セネルムントでの出会い -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ライアはカレーを味見してから、ルビィに運ばれて芸術都市に帰っていった。
そして神殿の方では、巡礼者達へカレーの配給が始まり、食事の列が出来た。
「カレーってのは軍で出しても一定の人気があるからなあ」
カレーのスパイシーな匂いに誘われて、巡礼者達は美味しいモノを期待しながら自分の番を待っている。
今日の料理はアリシアが関わっているという謳い文句も大きい。
「美味しい食べ物って、大切なのね」
食事を終えて出てきた巡礼者達は、とても満足した顔で食堂を去って行く。
今日来たばかりなのか、明日帰路につくのか、それとももう少しゆっくりするのか解らないけれど、苦労してたどり着いた聖都での労いで、美味しい食事が提供できてよかったとイリーナも喜んでいる。
「毎回毎回カレーってワケにはいかないだろうけどねー」
「おお、アリシア殿。あのカレーは好評です」
料理関連の部門にいる神官が嬉しそうにやってきた。
「今後もあれの提供を続けていきたいですな」
「そうですか、それはよかった」
「しかし巡礼者ではない貴族の方があれはなんだと聞いてきておりまして」
「まあそうなるだろうねー」
「あの見た目で貴族が食べたくなるのか?」
お椀に入ったカレーにやや小さめなナンが二枚が配給されている状態。正しい出し方ではあるけれど、貴族が食べる外見ではない。
ただやっぱり、近寄っただけでカレー独自のスパイシーな香りが貴族の鼻をくすぐってくるのも事実だ。
教団に寄付もしてくれているんだろうし、あのカレーでよければ食べさせてあげたら、という感じだ。
神官は軽く頭を下げると、「忙しい忙しい」と言って配給場所の食堂に戻っていった。
「じゃあ帰るか。次は私らの夕飯が問題だ。何だ?」
「串カツですよ。準備はしてるんで後は揚げるだけです」
肉と野菜と魚等で十種類準備している。勿論二度でも三度でもソースにつけていい。
「なら酒だ、酒を飲むぞ」
「じゃあねー、イリーナは練気のトレーニング忘れないでね」
エリアスはとっくに帰っているので、アリシア達2人もやどりぎ館に帰った。
* * *
「芸術都市とか、なんか普通にヨーロッパにありそうな景色だな」
折角ライアに会ったのだから、今回はサーベルを見せて貰おうと霞沙羅もついてきた。
アリシアは今回も劇場で出す料理を教える為に来ているので、入国の許可はあっさり下りた。前回の料理は貴族の間で好評なので、町としてももっと教えて欲しいという意向だ。
霞沙羅については「アリシアの助手」という扱いで、一緒に許可が下りた。
通りは石畳で整備されていて、所々に銅像や石像などの芸術品が並び、町の所々ではキャンバスを置いて町の絵を描く者、音楽を奏でる者など、アーティストが作品作りに精を出していたりして、確かにヨーロッパのどこかの町、という感じがする。
そんな町には今日モートレルとは違う、華やかな活気がある。
「霞沙羅先生は何かストリートパフォーマンスとかできます?」
「脇差しでジャグリングが出来るぜ。後はギターだな、エレキじゃない方の。あの家には置いてないがな」
「なんでギターなんです?」
「私のキャラが吟遊詩人技能を持っててな。マスター次第だが、ダイス(サイコロ)を振って出た目だけ小銭が稼げるんだ。それが気になったから、じゃあ実際にやってみようと思った」
「またTPRGですか」
学生時代が短かった霞沙羅にとって、年上のクラスメイトが誘ってくれたTRPGは短い青春時代の象徴のようなもので、やる時は全力でキャラを演じたそうだ。
そういう意味では、まあこのアシルステラを楽しんでいるのなら楽しんでいって欲しい。
そんな霞沙羅の為にわざわざ大回りして町を案内しつつ、劇場の前にやってきた。
今日は午後に2回の公演の予定があると入り口に看板が掲げられている。コメディ演劇で庶民的な値段なので、食事はないようだ。
「なんというか、こいつが一番成功しているように見えるな」
「出会った頃からずっと劇場を持つのを目標にしてましたからねー」
一人は領主、もう一人は次期族長、一人は屋敷を貰って魔法学院に復帰、一人は聖都の神殿を一つ管理なので、冒険が終わってみんな成功しているけれど、立場もゼロから始めて報酬を貯めて目標の劇場を手に入れたので、ライアが一番成功して、夢を叶えたとは思う。
「知り合いとしては応援もしたくなりますでしょ?」
「まあそうだな」
劇場の中に入っていくと、ライアが待っていた。
「ライアは公演には出るの?」
「今日の公演は場所貸しなのよ。まあそこまで大きい劇場じゃないでしょ。それで芸術学院の子達が貸してくれって」
