楽しい野外演習 -2-
伽里奈達は日が暮れる前にキャンプ地に到着して、元気な者はテントを張り、たき火の準備を始めた。
案の定というか、アンナマリーは着くなり倒れ込んでしまったので、伽里奈はリュックにくくりつけておいたキャンプチェアーを出すことになり、準備が終わるまでそこに座って貰う事にした。
そしてテントが張り終わると、アンナマリー達は女性用テントに入り込んだ。
「うう」
「隊長さんもクラクラしていますね」
「馬だってあんまり楽じゃないんだよ」
誰よりも元気な伽里奈は、テント内で、今日の寝床になるペラペラの敷き布と毛布をセッティングしていき、中は真っ暗なのでランタンに火をつけた。
女性二人は早速、毛布の上に寝転んだので、代わりにオリビアがキャンプチェアーに座る事になった。
「なんか面白い椅子だね」
座面も背面も布一枚で出来ているが、中々座り心地はいい。肘掛けもあるし、コンパクトながらなかなか良く出来ている。
「よかったら足裏のマッサージとかしますよ。下宿でもやってますから」
「足裏?」
「足の裏は体の先生って言われていて、所定の部位を刺激すると、例えば肩こりとか、目の疲れとか、弱った内臓とか、そういう所に効くんですよ。でも今日は疲労回復に揉むだけですけど」
「アンナはどうなんだい?」
「私はやって貰ってないですけど、他の住民にやっているのを見ますよ」
下宿でマッサージをやって貰っているのは主に霞沙羅とフィーネで、アンナマリーはやってない。この2人はいつも気持ちよさそうにしているけれど、やっぱり男にはあまり体を触られたくない。それに気になるのが、霞沙羅がたまに痛そうにして伽里奈に蹴りを入れていることだ。痛いのはさすがに嫌だ。
「そ、そうなのかい。ちょっと肩が重くてね」
「じゃあブーツを脱いで待ってて下さいね。お湯を持ってきますから」
伽里奈は桶を持ってテントを出ていった。
「お湯がいるのかい?」
「足を暖めておくと血行がよくなるとか言ってますけど」
オリビアは言われたとおり裸足で待っていると、伽里奈は桶にお湯を入れて戻ってきた。
「桶に足を入れて待ってて下さいね」
丁度いい温度になっているお湯に言われたとおり足を入れていると、伽里奈は鞄から大き目の手ぬぐいと短い木の棒と、そして小瓶を取り出した。小瓶からは数滴、中の液体をお湯の中に入れると、何かの香りがしてきた。いわゆるアロマだ。
「ではでは、始めますよー」
伽里奈はまずはオリビアの右足からもみ始めた。
「お、いいねえ」
「今入れた液体は、リラックス用に調合した油でして、庭で育てたハーブや果物から作っているんですよ」
暖かくなった足を、主に裏側を中心に揉まれて、段々と足だけでなく体が楽になってくる。それにしても伽里奈の手つきはとても慣れている。アンナマリーが言っていたように下宿でも女性入居者にやっているという証拠だ。
「じゃあ左足の方は、揉んだ後にちょっとツボを押しますから。痛くしないようにしますが、ちょっと痛いかもしれませんね」
「え、痛い?」
「グイグイ押す気はないので」
右足をお湯に戻して、続いて左足を揉み、いい頃合いに短い木の棒を手に持った。木の棒は先端部が丸く、滑らかに加工されていて、そこを使って、まずは肩こりと頭部のツボを押し始める。
「あいたたた」
「まあ肩もこりますよね」
痛いには痛いが、危害を加えられているようなモノではなく、気持ちいいというか心地よい痛みだ。
「あとは気になっているんですが、ちょっとお酒飲みすぎでは?」
「いたたた」
肝臓に対応するツボを押されると、一番の痛みが走る。足を振りほどこうとするが、伽里奈の腕力は意外と強く振りほどけない。
「おい、あんまり隊長に痛くしないでやってくれ」
「解ってるって。霞沙羅さんとは違うから」
オリビアはちょっと悶えてはいるけれど霞沙羅ほど痛がっていないので大夫なのだろうが、アンナマリーはハラハラしてしまう。
伽里奈は手加減をしながら、肝臓のツボをしばらく刺激して、最後に全体を軽く揉んでからお湯に戻した。
「ふう」
痛かったが、途中からは気持ちよくなってきた。押されて離されてからくる何とも言えない、痺れのような刺激が癖になりそうだ。
「お家でもお風呂の最中とかに自分でやるといいと思いますよ。揉むだけでもイイですよ」
「あ、ああ、これはなかなか効くね」
気が付くと肩も大夫楽になってきた。
処置も終わり、足を拭いてもらい、オリビアは伽里奈に抱えられて地面に敷かれた寝床に降ろして貰った。
「たいちょー、お姫様抱っこ」
「バカを言うんじゃないよ。疲れてるんならサーヤもやって貰ったらどうだい?」
「えー、カリナ君、お姉さんにもやって貰えるかな」
「いいですよ。じゃあまたお湯を持って来るので、椅子に座って待ってて下さい」
「はーい」
ノリのいいサーヤはブーツを脱いで椅子に座った。
「アンナちゃんもやって貰ったら?」
「わ、私はいいです。寝ていれば回復します」
アンナマリーは目をつぶり、夕食まで休むことにした。
* * *
伽里奈が作る夕飯はクリームシチューだ。豚肉とジャガイモと人参とタマネギを炒めて煮込んだものに、手製のホワイトソースを溶かし、味の調整で細かく削ったチーズも投入した。それとパンを一緒に食べて貰う。
騎士団の料理班は、折角いっぱい持ってきたので、お肉を焼いていた。
「本当はキャンプ用じゃなくて、食堂用に考えているんですけど、どうですか?」
もう季節は秋だから、夜の森は冷えるだろうと暖まれるクリームシチューにした。ただ、作り自体は簡単なので、食堂用にどうかなとは思っていた。下宿でもアンナマリーに好評なので、こちらの人達にも抵抗は無いと思う。
「食堂でなら問題なく作れるな」
「あったまる」
「まろやかな味だな」
疲れちゃってちょっと食欲が、という人もいるだろうから、あまり癖も無く脂っこくもなく、さほど噛む必要も無いから食べやすいし、具だくさんで明日のエネルギーを摂取するにはよいだろうとこれを選んだ。
―ありそうで無い料理なんだよねー、これ。
材料はメジャーなモノだから、癖は無い。匂いもキツくないから変な動物を呼び寄せる危険も少ない。
結果として、参加者全員にも好評だったので、帰ったら食堂の新しいメニューにしようと決まった。
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