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とあるご令嬢と冒険者の話 -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 翌日もルビィが動ける時間だけ学院の案内をして貰った。


「また貴族の子供が決闘なんかしちゃって」

「今日は貴族同士だゾ。、まあ上流といってもいい家と中の下くらいの家だナ」

「上の子が下の子に喧嘩をふっかけてるんでしょ。飽きないよねー」


 闘技場に行くと、家が上という生意気そうな男子が、家が下という大人しげな性格の男子が何か言い合っている。


「どっちも貴族の家に住んでるだけで、貴族じゃ無いのにー」

「それを言ったらお終いダ」


 下級貴族め、とか言った声が聞こえてくるけれど、彼はまだ貴族の肩書きは持っていない。お父さんかお爺さんが偉いだけだ。下手をすれば王の気分次第では貴族になれない事だってある。


「良くないよー。ボクがいる学校は決闘をやったら何を学んだのかっていうレポートを提出するんだよねー。提出期限がすぎると全教科の評価がマイナスされるんだー」

「勉強のための決闘か、それはいいやり方ダ。提案しておこウ」


 こっちの決闘も元々は仲良しやライバル同士でお互いの力比べで始められたモノだけれど、家の名を笠に着た弱い者いじめの場になる事も多い。


「ところで3年間いなかったから事情が解らないけど、魔女戦争で魔術師団の人材がいなくなって、慌てて補充してるって感じ?」

「アーちゃんは鋭いナ。それにアーちゃんみたいなのがいるから、平民でも魔法の才能がちょっとでもあると奨学金を出して集めたりもしているのダ」

「うーん、向こうの世界も同じ事やってるからね」


 決闘が始まって、2人が魔法の撃ち合いを始めた。ドカドカ撃つほどでは無いけれど、何だかんだでどっちもそれなりの魔法を使っている。


 いじめだろうからどうかと思ったけれど、下級貴族と言われた子も結構やる。


 あの2人を知らないから、ひょっとするとそれなりの交流があるのかもしれないけれど、もしいじめだった場合は国の方針に反する行為に繋がる。


 現実は厳しくて、魔力は身分が高い家の子だから魔術師として能力があるというわけでは無い。社会制度上はともかく、校内での身分差は無くすべきだろう。


「地球側の話だけど、ボクがいる学校は首都にある学校に比べて予算が少なくてねー、霞沙羅さんと一緒に予算を奪おうとしてるんだー」

「む、アーちゃんにはこっちに肩入れしてほしいものだガ」

「入居者の手伝いをするのが管理人の仕事だから、今はもう一人留学生が増えちゃったんだよねー。でも、使える仕組みがあったら伝えるよ」


  * * *


 アリシアとルビィは学校設備を一通り見た後に、カリーナの宿にやって来た。


「とりあえず2つ、料理を作るよ」


 そんな急に沢山メニューを増やしたところでお店の負担になってしまうので、鶏の唐揚げと卵サンドを教える事にした。


 鶏肉はともかく、卵はややコストがかかるけれど、1年を通して手に入る材料なのでレギュラーメニューには出来る。お値段はお店で決めて欲しい。


 あと、今日は義姉さんがいるので、ワイン用の冷却付与魔法を教えておく予定もある。


「玉子焼きには、出来たらこういう四角いフライパンを作って貰えると、安定して角があるものが出来るから」


 館で使っている四角いフライパンの写真を渡した。


「今日は丸いフライパンで作るからね」

「オレはどうするんだ?」

「父さんはボクが口で言うから、鶏肉の準備と唐揚への衣の準備をしてね」


 相変わらず醤油が無いので、アリシアの配分通りの塩ダレを作って、鶏肉を漬けてもらう。


「兄さん見ててね」


 溶き卵をフライパンに薄く焼き、巻いて、その下に溶き卵を敷き、巻いて、また敷いて、を繰り返して、長方形の玉子焼きを完成させる。


 それを適度な幅に切って、用意していたパンに切り込みを入れて、間に挟んだ。