「そうなんだ」
「どっちかは見て感想が欲しいって言われているけど、同じのをやるから時間的には2回目かしらね」
「はーい」
「それで練気っていうのも教えてくれるの?」
「それは私が教える。こいつはメシに集中した方がいいからな」
「あら、よろしくお願いするわ。サーベルも持って来てるから」
「後で見せてくれ」
今回は以前に言ったとおり、ビーフシチューがメイン。
まずはデミグラスソースを作るので、アリシア達は厨房に向かった。
完成は明日になるので、今日はデミグラスソースを作って、肉を投入したら、煮込みを指示して帰って、明日また煮込み具合の確認とローストビーフとカステラを教えに来る予定だ。
今日の分の材料は買ってきて貰っているので、もう厨房に揃っている。
「よろしくお願いします」
料理人さんも、前回教えた料理が貴族達の間で評判になっているので、さらにやる気が出ている。
「デミグラスソース作りが慣れたら、それを使う別の料理を教えに来ますからねー」
早速デミグラスソースを作り始めた。
* * *
デミグラスソースが出来て、一度火を通したブロックのお肉を投入して、後はひたすら煮込みという段階に入った所で、ある意味今日の行程はお終いとなったので、ライアは霞沙羅とサーベルのことで話し合いを始めた。
あのサーベルは先端に魔力の刃が発生して、それによる凶悪な切断力が特徴となる、取り回しに優れる魔剣だ。その威力は城壁をバターのように切り刻んで穴を開けてしまうほど。
霞沙羅も6人の武器の中で一番使い勝手が良さそうだと見ている。武器の形も取り回しがいいし、能力的にも大勢がいる所で使っても支障が無い。
「これは改造はいらなさそうだな」
「不満点としては、間合いが狭い事かしらね」
「ならあいつの魔剣が今どうなっているか見てみるか?」
「気になるわね」
霞沙羅はアリシアの魔剣が今どうなっているかを動画で見せた。ちょっとやり過ぎだな能力だけれど、得意のアクロバティックな動きが出来るのが気に入ったような反応をした。
アリシアの方はこの後の、地味で大事な作業を教えた。
「それで、弱火で焦げないように面倒を見て下さいね。ずっと火にかけないで、時々火を消して、ある程度冷めたらまた火をかけて、を繰り返して下さいね」
「解りました」
「うーん、今日はこれで終わってしまった」
それでももうちょっと作業を確認したい所だ。
「しかし、これで全員と会ったって事か。この大陸を6人で冒険かー、どんなんだったんだろうな」
「そんなにロマンばかりじゃないですよ」
「でもほんと、アリシアの存在は大きかったわね。色々あった旅だけど、終わってみてヒルダ達との昔話になると、道中での食事の話ばかりになるのよ」
「こいつ、こっちに顔を出すようになってからは、行く場所行く場所でメシの話してるからな。ウチの軍もこいつのせいでちょっと助かってるしな。胃袋を掴まれると、どうもな」
「所であのカレーって料理は、ここで出せる料理なのかしら?」
「今作っているシチューくらい手間暇かければ、貴族に出してもいいと思うけど」
「お前ちょっと食っただろ、こいつが作ろうとしているのは、あれとはレベルが違うぜ」
「また今度持ってくるけど、とりあえずはビーフシチューが軌道に乗ってからだねー」
「明日は何を作る気だよ」
「ローストビーフとカステラです」
「ローストビーフは料理としては単純だろ。こっちに無いものか?」
「肉の塊を焼いて切り分けて、ってうのはありますけど、あそこまでちゃんとした料理ではないですし、キモになるあのソースは無いです。出し方とかマッシュポテトも教えます」
「まあ日本人が勝手にアレンジしてるしな」
「そんな感じで。カステラもそうですしね」
「だよなー。あれも間違いの産物だからな」
その後は霞沙羅とライアが互いの腕前を見るべくまた鍛錬を行い、その後には練気を教えてやどりぎ館に帰った。
結局翌日はアリシアだけが芸術都市ベルメーンに行き、ビーフシチューの仕上げとローストビーフとカステラを教えた。
牛肉をある程度以上丁寧に調理した料理なので、貴族に喜ばれるだろうとのこと。
ビーフシチューは、ヒルダの家で食べたモノとは違う作りではあっても、ステーキ的なリッチな見た目に、ライアは納得していた。
出し方についても幾つか提案して、その中から劇場や演劇内容に合ういいものを選んで貰う事にした。
それにしても、少しずつアシルステラに料理を移植していく試みは、このところ順調に進んでいると言ってもいいかもしれない。
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