悩みと悩み -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
小樽校の方では、今日の実習の授業となって、1年E組生徒が室内のレーンを使って炎系魔法の練習を行っている。
それを横目に、先日降った雪が残る中、外で伽里奈は一つの実験を始めた。
独自に配合した液体を入れたペットボトルを4本、四角になるように設置して、それぞれにアロマスティックを刺してその先に僅かな魔力を送る。そうすると四角く範囲を覆う結界が張られた。
「学生くらいならこれでいいと思うんだけどねー」
液体の濃度を変えれば、結界の強度も調整出来るし、ペットボトルの間隔を変えても調整が出来る。
「とりあえずの簡易版かなー」
これから建物を作るのは無理なので、雪対策として、余っている学校用のテントを設置して、その中でやって貰おうと思う。
レーンと違ってターゲットは設置できないけれど、単に魔法の練習をするとして割り切って使って欲しい。
結界強度の確認として、伽里奈も弱く調整した魔法を何度も放つが、想定したとおりにはあるように思える。
「ねえ、なかせー」
1周目の練習が終わっていた中瀬を呼んで、この結界の説明をして
「ちょっとやってみて」
あの伽里奈が作ったにしてはペットボトルが地面に4本置いてあるだけなのがいまいち頼りないけれど、確かにちょっと紫色の幕に囲まれている空間がある。
「ちょっと手を突っ込んで、やってみてよ」
「大丈夫か?」
練習用の魔法とはいえ、ペットボトルが倒れないか心配しながら、タクトを握った手を結界内に突っ込んで、弱々しい火の魔法を放った。
飛んで行った火は奥に当たって、ポンと破裂した。
「いけそう?」
「ただ、晴れているとはいえ寒いな」
「とりあえず料理実習で使ってるテントの中でやって貰おうかと思ってるけど」
当然、風よけもつけて貰う予定だ。
「練習をするならこれでいいんじゃないのか? 俺達は授業中の練習回数とか放課後の場所が欲しいんだから」
「じゃあ他の人にもやって貰おうか」
レーンは他のクラスも使っているので、E組も待ちぼうけを食らっている生徒が多い。
当初は2発も撃てばグラウンドを2周くらい走ってきたのかと思うくらい息を切らせていたE組生徒達も、2周目以降の練習を心待ちにするくらいには魔法に慣れてきた。
他人の練習を見て参考にするのも大切だけど、ただ待っているだけの時間は無駄な気がする。
待ち時間無しにはならないけれど、なるべく練習回数を多くするようにはしてあげたい。
「ちょっとせんせー」
伽里奈は事情を伝えて、数名の生徒を外に連れ出して、結界を使っての練習をして貰った。
実質レーンが一つ増えた事になるので、やってる間はちょっと寒いとはいえ、それだけ自分の回が増えたので、喜んでくれた。
* * *
その結果をもって、放課後に教職員に呼ばれて、予め作っておいた簡易的な企画書を提出した。
正直、こういうので呼ばれるのは悪くない。
この企画書には、概要と使用する術式、液体に必要な素材と生成方法、ざっとした金額、ペットボトル4本セットでどの程度の時間保つのか等々を書いており、教師達も解りやすいと喜んでくれた。
レーンは魔力の壁に電気の力を融合させた、電磁的な特性を持つ結界で、機器そのものの設置にもお金がかかるし、電気代やメンテナンスなどの運用コストもかかる。
「金額も安いのね」
触媒となる液体の素材のいくつかは大学敷地内でも手に入るので、探索実習で採ってくればいいし、何なら選択授業で栽培すればいい。採れない分は学校に在庫をしてある素材なので、ちょっと多めに仕入れて貰えばいい。
高校生相手の結界ならペットボトル1本分の液体を4分割して丸1日余裕で保つ。
「さすがにペットボトルは無いと思うが、生徒の気持ちを盛り上げるいい入れ物を用意したいね。ガラス工房でも見てくるか」
「しばらく授業で使うか、放課後に人を集めてアンケートをとるか」
一人一人の練習機会が増えるのは誰だっていい事だと思っている。特に試験前などは、結局練習できない生徒が出ている状況だ。
テントも冬は料理実習で使わないので、試験期間前に幾つか引っ張り出せばいい。
年末に向けての試験も迫ってきているし、早めに運用の仕方を考えたい、と教師側で預かる事になった。
* * *
学校公式の運用方法は教師達に考えて貰うとして、結界の耐久力テストの検証を行う為に、伽里奈が参加している実習の授業で、別のクラスや学年の生徒が同時にやっていたら声をかけて、何人かに使って貰う事になった。
その中に2年A組や3年A組もいるけれど、レーン不足への仮の対応だと説明をして、協力をお願いすると、有り難いことに手を挙げてくれる生徒も出てきた。
学年が変わってもさすがA組なだけあって、一緒に実験に付き合って貰っているシャーロットにちょっと恐縮しながらも、今習っている魔法を撃ってもらう。
「ターゲットが無いのが消化不良だけど、魔法の習得ということを考えれば文句は無いかな」
「幾つくらい用意するつもり?」
「例えば10分とか、家に帰る前にちょっと練習とか復習するだけでもいのよね」
「今結構本気で撃ったんだけど、あんな見た目の触媒ながら、かなり頑丈だね」
見た目がちょっとしょぼいのは解る。
でも伽里奈はもちろん、シャーロットに結界の耐久力テストをして貰っているので、どの程度で壊れるのかは解っている。だから3年A組といえど、個人では破壊する事は出来無い。
それにペットボトルが倒れても、触媒になっている液体が漏れるだけなので、結界の維持は続く。
話しをすると野外の練習現場は「寒そうだ」と言われるけれど、一応周囲に幕はつけるし。厚着をすればいいし、何と言っても放課後に練習の機会が増える事は歓迎してくれている。
「そもそもね、機械に頼りすぎなんだよー」
この触媒は元々は伽里奈のオリジナルでは無くて、以前に横浜大にいた時に、図書室にあった古い文献にあったモノだ。それをコストダウンの為にアレンジしたモノ。
機械文明の無いアシルステラにも勿論同様の技術があり、学院の練習場所では常設の設備以外に、追加で蝋燭の状態にしたこれも使われている。
こちらでは忘れられてしまった技術だ。
レーンは電源をつければ結界を維持してくれるという羨ましくなるような便利なモノだけれど、場所も取るし、コストもかかる。
「教育設備として機械的な道具を否定はしないけど、魔術師が手を抜いちゃダメじゃないかなー。無ければ作る。作る方法を忘れちゃダメだよ」
逆に電気的な結界維持はアシルステラに持って帰りたいけれど。
「伽里奈の視点は面白いわね」
例えばシャーロットとか、霞沙羅や吉祥院レベルになると、より深い知識を求めて、古い技術を掘り返す事もあるけれど、一般レベルになると、軍人であってもある程度で知識探求が止まってしまう。世界が便利なのも考え物だ。
「地球とアシルステラ、どっちが良くてどっちが悪いってわけじゃないけど」
「地球の勉強をしてるのに、別世界の実情が聞けるって、随分贅沢な家に来たものね」
シャーロットもレポートの要素にしようと、伽里奈の呟きをメモした。
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