初めての料理 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
小樽校ではシャーロットが初めての料理実習の日が来た。
料理初心者だからと足を引っ張るわけにはいかない。という事をシャーロットに言われたので、時間があれば厨房にやって来て伽里奈とシスティーの料理を眺めてもらったり、カレーとビーフカツとパスタを作る機会があったので、その時には手伝わせて貰ったりしていた。
包丁は今は勘弁して貰ったけれど。ピラーの使い方は積極的に経験している。
初心者とはいえ、これは授業。
教育という観点からシャーロットにもちゃん役割が与えられている。それに対しては伽里奈か藤井がちゃんとフォローする事にはなっているけれど、シャーロットは真面目に準備を怠らなかった。
結構な気合いの入れようだ。
「私達がいるから、緊張しなくていいからね」
「う、うん」
「まず怪我をしないようにねー」
キャベツの千切りや芋の皮むきは今日もピラーを使って貰うので大丈夫だと思う。
そして時間になり、調理室で一斉に料理が開始された。
「ボクは先にアイスを作ってくるからねー」
伽里奈は他の班からのメンバーと組んで、まずはアイス作りに入り、それが終わり次第戻ってくるという流れだ。
「こっちはこっちで始めましょう」
バターライスの為のご飯を炊き、カレーを仕込むと伽里奈が帰ってきたので、ナポリタンとトンカツ作りに移行した。
「パン粉は軽く手で押さえる程度で、ぎゅってやらないでね」
「はい」
一度に何十人分という調理はちょっと大変だ。伽里奈達はもう慣れているけれど、シャーロットは作る量に驚いていた。
作るトンカツの枚数も多い。
「この授業は軍が想定されてるからねー」
例えば寺院であったり、私設の魔術会社であったり、平時でも作戦中でも職員用に作る機会も想定されている。
今回から来年の3月まで、食事場所は格闘や体術を学んでいる体育館で、そこに椅子と机を並べる為の人員が出ていき、彼らが帰ってくると各班とも仕上げが始まる。
「外で実習している人達は、これからの冬場はどうするの?」
「防寒してやるんだけど」
「冗談でしょ?」
シャーロットはまだ体験していないけれど、12月から春まではずっと雪にまみれた生活になる。
画像や映像でしか見た事はないけれど、町中のちょっと大きめな公園でも簡単なスキーが出来そうな感じだった。そんな中で長時間も練習するのかと考えると嫌すぎる。
「だって戦いに雪とか雨とか、天気のコンディションて関係ないよ。魔術師養成学校は全国に3つあるけど、確実に雪の体験ができるのってここだけだからねー。他校からも合宿に来るくらいだよ」
「え、どこでやるの?」
「シャーロットは見てないけど前回まで使ってた、離れにある演習場があってね。すぐ側に宿泊施設もあるんだよ」
「色々やってるのね」
「北海道は自然が多いからねー。同じようにフィールドワークの経験をしにも来るんだよ」
さすがにラシーン大陸を徒歩で冒険をしていた人間は言う事が違うわ、と納得。
天才少女と呼ばれて、校舎の中で特別な部屋と施設を用意して貰って、ずっと大切に扱われてきた自分とは考えが違う。
女子のような柔い感じの見た目を持っていても、伽里奈は半分剣士だし、中身は体育会系なのだ。
「め、メモメモ…」
手を洗って、スマホに今言われた事をメモするシャーロット。本格的に雪の季節になったら見る物が出来た。
その後は、食器を出してきて、テーブルの準備も出来た所で、各班共に仕上げが開始された。
伽里奈達もトンカツを揚げて、キャベツとナポリタンとバターライスを盛り、カレーをかけてトルコライスを完成させた。
各班の料理は体育館に運ばれていき、魔法自習を行っていた生徒達も、お昼ご飯を食べに続々と入ってきた。
皆が皆カレー関係の料理なので、体育館はカレーのいい匂いで満たされていて、お腹が空いた生徒達の食欲を誘っていく。
やがて全員が揃い、昼食が開始されるが、今回もデザートの為に伽里奈達数名が調理室に残って、ここで食べている。
「なんか楽しい料理ね」
大人のお子様ランチとの異名もあるトルコライスは、色々と美味しい物が一皿に乗っていて、食べていて楽しい。
「色々作らないとダメだけど」
どこまで手伝いが出来たかは解らないけれど、皆で作ったという達成感もあって、シャーロットは満足そうな表情でトルコライスを食べていた。
「適当な頃合いにアイスを出していくからねー」
今ここにいるのはアイスを準備する人員で、それに合わせて体育館から配膳する人間がやってくる予定だ。
「アイス、アイス」
「シャーロットちゃんは食べるの好きね」
藤井の相方の方が食べるのが好きそうだが、シャーロットも負けていない。ただ一つ違うのは。作る事にも興味を示している事だ。
ちょっとくらい手伝ってくれないかなと思ってしまう。
「日本で食べる料理って美味しいもの」
「いい下宿にたどり着いたのね」
「そんなにいい料理は出してないと思うんだけど」
「一度伽里奈君の所に泊まりに行きたいわね」
楽しく食べていると予定の時間になったので、アイスの準備が始まった。
