更なるパワーアップ計画 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ヒルダの方で募集をしていた、アリシアを講師に迎えた神官の研修会は、結局各宗派から最低でも1人は出席するという状況になった。
勿論ギャバン教の神官と信者である騎士が人数的には多いので、最終的には出席者の大半がギャバン教徒になった。
そして、モートレルのギャバン教神殿と、聖都ギランドル間は、専用の転移設備が繋がっている事もあって、新人教育の参考にするべく聖都からも神官が数名やってくる事にもなっている。
「一応、各宗派にも声はかけたから」
「イリーナも来るんだっけ?」
教皇にも「募集してますよ」とアピールする為に、鏡でイリーナに連絡を取ったら、じゃあ来る、と言われたそうだ。
イリーナも高位の神官なので、他の神官への教育を行う事もあるから、冒険中にヒルダやハルキスにも教えたアリシアの腕前を参考にしたいという考えがある。
ただイリーナはセネルムントからの転移手段が無いので、当日はアリシアが迎えに行かなければならないけれど、これならオリエンス教に名誉神官の地位を与えられたアリシアが、ギャバン教に鞍替えした、とか思われない為のポーズは見せることは出来た。
「教える内容は、アンナマリーにも教えた治癒と状態回復と浄化というか聖剣化でいくからね」
「あの3点セットって、以外と上手くいってない人も多いのよね」
そのせいで占拠事件の前に起きたゴースト騒ぎの時に対応が上手く行かなかったから、ヒルダもアンナマリーが結構ちゃんと神聖魔法が使えるようになっているのを見て、テーマを決めている。
後進の為の教育役の基礎作りというのもあるので、基本に対する認識を改めて教えるという趣旨になっている。
「これとは別に、町の人に料理を教えるのってどうするの?」
「そっちも今募集中よ。まずは唐揚げとカレーね」
「いろいろ広がっていくといいねー」
「それとそろそろビーフシチューを教えてくれないかしら、勿論屋敷用よ。お父様も気になっちゃって、あれは出来ないのかってうるさいのよ」
「そうだねー、別にボクが一日中張り付く必要も無いし」
厨房の人はド素人ではないから、まずやり方を教えて仕掛けていって、コツを教えて、翌日にまた確認に来ればいいだけだ。
「じゃあ材料を仕入れておいて貰える?」
* * *
勉強会に来たイリーナはヒルダの家に一泊していくそうなので、その時にビーフシチューを出してあげたいとヒルダは希望してきた。
以前に5人だけの食事会で気に入って、イリーナもまた食べたかったそうだ。
なので勉強会の前日に仕掛けていって調理をして、ある程度煮込みを行った後に厨房の人には時々火を入れてと指示をして、テキストの準備をした。
研修会は騎士団事務所の、一番大きな会議室で行われる。
ギャバン教の神殿も広くて良さそうそうだったけれど、他宗派の信徒もいる関係から、別の神様の前でやるのもちょっと、となって、狭いけれど会議室になった。
研修会に行く前には、屋敷の厨房に行って、ビーフシチューの状態を確認し、このまま夕食まで焦げないように何度か火を入れたり、消したりを繰り返して欲しいと指示をして、騎士団事務所に向かった。
もう座席は用意して貰っていて、それぞれの座席にテキストを置き、デバイスの準備を行う。
「じゃあイリーナを迎えに行こうかな」
アリシアは一旦セネルムントに転移して、神殿で待っていたイリーナを連れてとんぼ返り。
明日帰る時は、アンナマリーがイリーナをやどりぎ館に連れてくるので、それでアリシアかエリアスのどちらかが、セネルムントに送り届ける事になっている。
「折角ヒルダがいて、宗教の設備的に転移が出来るのに、なんか面倒だねー」
「私も、聖都の神官達が相手じゃ物足りないのよ。それでルビィに頼んだりはしてるんだけど、彼女も立場的に結構忙しいじゃない?」
「神殿なら設備も設置できるんだろうけど、モートレルにあるのは教会だからねー」
神殿間の転移は、神聖魔法を行使する神官にもよるけれど、5人から10人くらいを転移させる事が出来る。
それには神様の像だったり、高位の神官が神に何日も祈りを捧げて作り上げる、シンボルとなる祭壇が必要だ。
転移を行うには、魔術師の転移と同じで、それなりに高位の神官が必要だし、この町の小さな教会ではそんな人材いない。
「なんかいい方法があると思うんだけどねー」
一番の問題が、神官さんは神様の手前、神聖魔法を研究する事を嫌う。基本は過去から今まで天啓で授けられたりの積み重ねだから、アリシアのように勝手に改良するという事は変人のやる事なのだ。
対照的に地球側の神聖魔法は、医療技術の発展と共に、主に治癒や回復の魔法は細分化も進んだりと、ここ百年くらいで改良が進んでいる。
霞沙羅もそうだけど、吉祥院も神聖魔法に詳しいので、アリシアも色々と構想を練った記憶がある。後でちょっとPCのデータを確認しておこう。いいのがあるかもしれない。
「あのカサラさんは今日もいるの?」
「霞沙羅さんは今日は仕事だよ。明日はいるけどねー。またやりあいたいの?」
「そうね。それと私のハンマーの事を知りたいみたいだったから」
「イリーナって、教皇様から聖剣ていうか、聖法器貰ってなかった?」
魔女戦争の最後の方に聖騎士となった事もあって、イリーナは聖都に伝わる聖なる鎚を与えられていたはずだ。
「あれは教団のものだから返却したわよ。それで今日はその前に使っていたバトルハンマーを持ってきているの」
「この前のとは違うんだねー、変だと思った。じゃあ霞沙羅さんに言っておくよ。明日来るかもしれないし、帰る前に館に寄るならそこで話しても、ああ、殴り合いたいんだっけ」
「殴り…、とかないわ」
「はいはい」
あんなに嬉々としているのによく言う。
* * *
やがて参加者達も集まり、研修会が始まった。
魔術師相手に魔法の話しをする際は気にしなくていい、宗派という壁がある。アリシアは自分が信仰するオリエンスを推す気は無いながらも、その辺の加減がなかなか気を使う。
ただ今回は宗派を問わない共通魔法の話しかしないので、テキストには神様の名前は無記名で済むように編集している。だから名前は言わないように心掛けた。
基本的には神聖魔法を使う際の、神様から奇跡の力を借りる為の精神の持ちようを教える内容だ。
それは教義とか神様のあり方とかには引っかからないから、「ウチの神はそうじゃない」とはならない。
神官として、人への「愛」を持って貰う事を主旨としているので、騎士達は、アンナマリーの時と同じで結構目から鱗だったようだし、そんな事は知っているはずの神官達も改めて「愛」を解かれて、解っているじゃないかとウンウン頷いていた。
そして巻末には一応研修会という事もあって、治療用魔法として、いくつかの症状専用の魔法を載せておいた。
基本的には詠唱の文面はほぼ同じなので、宗派毎に文言が違う部分は空白にしておいて、各自記入をして貰った。
「これで終了です」
剣術も魔術も神聖魔法も使える英雄として知られているアリシアだけれど、神官としての評判はあまり高くはない。
それでも噂以上に各宗派の事情と神聖魔法に詳しかった事に、出席した神官達は素直に話しを聞いていた。
出席者達は終わった後も貰ったテキストを何度も見返しながら、やがて自分達の場所に帰っていった。
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