姿を現した悪意 -5-
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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈に襲いかかってきた今林セキュリティーの息子3人は、青の剣で思いっきり返り討ちにあってしまったので、外傷はないけれど、精神が衰弱して意識不明になった。
あの後、3人には魔力の補給を行っても2日間起きる事は無かった。
入院先の警察病院で目を覚ました3人は、まだぼんやりしていて調査に応じられる状態では無いので、もう何日か経ってから、取り調べを始めるとの事だ。
理由はどうあれ警察官に負傷者も出てしまっているし、あの行動の原因が、証拠が無くなってしまって、今のところ推定しかできないので、容疑者として扱われている。
それとは別に、返り討ちにして無傷だったとはいえ、迷惑をかけられた伽里奈の方へは今林セキュリティーから謝罪が行われた。
「今度は吉祥院とのタッグになるとはな」
「鐘の幻想獣の時のような本格的な戦闘にはなっていないでありんすよ」
霞沙羅は魔剣を作った工房主への調査を終えて帰ってきた。勿論知っているはずが無い異世界の魔術基板、しかも人格まで埋め込まれているような超高度な術式を扱えるはずも無く、弟子数名の証言もあって、疑いは晴れた。
「やっぱこいつらじゃねえか?」
事件現場がすすきのに近い大通りという事もあって、警察のカメラと何カ所かの監視カメラに討伐状況が映っていた。その中には狐のお面の2人が映っていたが、2人だけが霧に包まれたようにぼんやりとしか映っていなかった。
「道警の供述や情報も貰ったのであるが、囲んでいた警官他の記憶は、モートレル事件や横浜事件の犯人と同じように霧がかかった状態でござったな。仮面があったとはいえ服装や背格好までハッキリと覚えているのはワタシとアリシア君とシスティーだけでごんす」
「間違いないな」
向こうが仕掛けていた忘却的な魔法の効果が効かなかったのが3人だけだったという事だ。
吉祥院は自分の覚えている2人の姿の記憶をデジタルに出力した。といっても、仮面のせいで一体誰なのか、何も解らない事には変わりはない。
一応体格と女性が2人である、という事は解ったので、まったく意味が無いわけではない。
「大学襲撃の時の女の姿はもう覚えてねえからな」
状況のせいで、服装だけは解るけれど、あの時いた女の顔までは解っていない。メガネをかけていたのは覚えているが、それでは何も役に立たない。
「久しぶりにあんなに強い相手に会いましたねー」
「お前がそう言うのなら、気をつけないとな」
武器が悪かったとはいえ、向こうも全力では無い同じ条件だった。
それでもほぼ互角だったわけで、そうなると霞沙羅とも大差ないとなる。
日本の軍隊の中で霞沙羅と単純な斬り合いをして勝てるのは、ここにいない3人目の英雄「榊瑞帆」だけだ。
ただ、その一人目の女は魔法も使えるというから、本気で戦いになった時は、剣で上回っても魔法が苦手な榊が確実に仕留められるかは保証できない。
背の高い方は、武装が不足しているといっても、あの吉祥院の解呪を弾いたというから、相当の魔術師であると思う。
「本部に持ち帰るでありますよ」
「頼むぜ。またあの夫婦にも連絡をしておくか」
「ボクの方も国に持っていきますね。あれからウチの王国には現れていませんけど」
噴火の件も訊きにいきたいから、また学院に行こう。
「しかしな、吉祥院は仕方ないとして、また警察の面子を潰す事になったな」
「榊を貸してやって、これ以上を望まれても困るでござる」
なかなか3人が集まれないのは、榊瑞帆は今現在、警察に出向して、全国から集められた腕自慢達に剣術の研修を行っているからだ。
長野にある警察の研修施設を借り切って、長期間の合宿という形で、腕に覚えのある警察官達の為に剣の鍛錬で師範をやっている。
「なんか声がかかるかもしれんぜ」
「ボクですか? やだなー。それどころじゃないですよー」
「抜け作共が小僧に無理を強いるというのであれば、我に喧嘩を売るのと同義じゃ。愚か者には遠慮なく洗脳をしてくれよう」
「なんだそのネコは?」
フィーネがネコ運搬用の鞄を持って帰ってきた。
「近所のネコじゃよ。一家が風邪をひいたようなので、2日ほど我が預かる事にした」
鞄の中には母猫と子猫が3匹入っていた。別の鞄には寝床等の道具も入っているようだ。
「最近はぐっと寒くなったからのう、か弱い人間ごときでは体調も崩すであろう」
「そんなにネコが来てアンナは大丈夫かな?」
「小僧よ、我の力を思い出すがよい。何の考えも無しにやっておるわけではない」
親子ネコはとりあえず談話室の一角に置かれた寝床に落ち着いた。夜はフィーネが自分の部屋に持っていくそうだ。
黒ネコのアマツは縄張りを主張する事は無く、見て見ぬ振りをしていた。母ネコとは知り合いだし、親子の邪魔をしたくないそうだ。