バニラとチョコと苺の三種類のアイスを容器に入れていると、やがて配膳の担当達がやって来て、次々に体育館に運び始めた。
夏前に一度やってはいるけれど、まあ確かに、デザートにアイスというのは定番ではあるけれど、これを拒否するような人間はいない。勿論ちゃんと美味しく作られているのが大前提だけれど、その辺は大丈夫だ。
むしろカレーという味の強い食べ物の後なので、シメに食べるには良いと思う。
「アイスもよく出来てる」
この後の片付けも大変だったけれど、シャーロットも出来る事を一生懸命やってくれたから、本人もいい勉強になったと、小樽に来てから一番いい笑顔を見せてくれた。
* * *
「今日は良かったー」
皆で作ったトルコライスの写真を添付して、家族へのSMSも送って、シャーロットは夕飯後もまだ今日の料理演習を反芻していた。
「楽しそうだな」
「だって、ちゃんと料理を作ったのって、初めてだもん」
上流貴族育ちのアンナマリーにはなかなか解らない達成感だが、友人が喜んでいるのなら、それはいい事なのだろうと話しを聞いていた。
「アンナマリーもそろそろキャンプで料理担当になったりするんじゃないの?」
「いや、まあ、そういう話もオリビア隊長から聞く事もあるが…」
騎士団は野外演習の際に食事担当は、その時その時で参加者の中から決めているから、いつかはアンナマリーにも回ってくる事になる。
伽里奈は、いざそうなった時に泣きつかれるんだろうなー、という事は覚悟している。
まあでもアンナマリーは入居者だから、それは手伝ってあげないといけない。
この前みたいな泊まりの演習だけじゃなくて、日中に町の郊外で演習もやっているみたいだから、それならいいなとは思っている。
「次回の実習では何を作るのかしら」
「例年だと、聖誕祭向けの料理になるみたいだよー」
「そういうメニュー作りもあるのね」
「せ、聖誕祭?」
祭と名がつくからには何かを祝うのだろう。何かが生まれたそのお祝い。
この館に来て2ヶ月になるけれど、アンナマリーは初耳だ。
「千年前にこの世界で大きな戦いがあってね、その時に大活躍した5人の聖人を称えるイベントなのよ。聖人様5人の誕生日ってワケじゃないんだけど、戦いを終えて5人が聖人となった日を祝ってるの」
「そこでぬいぐるみを作ってるウチの英雄様みたいな人達か?」
「事件のスケール的にはそういう事かも」
伽里奈はシロクマのぬいぐるみの最後の行程に入っている。大きいから時間がかかると言われたのに、とても早い。
「何を作るのか知ってるの?」
「毎年ケーキは作るって話だよ」
「ケ、ケーキ」
「聖人を称えるイベントなのにケーキを食べるのか? こう神殿に集まって祈って、厳かに迎えるものじゃないのか?」
「勝利を祝うっていうのが趣旨だから。一応神殿でお祈りを捧げたりはするのよ」
聖人はヨーロッパの人達だから、それ以外の地域では単なるお祭りという色が強い。
家族でちょっといいものを食べたり、恋人同士でいいムードになったり、正直本来の趣旨とはかけ離れてきている。
あと、お祝いという事で一応子供には親から何かのプレゼントを貰ったりする。
「こ、この家でもケーキは食べるのか?」
「一応日本にある建物だからね、周りに合わせてるよ。エリアス、去年の写真ってあったっけ?」
「ええ、持ってくるわよ」
1年前は純凪さんの3人がいたし、9月までに退居した数人もいるから、結構賑やかだった。
エリアスがタブレットPCを持ってきて、2人に去年の聖誕祭の画像を見せた。
「あ、エナホ君がいる。お口の周りにクリームつけてるー」
ほぼ1年前のエナホだから、子供用の椅子に座って、皆が可愛がっているから何となく主役みたいになっている。
「かわいいー」
「あの子供か、変な服着てるな」
「子供用のネコの服ね。私があげたのよ」
あれはエリアスが子供用品店で見つけてきてプレゼントしたものだ。
「知らない人が3人いるな」
「それは出て行っちゃった人だよー」
机の上には色々な料理が並べられて、幼児が1人いるので、とても楽しそうだ。
「なんか食べたいものがあったら教えてねー」
「ロンドンだと鶏は食べるけど、後はパンとかポテトとか、割と地味なのよ」
「な、何でもいいのか?」
「基本的には、写真みたいに色々と作って皆で好きなように食べるのよ」
「パーティー的なものか?」
「そんな感じかなー」
霞沙羅は特に何もリクエストをしてくる事は無いけれど、フィーネはまた何か言ってくるだろう。
「食べたいものがあったら言ってねー。ほい、シャーロット」
ぬいぐるみが出来上がったので、シャーロットに渡した。
「きゃー、シロクマちゃん」
シャーロットは渡された大きなシロクマのぬいぐるみをギューっと抱きしめた。
「今日は一緒に寝ましょうね」
「やっとシャロの部屋にもそのぬいぐるみが来るのか」
シャーロットがアンナマリーの部屋に遊びに来る度に、触る事はしないけれど、ベッドにいる茶色い方のぬいぐるみに羨ましそうな視線を向けていたのを知っていた。
色違いだけど、それがようやくシャーロットの部屋の一員となって、アンナマリーも、良かったなと喜んだ。
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