霞沙羅 ラスタルを満喫する -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
思い描いていたダンジョンとはちょっと違うけれど、ファンタジーな魔術師の研究風景も見せて貰ったりで、何だかんだ霞沙羅は満足して、外に出てきた。
「あ、倉庫の扉が開いてる」
さっきまでは開いていなかった、4階建ての建物くらいの高さがある大きな倉庫が開いていて、中に納められているものが見えている。
「飛行船来たんだ」
「カサラ先生のおかげで、木材に余裕が出来たから、前倒しで作ったのダ」
中に入っている飛行船は、海に浮かぶ船が飛んでいる形では無くて、地球にある飛行船と同じく、魔力タンクとしての、薄めの長方形の箱が上にあり、その下に人が乗るキャビンがくっついている形をしている。
地球製と違いキャビンはかなり広く、2階建て構造。その横に船体を安定させる為の短い翼がついている。
「おー、すげえモン見たな。あれはもう自由に飛ぶのか?」
「噴火前にカサラ殿が気にしていた北の町で建造されていたもので、数日前にそこから飛んできたのだ。今は王家用の二番船が建造中ではあるが、まずは我々学院が実験飛行を繰り返して、調整を行う事になっている」
「すげえ世界だな」
「でもあれ、遅いんですよ」
「どのくらいだ」
「車で下道を走るくらい」
時速でいうと天候などの状況にもよるけれど、平均で40から60キロくらいで飛ぶ。帆船よりはずっと速いけれど、地球側の一般的な客船と比べるとちょっと速いくらいで空を航行する事が出来る。
「システィーと比べちゃダメじゃないカ」
まああの飛行船はアシルステラの基準では速い乗り物だ。
「システィーは実際どの程度の速度で飛ぶんだ?」
「軽く音速を越えますよ」
「うちの星雫の剣も同じだな。いやだが、いい感じの速度じゃないか、ロマンがあって。優雅に空の旅が楽しめるじゃないか」
霞沙羅は現物を見たことがないけれど、かつての地球にも飛行船なるものが割と普通に存在していた。でも飛行機の普及で無くなっていき、今の日本には一隻あるとか無いとかいった状況。それも旅客用ではなく企業の宣伝用。
「扉が開いてるって事はこれからどこかに行くの?」
「港町のブルックスまで往復する事になっておる。お前のあの箱を運用するのに、問題は無いかを確認する為だ」
「箱って何だよ」
「あの、小型の冷蔵庫なんですけど」
「お前、早速こっちで作ったのか」
「元々こっち用に考えたものですからねー」
「カサラ先生もあの冷たくなる箱を知っているのカ?」
「ウチらの世界の台所用品が発想元だからな。こないだフィーネが酒を出したあれだよ。厨房にはもっと大きいのがあるがな。こいつのは軽くて持ち運びが出来るって、軍で実用化してるぜ」
「こっちに保冷用の素材が無かったんですよ。それがようやく出来たから、作ったんです」
「こいつのメシにかける執念はすげえな」
「カサラ殿の方ではあのアリシアの箱を使っていると?」
「札と一緒に軍のバックアップ用で準備しているぜ」
災害だったりで出動した先で電化製品が使えない場合があるので、その時の為に用意されている。レンジャー部隊が何回か台風被害の避難所に持っていったと聞いている。
「ということは、ある程度の運用実証は出来ているということだな?」
「アシルステラでは素材の面で不安がありますけど」
「アーちゃんハ」
「まあこいつも私の世界では研究者として結構やるんだぜ」
戦闘用ではないけれど、軍の備品としてはかなり重宝されている。
* * *
学院を見て回った後は、ルビィの家に行くことにした。
小さめだろうが貴族の屋敷が見たいと霞沙羅もついてきた。
アリシアとしては厨房と家政婦さんを見て、今度来る時にどういう料理を渡そうかを検討する必要がある。
「本人の言うとおり小ぶりな屋敷だな」
勿論平民エリアでは無く、貴族エリアにルビィの屋敷はある。
「元々は王族の人間が使っていた屋敷をもらい受けタ」
「そうだよねー、なんか他とは作りが違うような」
他の建物がみすぼらしいというわけでは無いけれど、壁には所々に彫刻が彫られていたり、立派な庭園のあるテラスがあったりと、中古とはいえどことなく格が違う。
ぱっと見て解る由緒ある建物で、いわゆるブランド品だ。