そしてシャーロットは喜んでいた。ミーミー鳴いてかまってアピールをしてくる小さな子猫達を、猫じゃらしなどの玩具で遊んだり、指先でナデナデしていた。
問題のアンナマリーはなぜか子猫を怖がる事はなく、左側に寄せたポニーテールを駆使して、シャーロットと一緒に子猫の相手をしていた。
「ほれ、見たであろう」
「あれ、ネコ嫌いなんじゃ」
「子猫はいいんだよ。引っ掻いたり噛みついたりしないだろ」
母ネコがすぐ側にいる事も気にせずに、アンナマリーは子ネコを可愛がっている。
さすが未来が見える女神様だ。こうなる事が見えていたのだ。
「まあいいけど」
* * *
「なんと、アリシアと互角の剣の腕を持つというのか」
取り急ぎ、すすきので交戦したあの2人については、魔法学院に連絡をした。
学院か王宮かどちらにしようか迷ったけれど、宝物庫の盗難事件があった魔法学院の方が問題にしているだろうと思ったからだ。
それに天望の座で一度纏めて貰って、国の上にいる人同士で伝えて貰った方がいい。
それにしても驚かれたのは、相手の一人がアリシアと斬り合いをして勝負がつかなかった事だ。
魔導士階位十一位とはいえ、アリシアに剣で勝てるような剣士として思い浮かぶのは、この大陸中でも、ヒルダやハルキス等、数名しか出てこない。そんなのが敵として存在するのだ。
再び現れた場合、考えも無しに迎え撃つ事は危険すぎる。
「しかし、この絵はすごいな」
ユリアンやオーレイン達残党から情報を得る事が出来なかった犯人の姿を、お面を被っているとはいえ、ここまでハッキリと絵として出力できたのが、大賢者達には驚きなのだ。
「まあ見ましたし」
吉祥院の分析では、ある程度以上の魔術師であれば、認識の阻害作用は無効化出来るとの事だ。具体的にどういう術式かは解っていないけれど。
「その、カサラ殿の仲間であるキッショウイン殿も相当な能力の持ち主なのだな?」
「魔術師としての単純な戦力としては、ルビィよりちょっと上くらいですかねー」
「私も魔術談義をしたのですが、知識の方はキッショウインさんの方が確実に上でス」
「ほほう、ルビィまでもがそう評価するのか」
「でもその吉祥院さんでも魔法をキャンセルできなかったんですよね。そっちの背の高い方は要注意ですね」
お面をつけているのは仕方が無い。相手がどの程度の能力なのかが解ったのだから、だがまずは大きな一歩だ。
「そのキッショウイン殿にも会ってみたいモノだな」
「この世界には連れてこない方がいいと思いますヨ」
「どうしてだ?」
「大きくて、座る椅子が無いと思いまス」
「立ったままあそこのドアから入れないです」
「もしかして巨人か?」
「向こうに巨人はいないんですけど、背が高すぎるんです。アンナマリーも腰を抜かしてましたから、ラスタルには向かないと思います」
「機会があったらこっちに来てみたいとはいってましたけド」
「あれ、そうなの?」
「3人で話をしてたら、カサラさんの話に乗っかって来タ」
「そうなのー?」
ならまあ、いずれモートレルくらいには来てくれるかもしれない。
「それと、火山はどうなりました?」
「昨日の報告では、もう終わったのではないかという話だ。噴煙も溶岩の流出も止まったようだ」
「そうですか」
「カサラ殿の見立て通り、火災は山の麓から先に広がる事は無かった。街道もじき通行が可能になるだろうし、王も胸をなで下ろしておった」
「それはよかった」
「あの時の木材のおかげで飛行船の建造が順調に進んだ。数日後には飛行船がここにやってくるだろう。後日、国王から霞沙羅殿への御礼の話があるだろうから、連絡をよこそう」
学院用と王宮用の2隻が建造されていて、木材に余裕が出来たので、先に学院用を完成させたのだ。
船が来るといっても、学院で試験運用して、調整や修正箇所を見つけて修理して、を繰り返すだろうから、本格的に動かすのはもう少し先になるだろう。
火山対策で伐採した木の一部は、工房のある、あの北の町に運び込まれていて、もう一隻用に使う為に、製材と乾燥が始まっている。
「魔女戦争以来ですねー」
魔女戦争の時に、エリアスの手で飛行船は殆どが破壊されてしまった。国の復興も終わったから、平和なウチに他の国も作り始めているだろう。
「後はお前の箱とやらを待つとしよう」
「箱、何の話ダ?」
「将来的には海産物だけじゃなくて、生ものを運搬する箱だよ。まずは港町の魚を冷蔵して運ぶ為に作ってるんだ」
「またアーちゃんは」
「内側ももうすぐ出来るしね。しばらく個人で利用して、色々改良していく予定なんだ」
自分の将来の為でもある。
専用の部屋も用意したし、しっかりと検証しながら、作っていこうと思う。
どうにも周辺で不穏な動きがあるようだけれど。
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