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セネルムントでの出会い -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 わざわざアシルステラの地に来てくれる霞沙羅に感謝しながら、料理とオルガンを教える為に2人はまたセネルムントにやってきた。


 早速教皇様との会見を済ませて、アリシアはカレーとシチューを作りに巡礼者向け食堂の厨房に、霞沙羅はオルガンを教えに大神殿の礼拝堂に向かった。


 アリシアが渡していた必要なメモを元にスパイスを探して貰った所、いくつかはセネルムントでは集まらなかった。


 ただそこはに商売の神を奉るオリエンス教の聖都。巡礼者の為の料理用である、と知った信者であるラスタル在住の商人が、不足していたスパイスを手に入れて届けてくれた。


「すごいねー」


 遠くからやってくる巡礼者へ、その苦労を労う食事作りに、当然のように賛同してくれた。


 勿論上手く行けば自分の商売にもなるという計算も見え隠れしている。


「それじゃあよろしくお願いします」


 特別名誉神官、そして英雄であるアリシアに料理担当の神官達は喜んで手伝ってくれた。


  * * *


 場面は変わってこちらは大神殿の礼拝堂。神官達の練習前に参考になるようにと先日ちょっととちった曲を、今回は完璧にこなした霞沙羅は、また集まってきた信者と神官達に拍手喝采を受けた。


 異世界人である霞沙羅の安全を守る為に、案内役としてそばに付いているイリーナは、相変わらず口の悪い霞沙羅の演奏に、そこはかとない神への敬意を感じていた。


 なぜこの性格で、と不思議でならない。


「素晴らしいです」


 5人の演奏者達も、本来こうあるべき曲だったのかと聞き入っていた。なぜ異世界人が、という前にプロの神官としてこうありたいという意識の方が芽生えるほどだった。


「じゃあ練習を始めるか。一人ずつやれ。何かあったら私が止めるぜ」

「はい」


 まず一人目が演奏を始めた。


「私の動きはマネはしなくていいぜ。普通に弾けばいいぜ」


 霞沙羅は演奏中にかなり体を揺らしたり、腕の振りが大きかったりする。これは本人が演奏に没頭してしまっているから起きる癖だ。ただ、没頭の仕方は演奏者それぞれだ。


 さすがに初心者でもなく、6曲全て覚えている担当神官なので、一人目は滞りなく演奏は終わった。


「なんか、申し訳ない感じで弾いているな」


 別に下手というわけではない。ちゃんと楽譜通りに弾けているのに、霞沙羅からするとひどく何かを気にしているように聞こえる。


「私が異世界人とかそういうのはいいぜ。好きで来てるんだしな」

「あの、そういう事では無く…」


 今弾いた神官が、ステージの真ん中にある大きなオリエンス神の像を見て


「神の前で、練習をするというのが申し訳なくて」

「あのなあ、神に聴かせる曲を練習することを神が否定するわけが無いだろう? 自分の為に使徒が練習をしているんだ、間違ったところで聴かなかったふりをしてくれるさ。神とは厳しくもあり、寛大でもある。違うか?」


霞沙羅の言葉に5人がハッとした。


「それでもなんか気になるなら、あの像に向かって、その向こうにいるオリエンスとかいう神に一礼でもしてから始めればいいだろ。ちょっとお騒がせしてすみませんとな。その結果、本番で全力を出せれば、よくやったと、練習で失敗したことなんか笑って許してくれるぜ」


 あまりにも乱暴な言葉遣いではあったけれど、真理をつかれて、5人全員が大きなオリエンスの像を見上げた。


 そして一つ、深々と頭を下げた。それだけで心が落ち着いていく。


「よし、それじゃあ気にせず堂々と練習しようぜ」

「はい」


 霞沙羅の言葉を聞いていたイリーナも他の神官達も、説教とはこういうモノなんだろうなと納得していた。


  * * *


 霞沙羅がオルガンの練習に付き合っている間に、アリシアの方ではまずホワイトシチューが出来上がったので、巡礼者の食事として配り始めた。勿論、折角作ったので神官達のお昼ご飯でもある。


