悩みと悩み -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
伽里奈=アーシアとかいう普通科にいたハズの1年生がいきなり魔法術科に現れて、校舎を襲撃してきた襲撃者をあっさり鎮圧しただけでなく、あの英雄の一人、新城霞沙羅大佐に協力して、鐘から現れた幻想獣、しかも最高位の完成態を倒してしまったという。
その伽里奈が、あのホールストン家のご令嬢ことシャーロットのサポートまで始めている。
事情はわからない。どうにも軍だけで無く吉祥院家や寺院庁も関わっているようで、一切不明だ。
しかし、そんな急に湧いて出てきたようなのが、子供の頃から魔術を学んできた、A組所属である自分を越えているとか認められない。
認めてはいけない。
学校の危機を目の前にして足が震えていたとか考えてはいけない。
危ないところを助けて貰ってホッとしていたとか考えてはいけない。
急に、そう、急に準備も武装もないのに襲いかかってきたから悪いのだ。
自分は将来この国の魔術師を背負って立つ人間なのだ。
組織に入り、同士達を纏めなければならない。
家を継がなければならない。
研究者として知識を探求しなければならない。
個人として名をあげなければならない。
でもどうすればいいのだろうか。
あれはあまりにも強すぎた。
* * *
ここは札幌駅近くにある雑居ビルの一室。
「世間的に悪事と呼ばれる事を成す為に、不足した戦力を揃える事に心血を注ぐというのは良くある話ですものね。どんな人間であっても計画を成功させる為に、自分に無い物が何なのかを分析する勤勉さは、この私においても頭が下がる事もありますの」
先程まで打ち合わせをしていた新しい取引相手なんかも、具体的にどういうモノが欲しいと、かなり詳細な書類を持参してきた。
話が早い。
予算もあるのでそれにどう納めるか、打ち合わせを経て、お客様が納得する仕様書も出来上がり、その受注を受けた。
それでもちょっとお高くなってしまったけれど、前金も払ってくれた。とても良いお客だった。
作業の為に書類を片づけていると、受付をやっている相方から次の来客が来たと連絡があった。
予約者画面を見ると、つい2時間前にネット予約をしたようなので、見落としていた。
やって来たのは学生との事。最近札幌周辺の学生のお客がちょっと増えた。
ただ学生とは言っても、家業故か、親が所属する組織故か、そこそこにお金に余裕がある者しかこのお店は利用できない。
ちょっと弄ってあげるだけで、万単位のお金がかかる。悪いけれど千円台のサービスは無い。
「欲望を抱えた人間はどの世界でも絶えないモノですわね」
大人にもなれば自分の限界が解っているけれど、学生はそれを解っていないから、ちゃんとした大人がついていないと、自分の力を見誤ってしまう。
まあ大人である自分からすれば、そういうお馬鹿さんの欲望は、割と楽なお小遣い稼ぎに利用できてしまうから大歓迎だ。
何ヶ月か前には、いい大人なのだから、国が滅亡した中で生き残っただけでも儲けものだろうと思った連中が60人ばかりいたけれど、結局彼らはどうなったのだろうか。
曾曾おばあさんが作った、使い勝手が悪い道具も引っ張り出してあげたけれど、まだ早いという忠告も無視をされた。ならばと一応計画は立ててあげたけれど、欲に溺れた人間はああも視野が狭くなるのかと呆れたモノだった。どういう結末を迎えたのか、営業のついでにちょっと見に行ってみようか。
ただ、こちらとしては物作りのいい機会になった。何の目的も無く物を作るというのは億劫だけれど、大きな目的に向かって、それに合わせた物を作るというのは勉強にもなるし、モチベーションも上がる。
予算内で納得のいくモノが作れたし、自分にとっては初めての土地だったのでいい研究にもなった。
そういう意味では彼らの欲望には感謝をしないといけない。
やはり欲望はいい。様々なテーマを自分にもたらしてくれる。
「ちょっと、そろそろ案内するわよ」
ドンドンとドアが叩かれた。
「はいはい、はいな。お通しして下さいな」
今日も一目見て解る、何か勘違いをした子供がやって来た。
こういう人間には一度言ってみたい言葉がある。
諦めが肝心。
でも言っちゃったら商売にならない。
入ってきたのはどこか目がうつろな学生。
昨日来た学生も同じような目をしていた。
「初めてのお客様ですわね。どのような相談ですの?」
諦めるな、という言葉は自分のような才能のある人間にのみ許されたモノだ。
* * *
「アリシア君はあのルビィ女史と昔なじみとして同じ時間を過ごして、才能差を感じた時はどうしたのでござる?」
「元々個人授業を受けてた魔術師のおばさんの所にいた時代からだから、ずっとルーちゃんの背中を見てたんですよ。追いつきそうかなとか思ったんですけど、結局魔術師としての総合力じゃ勝てないから、ボクはボクでやりたい事をやろうって、冒険の時もルーちゃんのサポートをしてたんですよ」
ルビィは伽里奈に対して力をひけらかすような事はしなかったし、将来的な人生のゴール地点も違っていたから、伽里奈もルビィに対して妙なライバル心を抱く事は無かった。
「諦めていたっていうのもありますけど」
「そこまでの腕があるというのに、なかなか賢明な判断だっちゃ。ライバルを追い抜く事を諦めていても自分にテーマを課しているのが、魔術師としては負けてないと思うでござる」
「吉祥院さんと霞沙羅はどうだったんです?」
シャーロットも話しに入ってきた。
「私らは軍に入ってからの顔合わせだったし、さすがに吉祥院の人間を嫉むような事はしてないからなあ」
「まあ、魔術の専門家として任せてくれていたでありんす」
「私は中途半端な立ち位置だからなあ」
剣、魔法、神聖魔法、鍛冶と、器用な霞沙羅だけれど、さすがにそれぞれに特化した人間には敵わず、総合力があるので頼られてはいたけれど、中途半端だという事は解っていた。
ただ一つ、魔装具などの製作だけは今も昔も霞沙羅の方が上だ。
「教育のレポートか?」
「そんな感じ。学生時代についての質問を考えているから、出来たから聞いて欲しいの」
「ああいいぜ」
「ワタシのは役に立たぬでござるよ」
「伽里奈もいい?」
「世界が違うけど、役に立ちそうならいいよー」
セーター作りが終わった伽里奈は、早速シロクマのぬいぐるみを作り始めている。
「中瀬達には聞くの?」
「別のテーマで聞く予定よ」
「一般人まみれのE組に所属しているが、案外いい方向に行ってるってことか?」
「いた事がない環境だから、それの研究は刺激になってるわ」
シャーロットは授業の進行とは関係の無い人間なので、授業を受けつつもまったく違う事をやっている。
13才ながらも、これまでに幾つもレポートを出しているような人間だから、いわゆる人間観察をしているようなモノで、教師の言葉の分析だの生徒の思考など、そういうのを見て楽しんではいる。
それに隣に伽里奈がいて、同じような事をしているので、そこでちょっとした討論とか、日本の癖みたいな事を教えて貰ったりと、これまでの学校生活とは違う分野で充実している。
多分、大人達に囲まれた母校から、ちょと年齢は上だけれど、同世代の子供達がいる環境に変わって、比較が出来るようになったのが大きいのだと分析している。
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