霞沙羅 ラスタルを満喫する -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
タウが今日霞沙羅を呼んだのは、どういう講義をするかを決める為の打ち合わせだ。
タウのいる院長室に招かれて、そこで決めることになった。
「何か聞いておきたいことはあるか? 確かにこちらの魔術の知識はあるが、実際にこっちの魔術を使う事はあんまり無いからな」
アリシアに教えて貰っているので、魔導士級と言えるほど知識は完璧。それを使って地球側の魔術を改良したりはしているけれど、高位の魔術師達に教えるような事はない。
「カサラ殿、その腰につけている棒は魔装具ではないのか?」
「ああこれか。今日は王宮のこともあって刃物の持ち込みは控えているからな」
霞沙羅は腰に警棒のような棒をさしている。見た目はまんま棒なので、王宮でも止められることは無かった。
「このままだと…」
棒のままだと、魔力を結晶化させた刃を生み出して小ぶりの剣になった。
「これを伸ばすと、この部屋では使わないが杖になるな」
シャキッとグリップが伸びて長くなった。
よく見ると先端部分に発動体と増幅機能を持った琥珀が埋め込まれていた。
「発動体を取り替えれば、別の世界でも使えるぜ」
だから今日はアシルステラ仕様にされている。
「ちょと失礼する」
早速タウがその棒を借り受けて、構造の解明を試みる。
「伸びた時に機能が切り替わるのだな」
「魔術回路を2つ仕込んでいるから、伸ばした時に拡張端子同士が連結されて効果が変わるんだぜ」
霞沙羅は棒に仕込まれた2つの魔術基板を空中投影して見せてくれた。
「見た目はシンプルだが。見事な作りじゃな」
「護身用レベルだがな」
「先生はすごいナ」
こういうギミックというのはアシルステラでは殆ど見ることがないから、タウ達もとても興味を持った。
「それでは、魔装具について何か一つ講義をしていただけまいか。今カサラ殿が使っている愛用の武器でも構わない」
「私はアリシアと同じで、剣士兼任だから魔術師には合わないぜ。なら学院用には、昔吉祥院に作った杖にでもするか」
「キッショウインというのは先日からアリシアの口から出ている魔術師じゃな?」
「先日アリシアの家にいたから私も会っているけれど、なかなかすごい人でス」
「そうか。我々も杖持ちが多いものでな。ではその魔術師の方が持つ杖の話しをして頂けると有り難い」
「翻訳がいるから時間はかかるが、ではそうするか」
杖の設計図はあるけれど、術式に世界間のコンバートがいるので少々時間がかかる。
「目処が付いたらアリシアに連絡させるよ。ところでだ、この敷地内にダンジョンがあると聞いたんだが、見せて貰えないだろうか」
「ダンジョンか? 研究用のダンジョンであれば今すぐにでも見せることは出来る」
* * *
アリシアともルビィとも違う技術を持っていて、中々面白い人物だ、と大賢者タウも気を良くしていて、霞沙羅をダンジョンに案内した。
ただダンジョンと言っても、学院にあるモノは職員の研究設備であり、ダンジョンその物の研究だったり、小部屋を作ってそこで魔術や薬の研究をしているので、ゲームに出てくるような侵入者を襲う魔物が潜んでいたり、宝物を守る為に罠が仕掛けられているような物騒な物ではない。
「最近ここから一日ほど行った森の中にダンジョンが見つかってな、今は何名かが事前の調査を行っている最中じゃ」
「そっちのは魔物なんかがいたりするのか?」
「先生、ダンジョンは作り手で二系統あって、魔術師が作るのと魔族が作るのがありまして」
「この世界には魔族がいるのか?」
魔族、魅惑の響きだと霞沙羅はテンションが上がる。
「あのー、以前に反逆神レラの話をしたじゃないですか、あれが作った生命なんですけど、たまにこっちの空間に現れて色々ちょっかいをかけてくるんですけど、その拠点としてダンジョンを作ったりするんですね」
「おー、魔族とかまさにファンタジー」
「魔術師が作った方は、今から見せるように研究所としての側面があって、まあ防犯用にゴーレムだとかガーゴイルだとかいった設備が残されていたりすル。後は、盗賊だのゴブリンだのオークだのがダンジョンの廃墟を見つけて住み着いたりダ」
「それはそれは」
それこそがTRPGの定番だ。
「あとは、強欲な富豪が死後にも財産を渡すまいと依頼して作らせるような、墓所的なものもあル」
「いいねえ」
霞沙羅はアリシア達が説明したダンジョンに勝手な思いを馳せる。
「そんな先生には今日のは肩透かもしれませんけど」
アリシアが案内したダンジョンの入り口は、普通の平屋の建物。想像していたのとは違う。
「この先がダンジョンなんですよ。ルーちゃんは最新の地図持ってる?」
「ふふふ、早速機能をつけたゾ」
ルビィは記録盤を出して、地図の画面を空中に投影した。
建物のドアを開けると、まずはがらんとした部屋になっていて、大きな下り階段がある。
「今は日中だから明かりが点いてますからねー」
階段から既に暗いわけはなく、所々に魔法の明かりが灯っている。
「ん、んー」
折角テンションが上がっていた霞沙羅が微妙な表情を浮かべる。やはりちょっとイメージと違うようだ。
「研究所ですからね。霞沙羅さんが思ってるダンジョンは、使われなくなったダンジョンでしょう? これが現役のダンジョンです」
「そうか、そうだよな」
TRPGに出てくるダンジョンは大概が放棄されたり、何かを封じ込める為に閉ざされたダンジョンだ。後者のはともかくとして、魔物が住み着くようなダンジョンは、現役のモノでは無い。
多くは魔物や盗賊が持ち込んだお宝や盗品があったり、数々の罠をくぐり抜けた先の最深部でかつての持ち主が遺体として発見されるようなオチが待っている。
テレビゲームのダンジョンは現役で、最深部でボスが待ち受けているモノが多いけれど。
「なろほど、写真撮っていいか?」
「今誰かが研究作業してる部屋じゃなければいいと思いますけど」
霞沙羅はデジカメを取り出して写真を撮り始めた。
「前から気になっていたのだが、あれは何なのダ?」
「写真ていうか、見えてる景色をデータとして残してるんだけど」
「アリシアよ、あんなものだけで出来るのか?」
風景を残すには別の魔工具が必要で、それは術者と連動して、視界にあるモノを任意に魔工具内に残すして記録盤に納めるのだ。
「ボクの記録盤にも同じ機能がついてますよ。ルーちゃんには料理の絵を見せてないっけ?」
「あれって記録盤だけでやってたのカ?」
「ほらこれこれ、ここに」
アリシアの記録盤の背面の隅っこに丸く磨かれたクリスタルがハマっている。
「これで風景を取り込んで、記録するんだー。霞沙羅さんが持ってるあれに着想を得てねー」
「アリシア、その設計レポートを早急にあげよ」
「お前、また余計なこと言ったな…」
「…はい」
そういえばアリシアは小さな魔術の研究が得意だったなと今更ながら思い知らされた。
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