引き渡しの前にはリフォームもやってくれたそうで、元々管理もしっかりしていたこともあって、古めかしいという事は無い。
「また写真を撮るぜ」
嬉々として写真を撮る霞沙羅を連れて、屋敷の中に入ると、1人の、アリシアやルビィとあまり歳の変わらないメイドが掃除をしていた。
1人だけ雇っていると言っていたけれど、確かにこのサイズの屋敷なら1人でも大丈夫そうだ。
「お帰りなさいませ、ルビィ様」
「ああ、客も一緒ダ。こっちがアー、アリシアで、こっちがカサラさんという人ダ」
「アリシア様ですか、ようやく直にお会い出来ましたね。それではお茶をご用意しますか?」
「応接まで頼むゾ」
メイドの女性は厨房に行き、アリシア達は応接にやって来た。
「いいよなー、洋館は」
こっちの世界で「洋館」というカテゴリーは無いけれど、日本人の霞沙羅からはそういう言葉が出てしまう。家具の具合もいい。
「やどりぎ館とは違いますねー」
洋館風な作りになっているけれど、どちらかというとノスタルジックなモダン調なのがやどりぎ館だ。
「旦那さんはさすがに今は魔法学院にいる?」
「今日は普通に授業をやっているゾ。それにモートレルの修理準備も進めているしナ」
「こいつが探知装置がどうこう言ってたな。あれ安定してないだろ?」
「先生も同じ事をいうナ。設計自体はこのラスタルのを参考にしてあるんだが」
「土地の問題じゃないか? 吉祥院に来て貰うか? あいつは設備系には詳しいしな」
なんといっても厄災戦中から始まった、元東京23区を封鎖するプロジェクトに参加したくらいだ。
「キッショウインさんカ。まあ実際私も設備系はまだ勉強中で。旦那がメインなのダ」
「じゃあ今度来たら誘ってみるねー」
やがて先程のメイドがお茶を持ってやってきた。
「なんか、いい人そうだね」
ドアを開ける動き、お茶を置く動き共にかなりきちんとしている。年齢にしては経験値は高そうだ。
「ホテルミラーニカ経営者の娘ダ」
「え、あの高級ホテルの?」
「リューネ=ミラーニカと申します」
ええっ、あの憧れの、と名前を聞いてアリシアは驚いた。
「なんだ、お前の家とはそんなに違うのか?」
「ウチは庶民向けの宿なので、ビジネスホテルみたいなものです。ミラーニカは貴族だったりお金持ちの商人なんかが長期で泊まるホテルです。全然値段が違います」
「こっちにもそういうのあるんだな」
TRPGには無かったな、と思った。まあ冒険者が泊まらない価格の宿をゲームマスターが採用するわけが無いし、冒険者のような身なりの人間は泊まろうにも追い返されるだけだろう。
「だったら料理も上手なんじゃない?」
「ホテルの一通りの業務は父から仕込まれましたので」
「えー、いーなー。そんなトコの子がなんでメイドさんを? あそこの運営って結構人数が必要なんじゃない? そこの子が離脱なんかしちゃったら、お家は大変じゃない?」
金持ちという手間のかかる人が泊まるので、お客さん一組にも最低でも数名の人間が専属でつくなんて事もあるし、裏方だっていっぱい仕事がある。
「兄や姉もいますし、私は自分一人の力で生きていきたかったんです」
「それでルーちゃんの屋敷に?」
「この屋敷を貰った時に紹介されたんだヨ」
「ルビィ様のお屋敷なら名誉なことだと、父も申しておりましたので」
「だからリューネに料理を教えて欲しいんだガ」
「うん、この子なら大丈夫だと思うけど」
「ありがとうございます」
でも今日はもう時間に余裕がないので料理を教えるのはまた今度、という事でリューネは部屋を出て行った。
「しかし、ハルキスから砂糖を貰っタ」
お茶の横には小瓶に入った砂糖が置いてある。本物は小ぶりな壺で貰っている。
「アーちゃんのおかげだと言っていたガ」
「甘蕪がね、砂糖の原材料になるって、ヒーちゃんとハルキスに伝えたから」
「あんなのガ?」
「もう、2人とも砂糖の生産を始めてるから、それを持ってきたんでしょ」
「こいつのせいでこっちの食が変わりそうだな」
「とにかく、私も美味しい料理が食べたイ。ヒルダばかり狡いじゃないカ」
「ヒーちゃんは騎士団があるからねー」
「だからカレーとかよろしく頼むゾ」
ルビィも夫婦でそれなりの収入があるから、食材の費用についてはある程度大丈夫だろう。
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