姿を現した悪意 -3-
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地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「なんでこんなに事件が起きるんだろ?」
吉祥院と伽里奈は事件現場近くのランドマークとしては最適なテレビ塔の近くに転移した。
こちらでは事件現場から近いこともあって誰もがスマホで情報確認をしている。
「あら、マスターと吉祥院さんじゃないですか」
「あれ、システィー、こんな所にいたの?」
休日を満喫しているシスティーはすぐ側のキッチンカーで買ったであろうソフトクリームをなめていた。
「そこの路地の先にスープカレーのお店があるんですよ」
状況的にはそこで食べた後のデザートのようだ。
「今何が起きてるか解ってる?」
「解ってますよ。お店を出た後に警報が鳴りましたからね。まあ幻想獣程度では傷一つつきませんし、私は気にしていません」
正体はあの大きな剣であっても。この人間の姿をしたシスティーもかなりの戦闘力を持っている。霞沙羅や吉祥院が倒したような、厄災戦時のような強力な幻想獣の完成態でも無ければ、どうすることも出来ないだろう。
本人の索敵能力もあって、スマホで状況を確認する必要も無いから、場違いなほどのんびりしている。
「お二人は何かありました? ひょっとしてシャーロットさんをお探しですか?」
「シャーロットは札幌駅近くのお店にいたよ」
「それなら大丈夫そうですね」
「ワタシは軍人でありんすから、気になって来たでござる。警察の邪魔をする気は無いでありんすが」
「システィーはどうするの?」
「もう一件行きたいのですが、目当てのお店が警戒区域にあるんですよね。SNSでは急遽お店を閉めたようで、退治が終わるのを待つ感じですね」
時間的にもまだ午後2時過ぎなので幻想獣の処理が終わった後に、被害が無ければまた営業を開始するかもしれない、と目論んでいる。ダメならまた他のお店に行けばいい。
「成長態というのが気になるでありんすよ。警察を侮っているわけではござらぬが」
それと一ノ瀬寺院や他にも提携している組織や個人エージェントもいるから大丈夫ではないかとは思っている。
これが完成態となると災害に変わるので、軍人の吉祥院の出番となる。まあこの場でいきなり完成態に変化をするような事はないけれど。
「アリシア君、この間の事件で霞沙羅から報告を受けたのでありますが、出てきた幻想獣の中に関東でよく見かけるタイプのモノが混ざっていたのでござる」
「そうなんですか?」
幻想獣の姿は住んでいる人々の意識を多少反映する事になっている。なので多少の地域性が出てしまう。
例えばパタパタと羽を広げて飛ぶドラゴン系はヨーロッパで多く出現する。
「北海道で多いのは熊か馬か鹿に狐といったところでありんすな。寒いのでハ虫類はこちらの人にはあまり馴染みが無いのであります」
「でもいるんですよね?」
「まったくゼロとは言わぬでござるが、前回から気になっているで候」
厄災戦は2年も続いたし、それ以降も後処理が続いているから、吉祥院が抱えている懸念を否定することは出来ない。
「残念ながら大学への襲撃時にどういう道具であれだけのモノを運び込んだのかは解らぬでござるが」
操られたカラスが運んできた、なにがしかの召喚系の術式が使われたという事は解っているけれど、モートレルの時と違って現物が残っていないので、何をされたのかは明確に解っていない。
「調査が必要でありんす」
「それにしても、こんな繁華街ですから渋滞が始まっていますね。
テレビ塔の裏側にある、暗渠になっている川沿いの公園通りを南に行くと事件現場になっている。道の先で道路規制がかかっているから、車が詰まってしまっている。
「よく見ると一ノ瀬の車も巻き込まれているじゃん。なら看板を利用して現場まで運んで、どさくさに紛れて見学させていただくでげす」
「え、ええー」
吉祥院の動きは速くて、さっき寺院から出て行ったハズの2台のワゴン車にとりつくと交渉をして、現場近くまで空中から運ぶことにした。事件に関与する気は無いけれど、運ぶついでに側で見たいと言ったら、渋々了解してくれた。
「アシリア君、屋根の上に乗るでありんす」
「はーい」
伽里奈がワゴン車の屋根に跳び乗ると、先頭の車両に乗った吉祥院が飛行の魔法を使い、2台のワゴン車を空中に持ち上げて規制線の側まで運んでしまった。
その時に上から確認が出来たけれど、周囲を囲っているだけでまだ幻想獣は一匹も倒していないようだ。
「うわあ、吉祥院、様」
2台のワゴンが空からやって来たので、その上に乗っていた巨体を見た警官達から驚きの声があがった。
吉祥院が小樽にプライベートで来ている事は道警内にも知れ渡っていたけれど、事件現場にまでやってくるとは考えてもいなかった。
ワゴンは強引に、空いていた場所に着陸させた。
「ワタシはオタクらの領域を侵す気はないでありんすよ。見学しているのでどうぞお構いなく」
「そ、そうですか。ご協力ありがとうございました」
増援である一ノ瀬寺院の人間を運んできてくれたのだからと、警察の人達も安心したようだ。介入するようであればこんな事をする必要は無いし、やっていたらとっくに事件は終わっている。
ワゴン車から降りてきた一ノ瀬と藤井を含めた13名の人間が規制線の中に入っていった。
* * *
大きな通りをすすきの方面に向かっていると思われる、足の長いワニのような姿の幻想獣との戦いを、伽里奈と吉祥院は近くのマンションの屋上に勝手にあがって、見学することにした。
