セネルムントでの出会い -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
エリアスの方も適当な頃合いに帰ると言っていたので、アリシアはカレーを作りに大神殿の方に戻ってきた。
礼拝堂では、正面の大きな扉が開け放たれていて、外まで溢れた人達が中を見ている。
中からは教皇の演説が聞こえてくるので、絶賛礼拝中のようだ。ありがたい話を聞く為に人が集まり、全員中に入れないので、ドアを開けて外にも聞こえるようにしている。
厨房への入り口はここでは無いので、ぐるりと回って、別棟の出入り口から入っていく。
中ではアリシアの指示通りに、ナンが焼かれている。今日は数が多く必要なのでカレーより早めに作り始めて貰っている。
「じゃあカレーは仕上げにいきましょうか」
具材が煮込まれているいくつかの大きな鍋にカレーのスパイスを投入する。そこからスコップのような大きなヘラでかき混ぜていくと、厨房内にスパイシーな匂いが充満してくる。
「な、なんですか、この匂い」
「さっきのシチューと全然違いますね」
後は味を調整して、カレー作りは終了し、夕食の時間を待つ状態になった。
「これは、すごいですね。いい匂い」
「ヒルダの騎士団にも教えましたからね。いずれ町のお店にも伝える予定なんですよ」
まだまだナンを作って貰いつつ、外までカレーの匂いが微妙に漏れ始めている中、アリシアは大神殿脇にある、日本でいえば草津温泉の湯畑のような、熱々の源泉を冷ます為に作られたプールに立ち寄った。
オリエンス神からの賜り物である源泉を眺めるのも観光スポットのようなモノで、大地から滾々と湧き出る温泉を有り難そうに信者が眺めたり、聖なる源泉で手を洗浄出来るような場所まである。
小さなオリエンス神の像の掌からちょろちょろと流れているその源泉を、アリシアは持ってきた水筒にちょっと保管した。
前回温泉に浸かった時に霞沙羅も何かを言っていたので、やどりぎ館に帰ったらちょっと渡そう。
そうしていると、礼拝堂からパイプオルガンの音が微かに聞こえてきた。教皇様の話が終わって、霞沙羅によるパイプオルガンの演奏が始まったようだ。
気になったのでアリシアも裏口から礼拝堂の舞台袖に入れて貰うと、見覚えのある女性2人の背中があった。
2人は霞沙羅の曲を聴いているようなので、邪魔をしないように、演奏が終わるまで待つことにした。
やがて曲が終わり、教皇様が霞沙羅が先日の噴火で被害を最小限に抑える提案をしたという紹介をしつつ、喝采を浴びる中
「ルーちゃんはともかく、なんでライアが来てるの?」
「あらアリシアも来てたのね。私はここの演奏者5人の衣装デザインを頼まれて、どういうのを着ているのか礼拝を見てたのよ」
「私が連れてきたんだゾ。そしたらカサラ先生がいるから見ていタ」
「教皇様に頼まれちゃってねー。あと演奏者の5人の練習につきあったりで」
「あの人、いいわねー。あの服もすっごく良いけど、クールな感じの佇まいも。アリシアの所の住民なんでしょ? ちょっとあの服を見せてって頼めないかしら?」
「大丈夫だと思うよ」
信者達の拍手に送られて、霞沙羅はアリシア達がいる側にはけてきた。
「なんだこの面子は?」
「あの、こっちがボクの最後の仲間でライアなんですけど」
「そうなのか。こいつだけなんか毛色が違うな。男装の麗人的な、女性ウケする感じだな」
金髪でちょっと背が高くて、今日もパンツルックだけど、中々オシャレに纏まっているライアは芸術家のようで、ヒルダやイリーナのような強者の雰囲気は無い。
「これでも軽業が得意で一流のサーベル使いだったり、矢とか飛び道具も得意で、変装も出来て、結構魔法も使えるんですよ」
「まあお前の所のメンバーだから、油断は出来ない感じだな。今日はさすがに魔剣は持ってないな?」
今日は聖都なので護身用にステッキを持っている。これもまたオシャレな感じだ。
「向こうの異世界の英雄さん、今着ているその服をちょっと見せて貰えないかしら。演奏者5人の、服装デザインを依頼されちゃって」
