姿を現した悪意 -4-
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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
何で自分が狙われているのか解らないけれど、状況確認の為にひとまず3人の魔力をスキャンする。
「あ、あの杖ってこの前の」
形は杖だけれど、先日の札幌駐屯地での魔剣騒動と似たような術式が感知された。という事はあの3人は杖に刻まれた人格を刷り込まれて操られているのかもしれない。それであれば、学生の範疇を上回る威力の魔法にも納得がいく。
「システィー、青の剣を」
伽里奈が小声でシスティーを呼ぶと、その手に青く燃え上がるような炎の形をした剣がやってくる。
魔術で操られているといっても、ベースとなっている人間は大したことはないようだ。それならはこの剣でさっさと昏倒させてしまえばいい。
三人が杖を持ったまま、伽里奈の方に走り込んでくる。杖の先には次の攻撃の為の赤い炎が宿っている。
「残念」
いちいち次の攻撃を待ってあげる必要は無い。
まさに一瞬。誰の目にも見えなかっただろう速度で伽里奈の方が先に踏み込み、所詮魔術師なだけに一切の反応も出来ない3人を青の剣で一閃した。
精神攻撃を得意とする青い炎に意識を持って行かれ、3人は走り出した勢いのまま、地面に転んで動かなくなった。
「まさか学校で目立っちゃってる件かな」
斬ったついでに、一人の手から奪い取った杖を手に取り、魔術基板を確認しようとしたら、急に黒い炎が点いたので、取り落としてしまった。
「な、なんだこれ」
見ると地面に転がった他の2本の杖も黒い炎に包まれている。当然こんな色の炎がただの炎のワケは無い。魔術による炎だ。
「悪いわね、それ燃やさせて貰うわよ」
狐のお面をつけて長い水色の髪をした、白いコートと、どこかの高校の服を着た、女子高生っぽい人間が、いつの間にか道路に立っていた。
「何か人を嫉んでるらしいから、そういう邪な思いが乗ったらちょっとは強くなるかなって思ったけど、まったくダメだったわねー」
「なに、キミが彼らに杖を渡したっていうの?」
「強くなりたいって希望するから売ったのよ。でもキミに反応したって事は、どうもキミの事を嫉んでたみたいね。はー、かわいい女子を嫉む男子って最低ね」
「ボクは男だけどねー」
今日はスカートは履いていないけれど、薄手のコートとキュロットなので、そう見えてしまったようだ。
「え、そうなの。まあ私も女子高生じゃ無いんだけどね。でもいいでしょー」
白いコート、ではなくて白衣だったそれをバッと広げて、中の制服を見せびらしてくる。女子高生ルックといいながら、なぜ黒いニーハイブーツを履いているのかは解らない。
「マスター、相手はかなり強そうですよ」
「多分ボクもそう思う」
まだ何もしていないけれど、向こうも伽里奈の実力を勘違いしてはいないようで、ヘラヘラした態度を取っているけれど、伽里奈が半歩進むと、同じくらいこっそり距離を取ってくる。
「あら、それって星雫の剣? まあ本物はこんな所じゃ使えそうに無いけど、キミって相当の使い手なのねー? それは、人を嫉むことしか出来ない少年達じゃあ、小細工使っても力不足だよねー」
「それで何の用?」
「今回初めてだけど証拠隠滅よ」
「ひょっとして、この間ウチの軍人に妙な剣を送りつけた人間かい?」
吉祥院も幻想獣の調査をやめて、会話に入ってきた。ただ、手を降って、警察達に「こっちに来るな」とジェスチャーをした。
相手の実力は解らないけれど、さっきの伽里奈の一閃を見てなお、近寄ってくるくらいだから、油断しない方がいい。
下手に警察に出てこられても怪我人どころか死人が出る可能性がある。
「そうかもねー。ちょっとこのところお客さんが多くて、どの件かわかんないけど、変なタイミングで動き始めちゃったみたいね」
お面の女性が軽く右手を振るうと、吉祥院の後ろに転がっていた幻想獣がまたもや黒い炎に包まれた。
「これでおっしまい。何回かほったらかししちゃってて今更だけどね。今日は現場を見てたから、仕方ないわねー」
何の前動作も無く、伽里奈は青の剣で斬りかかったが、お面の女性はどこかから出してきた、赤い炎を纏った短刀で、その一閃を受け止めた。
「可愛い顔して、思い切りが良いのね。キミはかなり戦い慣れてるよね」
女性もお返しとばかりに斬り返してくるが、伽里奈も受け止める。
「困った、結構強いなー」
今の一撃で解るけれど、向こうもかなりの腕前だ。速度も、腕力も、経験も、自分と張り合えるほどのレベルだ。
「マスター、その炎は私とは違って一種の呪いですよ」
「そうみたいだねー」
体に燃え移ったら、対象を燃やし尽くすまで、例え水の中に飛び込んでも消えない魔術の炎だ。
ただ、解呪を行えば消えるけれど、この魔法への対応方法をこの世界にいる人間の何人が解るのだろうか。
「しかも純凪さんとこの魔法じゃん」
前管理人さん夫妻のところの、いわゆる異世界の魔法だ。だからこの世界の人間にはどういう魔法なのか解らない。
「まさかこの魔術がわかってる? キミ何者?」
「それはこっちが聞きたいよ」
このやり取りで、お互いが相手を危険人物だと認識したので、問答無用で斬りかかり始めた。伽里奈的には、モートレル事件と関係していそうなので。是非捕まえたい。