相手がやや強力な成長態と言う事もあって、一ノ瀬だけでなく別の提携先もやって来て、一斉攻撃が始まった。
「あのタイプは以前に東京で見たことがあるでありんす。下水道のワニの都市伝説が具現化したモノでゲスね」
「またまたマニアックな」
ファンタジーだとか都市伝説だとか、人の恐怖心を反映するから「幻想獣」。人の心から恐怖が無くなることは無いから、撲滅するには何かの仕組みを作る必要がある。
「東京の廃墟でも今も見かけるので、運ばれてきたモノではないかと思っているでござるよ」
「これまで意図的に運ばれてきた事例はあるんですか?」
「基本的には自然発生する存在で、閉鎖区域ならウロウロしているでありんすが、人間が狙って運ぶとか聞いたことは無いでござるよ。遠く離れた東京から移動してきたとも考えにくいでござろう?」
「でも大学の襲撃の時に使われてましたね」
「それが謎なのでありんす。そもそも幻想獣を操っていたと聞いているっちゃよ」
「アシルステラだと、ゴブリンとかオークとかそういうのは操れますからねえ。たまに迷惑なのがいるんですよ」
「幻想獣は前例が無いでありんす。上位の幻想獣が下位の幻想獣を支配して引き連れる事はあるのでゲスが。傭兵団の一人は動物使いとは聞いているでござるが、誰が供給したのかまでは知らぬぞんぜぬを繰り返すばかり。かなりの裏があるでがんす。だから見に来たダス」
本格的な攻撃が始まって、幻想獣は段々とダメージが蓄積して、順調に弱ってきている。
伽里奈や吉祥院のような強大な魔力を持つ人材がいないから、決め手に欠けているけれど、こうなればもう時間の問題だ。
ただし被害も出始めている。人間側も火炎を吐いたり硬い鱗を飛ばして来たりといった攻撃を受けて、一人また一人と撤退していっている。
「これが普通なんでしょうね」
「そうでありんすよ」
アシルステラでも、一部の弱い魔物ならそれなりに鍛錬をした初心者剣士でも一対一でいけるけれど、オーガやミノタウロスなどになると集団戦になる。
日々危険に身を投じているような経験の高い冒険者ともなればもう少しいけるけれど、伽里奈達のように1人でドラゴンを倒せるようなのは、魔法使いならともかく、剣士で見ると一国に2、3人いるかどうかだ。
「なまくらを持ったライアでも一撃で終わりそう」
「軍に手を貸してくれているアリシア君も解ってござろうが、一般の軍人でも今はあんなモノでござる」
警察が特に弱いわけでは無い。軍に比べて武器の火力が低いのはあるけれど、幻想獣の対処にあたる魔術師の質はそう大きくは変わらない。
「どの組織も中間層が足りてないのでござるよ」
「でもなんとか終わりそうですねー」
一匹が動かなくなり、そうなると攻撃が残りに絞られていき、やがて幻想獣は動かなくなった。
「これで終わったようでありますな」
幻想獣からの魔力反応も無くなり、完全に沈黙した。
警察の方もしっかり機械での測定も終え、安全を確認してから、確認と後処理に入った。
生命体として存在しない幻想獣は、活動を停止するといずれ死体はグズグズの塵となってしまう。中にはコアになった物質が残ることはあるけれど、基本的には何も残らない。
「ちょっと気になるでござるな」
吉祥院はマンションの屋上からふわりと降りて、死骸の所に向かっていったので、伽里奈も後をついていった。
「吉祥院として、死骸を一体見せて貰うよ」
ついに吉祥院のモードが変わった。
「いいね?」
とぼけた語尾が無くなり、背筋も伸びて、表情もやや冷たくなり、恐れられる吉祥院の一族としての威厳が出てきた。
「は、はい、千年世様」
その態度に警察の現場担当者が傅くように許可を出した。
「うん、すぐ終わらせるよ」
千年世と言われても文句は言わない。普段からこうであればいいのにと思う。
「アリシア君、キミも見て貰えるかな」
「はーい」
道路上に死骸が転がっているので、警察による撤去の邪魔にならないよう、手早く吉祥院が気になった「操られた」という部分の検証に入った。
2人で別々にこの足の長いワニのような幻想獣を魔術的にスキャンする。
小型のバスくらいの大きさなので、見る部分が多い。
まず全体では怪しい部分が見つからないので、大まかな部位毎に、更に小さなパーツ毎にと絞っていく。
そこに
「な、何をする」
現場の処理をしていた警官が声をあげた。
伽里奈が声がした方を見ると、急に魔力が膨れ上がり、爆発が起きた。
「え、今度は何?」
数名の警官が爆風に巻き込まれ、その奥からはまだ高校生か大学生くらいの、3名の青年が短めの杖を持って出てきた。
「やめろ、どうしたっ!」
警官とは違う制服を着た人達が、同じ制服を着た3名の青年達を囲むが、もう一度杖を振るい、火炎をばら撒いた。
「あれ、何かボクの方を見てるんだけど」
3人の目は虚ろではあるけれど真っ直ぐに伽里奈を見ている。
「「{火炎弾}」」」
杖を伽里奈に向けて、3人は同時にそれぞれ火炎弾を撃ってきた。魔法自体は標準的なモノだが、一発の威力が標準よりも大きい。
「{電磁網}」
伽里奈は雷の網を発射し、三発分の火炎弾を絡め取って、上空高くに投げ捨てると
「{結}」
絡まった網がぎゅっと火炎弾を締め付け、爆発した。
「む、アリシア君、そっちはまかせていいね?」
「はーい」
16才くらいから20才くらいの年齢の学生にしては威力の高い魔法だったけれど、装備が特にない伽里奈であっても、あの程度はどうという事はない。
どういうわけか怪我人も出ているし、怪しげな杖を持っているし、まずは3人を止めるのが先決だ。
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