「ああいいぜ。出来たら今度でいいんだが、お前が持っているサーベルを見せてくれればな」
「サーベル?」
「カサラ先生は魔剣鍛冶で、私の轟雷の杖やらロックバスターなんかの調整をお願いしている所なんダ」
「え、あれを?」
「使いやすくして貰ってる最中ダ」
「あらそうなの。まあもう今のところは用は無いし」
「よしよし、じゃあ服を見せてやろう」
「イリーナ、ちょっとどこか部屋を借りれないかしら?」
今日の案内役イリーナも舞台袖に捌けてきた。
* * *
打ち合わせ用の部屋を借りて、ライアが霞沙羅に服装デザインの話しをし始めた。
ヘイルン教の信者であるライアがセネルムントにいるのも変だけれど、デザイナーとして服の依頼をされたというのであれば仕方が無い。
別に宗派どうしで仲が悪いわけでは無いし、英雄の一人ライアのデザイン、というのも一つのウリになる。それにライアは元々フラム王国の人間だし、それで発注したのだろう。
「アリシアの女神様よりは背は低いけど、中々格好いいわね」
アリシアの女神様、という言い方は禁忌に引っかからなかったようで、そのまま言葉として出てきた。
「これってどういう作りになってるのかしら」
「なんなら脱いでやるぞ」
霞沙羅が服を脱ぎ始めたので、イリーナが慌ててアリシアの目を塞いできた。
「あのーイリーナ、霞沙羅先生のあの服の下って裸でも下着でも無いし、ボクはあの服を洗濯してる人だからね」
それに家まで起こしにいくと、結構な確率で寝間着がはだけて、ほぼ裸だったりする。
「そういうわけにも」
上着を脱いで、スカート部分を脱ぐと、中からセパレートの水着状のインナーが出てくる。
「嫉妬するくらい白が映える肌をしているわね。服も面白いわ」
ライアは霞沙羅の服の作りをメモしていく。かなりインパクトを受けたようだ。
「うーむ、これで6人というか7人と顔を合わせたワケか。案外あっさり会えたな」
ライアによる服の解析が終わったので、霞沙羅は服を着て、アリシアは目隠しを外された。
「カサラさんの方は3人だったわね?」
「私はもう一人には会ったゾ」
「あいつの服も面白いぜ。着ている人間の見た目はともかく、こっちの世界には無い服だからな」
「それはそれは、会ってみたいわね」
「いやー、ビックリするゾ」
「ルビィだけ知ってるのね。どういう感じなの?」
「それは会ってからのお楽しみダ」
今言ったら初対面の時に面白くない。みんな驚けばいいと思ってルビィは説明しなかった。
「いずれモートレルには顔を出すだろうし、その時に暇だったら、エリアスにちょっと転移してもらうといいぜ」
「そういえばライアって、今も体鍛えてる?」
折角会ったのだし、あの事を話してもいいかと思った。ライアは間合いが違うけれど、基本的には肉弾戦タイプだ。
「ええ、一応舞台役者でもあるもの。体が資本だし、ウチだけじゃ無くて町の役者に殺陣を教える講師でもあるのよ。不甲斐ない町の騎士団にもね」
「じゃあその、練気っていう技があるんだけど、今ここでは出来ないけど、ヒーちゃんとハルキスとイリーナには教えたんだけど」
「気」についての説明をすると面白そうだと興味を持ったので、次回料理を教える時に、一緒に教える事にした。
「それで、なんかちょっと美味しそうな匂いがするんだけど」
「今日はカレーっていう食べ物を神殿に教えに来てるから、今は巡礼者に配りはじめる所だよ」
「あらら、それは気になるわね。ウチの劇場で出せるかしら」
「今日作ってるのは、どうだろ。こっちの世界には無い料理だけど、一応庶民向けに作ってるから」
「同じカレーでも、アーちゃんの館で食べた、あのすごいのとは違うんだナ」
「予算も手間も違うよー」
「あらら、それは気になるわね。でも無い料理って言うなら、今配ってるのも気になるわね」
「私の客人て事で、ちょっとくらい食べていってもいいんじゃない?」
そろそろ夕飯を配る時間が近づいているので、厨房に移動した。
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