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初めての料理 -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 先日から始まった分校の部屋での作業はまさに最終段階。


 一番内側の箱部分には魔術基板を刻み込み、外側には保冷用の薬剤を何層にも塗り、収納用の木の外装に納める。


 そして最後に、魔力タンク兼起動用のカードを、スロットに差す。


 そうすると魔術基盤に魔力が供給され、魔法が起動し、すぐに箱の中がヒンヤリとしてきた。


「うーん、完成だー」


 冷蔵箱の試作品一号はアリシアの計画通りに完成した。


カードに装備された目盛りを1から5まで順に切り替えると、設定通りに冷気の度合いが変わった。


 中の仕切りも作った。内装は出前用の岡持のようになり、食材の種類によって仕切って収納する事が出来る。


 さあ、これがちゃんと使えるかどうかは、中に物を入れてみるしかない。


 そしてこれの具合が良ければ…。


  * * *


「それがお前の言っていた冷蔵箱か」


 出来上がった冷蔵箱はすぐに学院に持ち込んで、説明の為に人を集めて、実際に見て貰った。


 まだ中身が入っていないので、箱の真価はわからないけれど、アリシアに説明して貰った魔法は動いているし、箱の中身は確かに冷えている。


「ちょっとまだ小さいですけどねー」


 内容量は50リットルくらい。


 本格的に運搬しようとなるともう少し大きくしたり、軽量化をしないといけない。けれど、今回の試作品はとりあえず今考えられるものを全部乗せにしてある。


「それでこれからどうするんダ?」

「実際に買ってきた魚を入れて、想定されている運搬時間分置いてみて、鮮度が保たれてるかどうかを確認して、終わったら調理して食べるしか無いかなー」


 実験だといったって、中身を捨てるなんて勿体ない。そもそも充分な機能を発揮して、鮮度が保たれているのであれば、折角買ってくるんだし、ラスタルではあんまり鮮魚を使った料理も食べられないから、捨てずに食べた方がいいに決まっている。


「よし、魚を買ってくるがいい」


 大賢者タウは魔法学院にしてはどこか間抜けな指示を出した。


  * * *


 これは国王も関心を寄せている国家的なプロジェクトだ。


 冷蔵札は先日行われた近衛騎士団の演習でもその力を遺憾なく発揮したというから、料理好きで通っているアリシアが帰ってきた王立魔法学院への注目度は高い。


 そんな学院代表者のタウ達の期待を背負って、アリシアは早速港町ブルックスにやって来た。


「うーん久しぶり」


 フラム王国唯一の港町は漁港だけで無く、船舶での貿易港としても使われているし、重要拠点であるから軍港としての機能もあるから、住民も多く集まり、町も大きい。


 毎日漁業関係者が釣ってくる魚介類の多くが地元民で消費されるから、市場には肉よりも多く魚が並んでいる。


今のような冬場であれば気温の関係で腐る危険性は低いので、ラスタルまでなら新鮮な魚介類を運ぶ馬車が定期的に出て行っているけれど、早朝に出発して夕飯用にお店に並ぶというスケジュール。


 アリシアのこの箱なら一年中運搬が出来る事は勿論、午後に馬車が出発しても、一晩経った翌日の朝からでも販売する事も出来るから、朝昼夜、どの時間帯でも鮮魚が食べられるようになるし、頑張れば聖都セネルムントまで安全に運ぶことも出来る。


 王都周辺以外の地域には、今後考える事にして、まずはラスタルで鮮魚の販売を安定させる事が先決だ。


「アーちゃんがデバイスにつけたあの空中投影機機能だが、あれは問題が無かったから希望者のデバイスに取り付ける事が決まったゾ」

「さすがにあれは問題無いかなって思ってたけど」

「あれはいイ。私も早速つける希望を出していル」


 デバイスに登録している文書は学生に見せるだけじゃ無いし、学院内のプロジェクトで少人数でのディスカッションをする事もあるわけで、机の上に置いてなかなかに大きく表示できるのは便利だ。