 今日の料理はオリエンス教信徒でもあるアリシアが作ってます、と説明すると巡礼者は驚きながらも、昼食の為に並んできた。


 料理に関するアリシアの噂もあって、期待感が高まる中、ありそうで無かった優しい味のスープに、巡礼者達は喜んでくれている。


「あのグラタンとかいう食べ物と同じソースだからいいですね」

「この後のカレーとかいうのは同じ具材で味が変わるんですか?」

「あの粉にしたスパイスを投入するので、全然違う味になるんですよ」


 日本の家庭的なシチューとカレーなので具材には互換性がある。


 あとやっぱりライスが無いので、カレーにはナンを作る。


「ところでそれはなんなんですか?」


 カレーの準備をしている神官達をよそに、アリシアは大豆の豆をゴリゴリと粉にしている。


「これは孤児院の子供達のおやつに使うんです」


 実はきな粉を作っていた。


「そうですか、子供達の為にありがとうございます」

「粉にした方が消化に良くて栄養吸収がいいから、大人も食べていいんですけどね。どうするかはあとで皆さんで決めて下さい」


 カレー作りまでの合間を使って作ったきな粉を持って、西の神殿に移動した。


「あれ、イリーナは?」

「イリーナ様は大神殿にいらっしゃいます。そろそろ教皇様の特別礼拝が始まる予定ですので」

「あ、そんな時間だっけ」

「それから奥様とご友人の方がいらっしゃっていますよ」

「え、誰?」


 奥さんはエリアスだろうけど、その友人て誰だろうか。


「エリアス様とフィーネ様です」

「フィーネさんが来ちゃったの?」


 首をかしげながら孤児院のエリアに行くと、本当に2人が子供の相手をしていた。


 特にフィーネは1人だけいる、よちよち歩きの幼児にべったりくっつかれている。


「なんじゃ、我が来てはおかしいか? 先日も来たではないか」

「そんな事は、ないですけど」


 確かにフィーネは純凪さんのエナホ君には随分と懐かれていたけれど、小樽でもご近所の幼児に絡んでいくことは無い。


 それがわざわざ異世界であるこのセネルムントにまで来るとは思っていなかった。


 エリアスは、それよりも大きな子供達に本を読んであげている。


 迷惑をかけてしまった事への多少の贖罪的な考えもあるようだけれど、女神的な保護欲のようなものもあると、この前聞かされた。


 まあ本人が積極的にこの世界で何か人間的な事をしようというのであれば、止める理由は無い。


 オリエンス神の聖都に女神が2人もいるのが気になるけれど。


「あれ、じゃあシャーロットは?」

「システィーとオススメのラーメンを食べに札幌に行ったわよ」

「ネコはまた向かいに預けておる」

「そ、そうですか」

「ところで小僧が手に持っておるものはなんじゃ?」

「きな粉ですよ。これから揚げパンを作るんです」

小童(こわっぱ)共にはよいおやつになりそうじゃな」


 大豆を粉にする手間はあるけれど、パンを油でちょっと揚げてまぶせばいいので、お手軽だと思う。


「じゃあ、厨房借りますね」


  * * *


「おいしい」


 揚げたパンに多少の砂糖を混ぜたきな粉をまぶしただけという冗談のようなおやつは子供に好評だった。


 一昔前の日本では小学生の給食で人気だったそうなので、年齢的にも合致しているこの子供達もとても気に入った。


 パンもコッペパンの半分以下のサイズなので小さな子供でもおやつとしてはちょうどいい量だ。


 余ったきな粉も「欲しい欲しい」と取り合いになるほど人気だ。


「これはいいですね」


 子供を騙しているような食べ物だけど、大人の神官が食べても美味しい物は美味しい。これならたまに作ってもいいかなと受け入れてくれた。


「これそこの、どこで寝かせればよいのじゃ?」


 おやつを食べて、眠くなってしまった幼児をフィーネが抱いている。


「はい、お昼寝の場所はこちらです」


 神官に案内されて、子供を抱いたまま、フィーネは昼寝場所に向かった。


「なんか、子供の世話が好きだよね」

「エナホ君のおむつも交換していものね」


 毎回ではないけれど、夫婦が忙しい時にはエナホ君のおむつを交換していた。何かの拍子でオシッコをくらった事があったけれど「元気な(わっぱ)じゃ」と怒ることは無かったし、夫婦が夜泣きで困っている時も率先して現れてあやすなど、結構母性がある事を2人は知っている。


「あんまりつっつかない方がいいかもね」

「そうね」


 黙っていようという話をしていると、子供を置いてきたフィーネが帰ってきた。


「我はそろそろ帰るとしよう」

「ありがとうございました」


後ろから神官さんが頭を下げてきた。その様子だと本当に感謝しているようだ。


 《余所の世界ではオリエンス神と同格の、怖い女神なんですけどね》


「よいよい、たまたまじゃ」


 そう言って、どこか満足したようなフィーネは転移してやどりぎ館に帰っていった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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