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新刊の行方 -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 以前に言われていたとおり、ルビィが書いている冒険譚の最新刊の締めと、次巻の構想の為、打ち合わせをしにモートレルにやって来た。


 それに関しては、もうすぐ出るのかと、アンナマリーも期待している。


 予定より遅れているのは、アリシアが色々な魔術的なレポートをあげてくるせいだ。あれで時間を取られてしまった。


 出版は魔法学院がやっているけれど、階位7位のルビィが本職に没頭してしまうのを止める事はなかなか難しい状況ではありながら、さすがに早くしてくれとクレームが来た。


 打ち合わせにはハルキスも来るというから、プリンとマカロンを作って、ヒルダの屋敷に向かった。


「ぬおお、プリン!」


 日々の鍛錬と農作業で褐色気味な筋肉男が人生二度目のプリンに興奮していた。男だって甘い物が好きなのだ。


「オレも食べたいが、嫁と子供にも食べさせてやりたかった」

「前になんかそんな事言ってたって聞いたから、館に残してあるよ。帰る時にシスティーが持ってくるから」

「おお、ありがてえ。ところでちょっとシスティーと話しをさせてくれないか、甘蕪畑の開墾の件で」

「うん、いいけど。システィーも空間転移出来るから、ついでに送って貰う?」

「そうするか。開墾予定地をちょっと見て貰いたいしな」


土地柄、甘蕪の栽培に向いているから結構広く開墾するから、どの程度時間がかかるかを見て貰いたい。


「それから霞沙羅さんも後から来るからねー」

「お、向こうの世界の英雄か。言われたとおりハルバードも持ってきたぜ」


 折角ハルキスが来るタイミングと合ったので、打ち合わせの後にはまた鍛錬をするし、その時に魔剣であるハルバードを見て貰う事になっている。


 霞沙羅の武器が長刀で長物だから、なかなか面白そうだとも言っていた。


「じゃあ、打ち合わせを始めよウ」


 ヒルダにお茶を用意して貰って、早速ルビィが主導で冒険譚の打ち合わせが始まった。


「それではこれが最終稿だが、問題が無ければこれでいこうかと思っていル」


 魔女戦争はまだ始まらなくて、内容的にはお隣のザクスン王国の騒動に巻き込まれる話。


 ヒルダは領主の娘で、ギャバン教の信徒なので、聖都であるギランドルに何度か行った事があって、その時にザクスンの王家とも面識がある。


 それでザクスン王国を転覆させようという魔術師との戦いに入った所で最新刊は終わる。


 次巻で王家と合流して、ボディーガードを受注しての話になる。


「ボクがメイドさんのフリをしてたから、あそこのお姫様にお姉様って言われちゃったけど、今はどうなんだろ。アンナマリーより二つ下だったっけ?」


今は12才。出会った当時はまだ8才になるかならないかの頃。


 一応男だと説明はしたけれど、最後までお姉様と呼ばれていた。


 何となく嬉しかったけれど。


「魔女戦争の後は復興で行けてないんだけど、モートレル駐在の神官から聞くには、まだアリシアお姉様と呼んでるそうよ」

「そうなの?」

「アーちゃんとプリシラ王女は仲が良かったから、その辺の細かい所を深掘りしたイ」

「こいつの執事姿は人気があるんだろ? 次巻で人気が下がりそうだな」

「アーちゃんが女装してるのはもう皆の常識だし、下がらないでしょ」


 なんだか酷い言われようだ。


「今日も女子っぽい服だシ。折角スーツを買ったんだし、もう常にあれにしたらどうダ?」

「あれで家の仕事するの、向いてないよー。これから雪かきとかあるんだよ」


 用意したお菓子を食べながら、あの冒険の事を話していると、何というか、この世界にまた復帰できて良かったと思う。


 エリアスの方も地球の方でやりたい事を見つけたり、こっちの世界でも色々と助けてくれるようになって、もう行き来にも問題が無くなった結果だ。


「うーむ、じゃあ最終稿は今日の意見を取り入れて、次巻の構想も練るとすル」

「早く読みたいわね」


  * * *


 打ち合わせが終わると。ルビィは早いところ原稿の作業に入りたいというので、やどりぎ館に連れていき、替わりに霞沙羅を連れて騎士団に帰ってきた。


「こ、この人が向こうの英雄さんか。これはこれは」


 背が高く、女性としてスタイルはいいながらも鍛え上げられた健康的な体、そして褐色気味な肌。


 部族の求める理想の女性像だともう少し筋肉質であってもいいけれど、大陸有数の超一流の剣士が一目見て強そうだと判断できる霞沙羅は、ハルキスの目にはとても魅力的に映った。