赤と青の炎の神速とも思える斬撃が繰り返され、2人の周りが二色の炎の渦で覆われる。
2人のあまりの速さと激しい炎の勢いに、誰も近寄れない。
伽里奈もまさかこんな相手にお目にかかる事になるとは思ってもみなかった。これは捕まえるという目標も難しい。
「すごい、強い」
「私のが当たらないとか、無いわ」
ヒルダ達よりは剣の腕では劣るだろうとはいえ、魔術にも慣れている。間違いなく自分とほぼ同等くらいの能力はありそうだ。
多分霞沙羅でもこの状況になっているだろう。
「この剣じゃねー」
エリアスに頼んで愛剣を取り寄せておけば良かったと思うけれど、ほぼ互角の斬り合いを行っている状況で、武器を取り替えているような暇は無い。
青の剣はこうやって切り結ぶ為のモノじゃないのに。
ただお面の女性もどうやら本番向けの剣ではないようで。まさか自分にここまで食らいついてくる相手が出てくるとは思っていなかったようだ。
お互いに慣れない武器で攻めあぐねているところ、黒い炎で燃やされていた幻想獣が爆発的な勢いで燃え上がった。
「な、なになに?」
という伽里奈の隙を見逃さず、お面の女性が大きく後ろに跳んで距離を離した。
「魔術が上書きされて、解呪が間に合わない」
「え、吉祥院さんなのに?」
どうやら伽里奈とシスティーの話しを聞いて、吉祥院が黒い炎に解呪を行ったようだけれど、それを上回る勢いで燃え始めたようだ。
吉祥院の腕前を持っても解呪が出来ないとか、ちょっと考えられない。
「あら、ダメじゃないですの。どうもこの土地には結構厄介な人間が揃っていると言いましたでしょう?」
もう一人、同じように狐のお面をつけた、女性がやって来た。白衣に事務服。喋り方と背の高さといい、どうにも既視感がある。
「すみませんが、今回分は証拠隠滅と決めましたの。また次回、どうでもいい残骸かありましたら置いていってもいいのですけれど」
もう一人の女性が指を鳴らすと、黒い炎は消えて、あとには幻想獣だったモノの灰だけが残った。
「ではごきげんよう」
そう言うと、2人の姿は通りから消えた。
転移が滅茶苦茶早い。
「もう少しで仕掛けにたどり着けたというのに」
吉祥院が悔しそうにつぶやく。
あの2人が言ったように、証拠となるモノが全て灰になってしまって、何でこうなったのか、もはや何も解らない。
「しかし、何者か、が姿を現したと踏んでいいだろうね」
「そうですね。誰かカメラで撮れてないかな」
「それは期待できないね。アリシア君は集中してたから解ってないようだけど、あの2人はそれぞれ身バレを防ぐ仕掛けを持ってた。純凪さんの所の強力な、アレンジタイプの術式だったし、炎に手こずってワタシでも解除が出来なかった」
「吉祥院さんでもダメだったんですか」
「多分もう一人の、後で出てきた方の仕業だね。燃やした以外何もしなかっただけでも儲けもんだ。装備がなかったとはいえダメだ、ワタシもまだまだだよ」
まさか霞沙羅の不在時にこんな事件が起こるとは思わなかった。
「こうなってしまった以上、あと我々が出来るのは、そこで寝てる3人が何をやったのか調べる事だけだね。いやはや、折角の休暇でこんな事になるとは」
「変な女子高生が言うには、3人はなんかボクを嫉んでたみたいですけど」
まったく相手にならなかったけれど、伽里奈を目指して攻撃してきたことは確かだ。
予想としては小樽校の生徒かなとは思う。一ノ瀬寺院とは違うけれど、同じように警察に協力している別の法人に所属しているのだろう。
まずは、敵がいなくなったのを確認して青の剣を消したところに、一ノ瀬と藤井がやって来た。
「だ、大丈夫?」
「全然何も無いけど」
え、あんな滅茶苦茶な炎に包まれて、目にも見えない速さで斬り合ってたのに、と思うけれど、伽里奈に怪我は無い。
「か、伽里奈アーシアってどんだけ強いのよ」
と言いつつも、実はちょっと格好良かったと思っていたりする。
それにしても強かった。あんな腕前の人間は実家にもいない。ちょっと、本気で教えて貰いたいくらい。
「ところで2人とも、今運ばれていこうとしているあの3人が誰だかわかるかい?」
「え、あの3人、ですか? ええ、2人は小樽校附属高校A組の生徒です。1人は大学2年の長男で、全員が今林セキュリティーの関係者です」
「全員セキュリティー会社経営者の息子と考えて良さそうかな?」
「そうです、ね」
長男と、次男三男の三兄弟といった関係だ。
「えーボクって3人に嫉まれちゃったの?」
嫉まれたという事なら、そういえば、学校で妙な視線を感じた事がある。
まあ魔法学院でもそういう事はあったけれど。
「んー、学生あるある? ワタシにはそういうのは無かったから」
吉祥院の姓を持つ人間に嫉妬の念を抱くとか、それはあまりにも恐れ多いのだ。
「霞沙羅の時のように、一人一人ぶちのめして解らせるのが一番の解決法だろうね」
「極論過ぎですよー」
まあ伽里奈にしても学院で自分を嫉んだ生徒は、決闘の時に魔法をつかってあげずに全員物理で殴り倒したきたワケだけれど。
「一ノ瀬さんが素直な女の子で良かった」
「なによ、私だって悔しいって思ってるのよ」
「じゃあシュークリームを食べて抑えてね。カスタードだけじゃなくて、生クリームも多めにしておいたから」
「忘れてたわ、私のデザート!」
「あんたねー」
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