二人のランクアップ
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
以前から吉祥院に言われていた通り、日本の魔術師協会から階級のランクアップの連絡が来たので、新しいカードを受領しに横浜の事務所までやってきた。
ランクアップの理由はキャメル傭兵団の捕獲と鐘の幻想獣の撃破、それと横浜妖刀事件に関するレポートだ。
ほぼ共同作業なので霞沙羅もランクアップになった。
どのくらい上がるのかというと、伽里奈はC級の15位から5位に、霞沙羅はA級の5位から3位になる。
二人揃って被った内容の功績ではあるけれど、C級の人間とA級の人間ではさすがに上げ幅が違う。
その他にも何名かランクアップの対象者が揃い、指定された部屋で担当者から説明の後、新しいカードが交付された。
「キャメル傭兵団については各国から調査団が続々と来ているでござるよ」
二人が来るからと、協会本部の建物に姿を見せた吉祥院が話しかけてきた。
「警察の方も警戒をしているみたいだが、救出には誰も来ないんだな。お前達がすすきので相手をした二人組が絡んでるんだろ?」
「ワタシも関係者に注意はしたのでありんすが、今のところ何の動きも無いだっちゃ」
お互い本気は出せていないけれど、伽里奈と互角に戦えるのが一人間違いなくいるので、それは霞沙羅とも同等という事になる。
傭兵団の4人は横浜に移送されてきたので、そういうのがいるぞと警察には伝わっていて、厳重な警護が行われている。
「かなりの実力者とはいえ、リスクもあるし、顔も会わせてない外注同士だろ。その辺はドライなのかもな」
一番上、というか依頼主も、ブローカーを挟んだクライアントなので繋がりが無い。下手に助けようとして失敗すると、その辺の繋がりのヒントが出てしまう可能性があるので、余計な動きをしてもあまりいいことはない。
仲間ではないのなら、知らぬ存ぜぬを貫くのだろう。
だからといって別のが来る可能性もあるからまだ油断は出来ない。
「とにかく、盗みの実行グループが一つ潰れただけでも、ワタシらみたいなのは一安心でありんすな」
勿論、窃盗団はあれだけでは無いけれど、全世界でも有名だったキャメル傭兵団が捕まったことは大きい。
今後はこれまで盗まれた魔装具や魔工具などの行き先を一つでも多く明らかにすることだ。
「ところで吉祥院、伽里奈の世界に行く気はねえか?」
「アリシア君のところでありんすか?」
「あれだぜ、こういうのがあってだな」
霞沙羅は先日、魔法学院で見た飛行船の写真を見せた。
「あいつの国のモノなんだが、やっと一隻出来たらしいんだ」
こちらの世界には飛行機もヘリもあって移動に向かないし、最後には広告用などでも使われながら、飛行船は世界的に衰退している。
「も、木製だっぺ!」
「ガスじゃなくてここに貯めた魔力で飛ぶヤツだぜ」
「この上部が魔力タンクでありんすか。あのアンナマリー嬢のいる町に来るのであれば、見てみたいでがんす」
「これから飛行試験で、国内各地を飛ぶらしいですよ」
「モートレルとかいう町に来たら連絡してやる」
「頼むでありんすよ」
見たこともない魔術の使い方をしているので、吉祥院も興味を持ったようだ。
* * *
「飛行船は吉祥院さんも興味があるようだったよ」
今日は飛行船の飛行実験で港町ブルックスに行くそうなので、アリシアも片道だけ乗せて貰う事になった。高位の魔導士だからというだけでなく、異世界での知見からの意見出しをして欲しいらしい。
「チキュウとかいう世界の方が文明レベルが高いと思っていたのだが、これは無い物なのカ?」
「あるにはあるんだけど、もっと速い乗り物があるから」
「どのくらい速いんダ?」
「システィーよりは遅いくらい」
いわゆる飛行機のことだ。旅客機は音速に行くか行かないかなので、多分そのくらい。運航をやめてしまった超音速旅客機や戦闘機はまた別の話なので、話からは除外した。
「そんな世界なのカ」
「魔法で飛んでるわけじゃないけど、ボディーの素材も木じゃないしね。軽くて頑丈」
「どういうモノなのか気になるじゃないカ」
「あの家の庭に出ると、時々空を飛んでるのが見れるよ」
「今度行った時に見たいものダ」
「ただそういう魔法を使わない機械の文明が進んだから、こういう飛び方をする物体は無いよ」
「だからカサラ先生とキッショウインさんが気にしてるのカ」
今日のアリシアの予定は冷蔵箱の実験で、前日頼まれたこともあって、エバンス家にいくつかの貴族が集まって食事会をするので、その料理向けの買い出しだ。
「その箱はなぜ一日しか保たないのダ?」
「衛生問題だよ。一旦機能を切って中身を洗わないと汚くなるよ。生ものを一時的に保管する箱の中身が不潔とかありえないよ」
起動する際に取り付けるカードには、大体一日分くらいしか魔術回路が動かない程度の魔力タンクがついている。
やろうと思えばカードを改良してもっと長く動かすことは出来る。
実はそっちの実験は、モートレルで作って貰った宝箱でやっている。
ただ、ずっと稼働していると魚や肉を運搬後に洗う気が無くなりそうなので、わざわざカードを外して魔力を充填する為のインターバルを作ってある。
「アーちゃんは変なことを考えるナ」
「お腹壊しちゃうよ。魚とか肉を腐らせない為の冷蔵箱なんだから、別の要因でお腹壊されてもねー」
「まあその辺の運用は、アーちゃんに一任されているから、任せるガ」
今日の所は街道に沿って飛んでいる飛行船。眼下には時々徒歩移動者や馬車の姿がある。
「そういえば、アーちゃんのあの小さな探知装置はどうにかならないのカ?」
「何に使うの?」
「これに乗せるんだガ。あれは小さくていイ」
飛行船には空を飛ぶ魔獣対策で、小さめな探知装置が搭載されている。操舵室に置いてあるのだけれど、装置自体がちょっと大きいし、探知範囲も狭い。
「いつまでもヒルダの所に置かれているから、私も持っていくわけにはいかなイ」
「モートレルの設備はまだ直らないの?」
「野良ドラゴンのパーツも手に入ったから、壊された発生装置はもうじき出来上がるゾ。ただ、カサラ先生が妙なことを言っていたじゃないカ」
「土地がどうこうって?」
「そうそう。それが気になっていル」
あの小さな探知装置があると無いとでは違うとヒルダは言っていたけれど、それでも以前よりは騎士達の巡回は多い状態なので、アンナマリーの仕事も増えたままだ。
早く直して欲しい。
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