「それとカサラさんに言っておいて欲しいんだが、噴火も収まって森林火災も広がらず、木材も手に入って飛行船の建造にも繋がったからと、表彰されるそうダ」

「先生もあの時、無事終わったらって言ってたしねー」


 大きな被害を出さずに噴火が終わって本当に良かった。


「それとアーちゃん、またあの館に泊まりに行っていいのカ?」

「吉祥院さんは帰っちゃったよ」

「そっちの件じゃなくて、冒険譚の執筆が正念場なのだが、ヒルダとアーちゃんに監修とか次巻の考証とかをしたいのダ」

「次のが出るんだねー、ボクのお客扱いとして、部屋が空いていればいいよ」

「そうか、予定日を後で連絡するからよろしく頼むゾ」


 冒険譚は人気があるそうだけれど、地球のようにバンバン製本が出来るわけではないので価格もちょっと高いし、購入者の手元に届くまでには時間はかかる。


 ただ、アンナマリーのエバンス家のような上級貴族の家なら購入を申し込めば優先的に届くだろうから、彼女が読んだ後でいいから、ちょっと読ませて貰おうと思う。


 ルビィにしてみれば、アリシアが帰ってきて冒険の当事者が全員揃ったので、物語のクォリティーを上げる為に、出来る限り事実確認を進めながら、執筆をしていきたい方針だ。


 それはともかく、2人は市場に行って魚と甲殻類と貝類を購入して、冷蔵箱に入れていった。


 実際何人が食べるのかは解らないけれど、まあそれなりの量が入るようには作っている。


「お嬢ちゃん、その箱は何なんだい?」


 買い物をしては、買った商品を見たこともない箱に収納していくので、店主が尋ねて来た。


「これは王都まで魚介類を新鮮なまま運ぶ箱の試作品なんですよー」

「とすると2人は魔法使いかい?」

「私はルビィで、こっちはアリシアだゾ」

「お、おお、英雄様が2人かい。そっちは男だったのか」

「アーちゃんは変な服ばかり着るかラ」


 ああそういえばアリシアはそういう話のある人間だったなと、店主は苦笑いした。


「なんか最近の王様は食べ物に注力してるって聞いてたが、今はそんな事をやってるのか」

「季節的に冬はまだ良いんですけどねー、年中新鮮なのを食べたいじゃないですか。干物とか加工品もいいんですけど、獲れたてを新鮮なままラスタルに届けたいんですよねー」

「おー、それが出来るようになったら漁師達も喜ぶだろうねえ」


いつかこの町にも料理を持ってきたいけれど、まずは箱の完成が先だ。


 でもこの箱はちょっと仰々しいような気がする。


 家庭用に、といっても貴族だろうけれど、冷蔵庫のように使うならいいけれど、馬車とかで運搬するなら、重量的にももうちょっと簡易な物でいいかもしれない。


 とにかく、容量にある程度余裕を残して、新鮮な魚介を仕入れたアリシアは、魔法学院に帰る事にした。


  * * *


 中に入っているのは食料品なので、冷蔵箱は学生と職員の寮に備わっている食堂の厨房に置かせて貰った。


 数時間の時間経過という検証が必要なので、アリシアは一旦やどりぎ館に帰り、仕事を終わらせてから学院に戻ってきた。


 魔術師達が心待ちにして、箱を開けると、魚介達は全て鮮度が保たれたまま、腐ったり変な匂いを発する事無く、しっかりと保管されていた。


「いいじゃないか、いいじゃないカ」

「ちゃんと機能してますねー。周囲に塗った保冷剤も効いてますしね」


 カードには残り魔力残量が解るようなメーターがついているけれど、アリシアの予定したとおりの消費状況になっている。


「じゃあこの中身は、どうするんダ?」

「今回は成功って事で、もう食べるよ。これから厨房の一角を借りますねー」


学院の敷地内で調理が出来る場所はここしかないので、このまま厨房の片隅を使わせて貰う事にして、今いる関係者だけで食事をする事にした。


「あんまり時間はかけられないから、フライがメインかなー」


 今日はそれほどこだわって買ってきたわけではないので、ミックスフライとブイヤベース、パスタにパエリアを作っていった。


 この機会に厨房の料理人にも教えたいのだけれど、向こうは向こうで学生と職員の夕飯を作らないとダメなので、食べる人数は10名程度とそう多くはないので、アリシアだけで作り上げた。


「アーちゃんの家の夕飯は何なのダ?」

「今日は鍋だよ。準備は終わってるけど、味見したらすぐに帰るから、食器の片付けとかは、寮の洗い物と一緒にしてもらえるかなー」

「まあ天望の座の人間も混ざっているしな、大丈夫だろウ」


出来上がった料理を適当に盛り付けて、タウ達が集まっている、食堂とは別の、来客との会食用の部屋に運び込んでいく。


「お前、実家のワインに細工をしているようだな」


 階位上位の魔導士に呼び止められた。


「へ、誰に聞きました?」

「オレはお前の実家の常連だぞ。この前妻と飲みに行って、あいつが気に入ってな」

「は、はあ。じゃあやりますね」


 あの氷系魔法はお店の裏でやって、表には出さないと言っていたけれど、魔道士が来れば微弱ながら何か魔法が使われているのは解ってしまうだろう。


 仕方が無いので、小さい桶を貰ってきて、水を入れて、目の前で魔術を使用したスプーンを入れて実演した。


「しかし、ルビィからの噂でしか聞いていないが、お前は料理が上手いな」


 フライはサクサクに揚がっているし、ブイヤベースもパスタも、何と言っても誰も見た事がないパエリアは鮮やかに仕上がっている。


 しかし、パエリアがフラム王国でも出来て良かったと思っている。


「国王もお前の料理が食べたいと言うワケだ」

「この前、エバンス家でお昼ご飯作りましたよ」

「だ、大丈夫だったのか?」

「一応、口に合ったとは言ってましたよ」

「そ、そうか、それは良かった」

「あの、そろそろ食べませんカ?」

「ボクはちょっと味見をしたら帰りますねー」


 冷えたワインをグラスにいれていき、参加者には思いもよらぬ食事が始まった。


「うーん、ラスタルでもこれが食べられてるっていうのが、いいなー」


 卒業生でありながら実際には入った事が無い寮の食堂だけれど、ここは間違いなく王都ラスタルだ。


「ふむ、フライは綺麗でサクサクに揚がっている」

「この白と黒のソースが合う」

「私はこっちの白い方が好みで」


 タルタルソースとウスターソースだ。これも上手く出来上がった。今後はもう大丈夫だろう。


「この魚介のスープはかなり贅沢に出来上がっているな」

「具も多いわね。魚介の味もよく出ているわ」

「麵も具が多くて良イ」

「なんと言ってもこのライス料理がいいぞ」

「ライス料理っていいモノなんだな」


 料理は好評だったようだけれど、アリシアは途中でやどりぎ館に帰ってしまった。


 でも、とりあえず箱は成功のようだ。


 それであればもう少しこのまま使って、修正点を纏めて次に繋げるとしよう。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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