含めて全部こっちの世界のモノで作ったよ」

「す、すごい」


 さすがアリシア様だと、アンナマリーは驚いた。これが結果を出せば、この屋敷でもアイスがいつでも食べられるようになる。


「今日の隠し球だからねー。誰にも言わないでねー」

「はい」


 言ったら絶対面白くない。家族にも言わないと心に決めた。


  * * *


 町がだんだんと夕闇に包まれていっている頃、招待された客人達が次々とエバンス家に集まってきた。


 モーゼスとランセルも、アンナマリー達もその対応に追われることになった。


「アリシアの料理は物語の中では有名ですがねー、所詮は平民の出だろうと侮っていたが、あの国王や魔法学院からもその評判が聞こえてきましてね」

「我が娘が彼の腕を大夫信用しているくらいでして」


 品数の少ない昼食だったとはいえ、あのマーロン国王が満足したという話しを聞いているので、多少半信半疑ながら、招待された貴族達は今晩、エバンス家に集まった。


 それに魔法学院が進めているという、ブルックスからの鮮魚の運搬実験が上手くいったという事も聞いているから、実際どうなのかと、半分期待してやって来ている。


「これは何かな?」


 メイド達が夕食会会場の各座席に何らかのメモを置き始めたのを、ある貴族が目にした。


「アリシアによる本日の品書きです。どういう料理かという説明ですな」

「ほお、あの平民出がこれほどの数を作るというのか」


 貴族達からの「アリシアは平民出」という言葉には最近のアンナマリーは聞いていてあまり気分が良くなかったけれど、ぐっと我慢して黙ることにした。


 どうせ後で撤回することになるぞ、と。


 今日の料理は全てやどりぎ館で食べたことがある料理だ。食材は世界が違うので全く同じ料理では無いけれど、アンナマリーも美味しいと認めている料理だ。


 皆好き勝手に今日の食事についての話しをする中、やがて会場に食前のワインが運ばれてきたので、思い思いに会話をしていた客人達も、案内された席にそれぞれ座り、適度に冷えたワインが当然のようにつがれていく中、食事前のお通しとして、小ぶりのフィッシュアンドチップスが運ばれてきた。


 アリシア独自の下味がついていたり、一緒に出てきた専用のソースは、本場生まれのシャーロットも自宅に持って帰りたいと満足している逸品だ。


 チップスの方は後の事を考えて、本来の揚げたモノではなくオーブンで焼いたモノなので、ホクホクであっさり気味になっている。


「彼の家では冷やしたワインを出していると噂があるが、これも中々」

「早速の魚が出てきたが、この食べ方も悪くないものだ」

「この添えてあるソースの酸味がいい」


 冷えているワインが美味しかったようで、どうなっているのか、桶を見に行く客人もいた。


 アンナマリーの隣に座っているエリック君はどうやらこのチップスというか、ポテトが気に入ったようだ。


 やがて白身魚と野菜のアヒージョが運ばれてきた。まだ先があるので、これも量は少なめ。カットされたパンがついている。


 なんだか解らない食べ物が出てきたので、皆が品書きを見て確認した。


 たっぷりな具が熱々に調理された見た目がなかなか美味しそうだ。


「本当に魚介料理メインなんですな」


 ラスタルでは新鮮な魚介を使った料理が多くないので、早速期待感が増してきた。しかもアヒージョなんて料理は無い。


「魚の味がちゃんと活かされている」

「これは、なかなか、この熱さが、いい」


 熱々の具材を、冷ましながら、美味しそうに食べている。


「お前はこういう料理ばかりを食べているのか?」


 バーベキューの衝撃を知っているカイルがアンナマリーに声をかけてきた。


「そんな事はないですよ」


 次にはハーフサイズくらいのエビグラタンが運ばれてきた。こちらも熱々で、表面についたお焦げの部分が美味しそうだ。


「チーズが上にかかっているのか。とろけているのもいいが、カリッとしている部分もいい」

「これも、なかなかいい熱さだ」

「アンナちゃんは下宿でこういうモノを食べているの?」


 ハフハフと冷ましながら食べている義姉もアンナマリーに聞いてきた。


「毎日では無いです」


 アンナマリー的には、このラスタルの実家でやどりぎ館で食べている料理が出てきているのが驚きだ。以前から「屋敷に持って帰りたい」と思っていたけれど、それが現実になっている。


 《あいつ3年間何してたんだ》


 それが気になってしょうがない。


 そしてさっき「平民出」と言っていたおじさんおばさん達は食べる事に集中して、段々黙っていっている。


 次に魚介のトマトリゾットが出来てきた。


「米料理とは…、しかしこれは」

「そういえば、先日芸術都市に行ったのですが、あのライアの劇場で、誰も知らない綺麗な米料理が出てきましたよ。何と言ったか…」

「それアリシアの仕業ですよ。パエリアって料理です」


 ライアの劇場に料理を提供したことはアンナマリーも聞いている。


 やどりぎ館でもこれまで何回か出たパエリアは、アンナマリーも気に入っている。


 それにしてもいきなりパエリアを教えたというのが驚きだが、解らなくもない。あれは食べる前に目から楽しませてくれる。


「あれとこれは別の料理なのか。そういえば大きなエビを揚げたモノも良かった」

「多分この後出ると思います」


 次にはメインで揚げ物が予定されているけれど、品書きには大エビのフライが書かれている。

 それにしても、今度はランセル将軍がアンナマリーを無言でじっと見ている。


「これ美味しいです、姉様」


 甥も味わって食べている。


「そ、そうか。一応お粥の一種なんだが、私も好きで」


 そしてメインとして揚げ物が載ったプレートがパンと一緒に出来てた。


 カニクリームコロッケと大エビのフライ、それとイカリングフライに牡蠣のフライ。あとなぜか「チューリップ」とか呼んでいた鶏の唐揚げがある。


 確かに、魚介ばかりなので、鶏肉が一つあるだけでもちょっといいし、見た目が面白い。


 ウスターソースとタルタルソースもちゃんと作られている。


「それぞれ綺麗に揚がっている。衣がサクサクだ」

「大きなエビが、プリプリじゃないか」

「この柔らかいコロッケとかいうものは、どうやって作ったのだ?」

「なぜか鶏肉があるが、食べやすい形だな」


 見た目にも大きく、綺麗に真っ直ぐな形に揚がっているエビフライが好評だけれど、この謎のクリームコロッケも中々のインパクトを与えている。エビとカニ、料理方法は違うけれど両方共にいい。


 とにかく、皆ラスタルに住んでいるものだから、港町ブルックスでも食べる事が出来ない魚介を使った料理に喜んでいた。


「お前は良いものばかり食べているんだな」


 上の兄にも言われてしまった。


 今日だけでもこれだけの魚介を使った料理があるのかと、客人達は満足気に食事を終えた。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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