 「美人だな」と言いながらもあまり興味の無かったエリアスとは随分と反応が違う。


 まあ、こっちも軍のアイドルもやっている綺麗なお姉さんだけど。


「それは槍か?」

「長刀って名前なんだが、似て非なるもんだぜ」


 しかし早速臨戦態勢。ハルキスもたまにここに来てヒルダとやりあうので、鍛錬用のハルバードを置いてある。


「これが終わったらお前のハルバードを見せて貰うぜ。何か注文があれば直してやるし、無ければ綺麗にしてやる」

「私のロックバスターも調整して貰ってるのよ」

「あれをか? あんな危ないモノを調整できるものなのか?」

「ボクの魔剣も直して貰ったんだー。先生は自分で武器を作って戦争を終わらせたくらいだから」

「すげえ人なんだな。じゃあちょっと見て貰うか」


 剣士で魔術師で鍛冶、というのは中々いない。確かに持ってきている長刀は鍛錬用だというのにかなりの出来だし、まるで新品かのように整備がされている。


 アリシアが言うには自分と互角かそれ以上なので、ハルキスの身も引き締まる。ヒルダも信頼しているようだから、かなりの腕なのだろう。


「じゃあやるか」


 アリシアが結界を作り、2人の周囲を囲うと、すぐさま長物使いの2人が斬り合いを始めた。


 女性でありながら身長もほぼ同じという霞沙羅に驚いたり、長刀という見た事もない武器に戸惑いながらも、ハルキスは持ち前の腕前を充分に発揮している。


 相変わらず英雄と呼ばれるような2人が斬り合っているから、地面はボロボロになっていく。これを直す団員達は毎度毎度ご苦労さんだ。


(さかき)のヤツを連れてきた方がいいな」

「誰なんだ、そいつは?」

「ウチの剣士の話だよ。専門職だからな、単純な斬り合いならそっちの方がいい。なかなかあいつの腕に張り合えるヤツが奴がいないから、会わせてやりたいんだよな」

「だがあんたもなかなかだぜ、先生」


 腕力では霞沙羅も負けていない。


確かに腕前では自分よりは劣るかもしれないけれど、人によって剣筋というものは変わる。別の人間の方が強いと言っているけれど、霞沙羅だって油断は出来ないから、充分にいい経験になる。


 こうなるとどこかで、全力同士でやりあいたいモノだが、場所の問題があるのが残念だ。


「そうか。ではそろそろお前にも「気」を教えてやる。アリシアと同等のヤツが異世界をうろついてやがるから、ちょっと備えておけよ」

「ヒーちゃん、霞沙羅さんの行動を見ておいてね。武器を通して「気」を使うよ」

「え、そうなの?」


 霞沙羅がちょっと離れると、突然練気を行って、全身に満たす。


「ハルバードを斬るが、すぐ直してやる」


霞沙羅が突然見えないほどの速さで突撃して、ハルキスの背後で長刀を振り終えた姿勢で止まった。


 ちょっと遅れて、今さっきまで霞沙羅がいた場所が爆発し、ハルキスが構えていたハルバードが綺麗に切断された。


 霞沙羅による凄まじい踏み込みの余波で地面が吹っ飛んだのだ。


「さすがに踏ん張ったな」


 反応は出来なかったけれど、本能で危険を察知したハルキスが踏ん張ったので、吹き飛ばされずに終わった。


「こういう技があるんだよ。こういうことが出来る世界の人間がうろついてやがるから、やり方を教えてやる」

「お、おお」


 今まで見せた事が無い霞沙羅の技に、周囲で見ていた騎士達も驚いていた。彼らの目には霞沙羅は瞬間移動したとした思えないほどの神速だった。


「カサラさんのあれ、魔剣じゃないのよね」


お互いに鍛錬用で、刃は潰されている。けれど霞沙羅の一閃によって、綺麗にハルバードが切断されている。


「いつも持ってくる練習用のなまくらだよー。ヒーちゃんがやっている練気の鍛錬の、目標地点があれだよ」


 ヒルダとハルキスには見えていたけれど、カサラの足に急に力がみなぎったかと思うと、あの一歩を踏み出して、長刀に大きな力が溜まり、その刃のような研ぎ澄まされた力でハルバードを切断した。


「魔剣でもないのに、あんなのが出来るの?」

「ボクも出来るからねー」

「これは楽しみね」


 毎日地味に練気の練習をしているけれど、実際にその先にあるモノが想像出来るとやる気も出てくるってものだ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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