「ヒルダの家で前に食べた気がするナ」


 地味ながら、会話をしながらも手軽につまめる食べ物で良かった。


「父さんは、皮で鶏肉を包むようにしてから、衣をつけて、揚げて」

「お、おう」


父親はアリシアの言うとおりに肉の形を整えて揚げ始めた。


「じゃあ兄さんもやってみよー」

「お、おう」


 目玉焼きはあるし、オムレツやスクランブルエッグはあっても、玉子焼きは無い。卵を巻くように焼いていくとか、考えた事も無い。


 しかしお店の新しいメニューの為だ。兄だって毎日料理に触れている経験値を使って、何とかアリシアの指導の元、焦げ目が出来てしまったけれど、巻き作業自体は中々上手くいった。さすが兄といった所だ。


「なるべく焦げ目をつけたくないけど、このくらいに茶色い感じで、ホントに焦げなければいいと思うよ」


 アリシアの玉子焼きは表面に一切の焦げ目が無く、綺麗に黄色い。あと、フライパンが丸いので、まだアリシアのように綺麗な長方形には出来ないので、隅っこがあたった人はちょっとごめんなさいだ。


 そして試食の為に兄の玉子焼きも切ってパンに挟んだ。


「父さん、そろそろ油からあげてね」

「お、おう」


 唐揚げは美味しそうに揚がった。


「そんな感じのちょっと茶色になったら油からあげてね」


 最初だけど、衣も中々ジューシーに揚がっている。


「この唐揚げはどうするんだ?」


 唐揚げを料理で出す、といっても日本的な定食では無理なので


「ボクの方の飲み屋さんだと、定番のおつまみになってるから、そのまま4つくらい一皿で出して。あとは2つに切るなりしてパンに挟んでもいいかなー」

「そういうモノか」

「取りあえず食べてみようぜ」


 練習用の試作とはいえそれなりの量になってしまったので、今家にいる家族を全員集めて試食する事にした。


「玉子焼きは作るのにちょっと手間がかかるが、その内慣れるだろう」

「パパ、おいしい」

「アリシア、あんたにとって良い仕事を見つけたんだね」


 唐揚げは揚げなければならないけれど、子供だけじゃなくて大人もいける万人向けの食べ物だ。これは飲み客に売れるだろうという判断になった。


「うーん、私の家にも来て欲しいナ」

「ルーちゃんの家って、誰が料理をしてるの?」

「住み込みの家政婦を一人雇っていて、家の事は全て任せていル」

「そうなんだ」

「日常的な料理で良いゾ。その内あのシチューかカレーを頼みたいガ」

「そろそろねー。じゃあ次は義姉さん、一日に一回か二回使えばいい魔法だから」

「私に出来るかしら」


 学院の先輩とはいえ、義理の弟は魔導士。それが作った魔法となると、魔術士でしかない自分ではと身構えてしまう。


「小さな氷属性の付与魔法だから、ようは魔剣化だよ。学校で覚えるような剣にかけるわけじゃなくて、威力も低い小さな魔法だから、そんなに身構えなくて大丈夫だよ」


 結局魔法を掛けるモノを何も用意していないので、ここは安全なスプーンにした。


 術式と使い方と効果の説明を書いたメモを渡し、早速義理の姉にやって貰う事にした。


 説明している間に瓶のワインと水の入った桶を用意して、一目見て術式を理解したルビィの補助を受けながら、義姉さんは魔法を起動する。


「説明通りに冷えてきたわ」

「調整してそんなにキンキンに冷えるようにはなってないからねー」


 魔術付与が成功したスプーンを桶の中に入れると、水とワインが段々と冷えていく。水は凍る程では無く、設定した適度な温度以下にはならない。


「ふーむ、アーちゃんはこういうのが上手いな」


 ルビィもスプーンを借りると、さすがに簡単に成功させた。


 小さな魔法なので、学院を卒業した人間ならば殆ど負担にならない。


「これって他の誰かに教えたのか?」

「ライアとヒーちゃんとレイナードだよ。ライアは劇場で貴族相手の料理を出してるからねー」

「なんでヒルダなんダ?」

「その時いたから」

「まあヒルダも初級魔法は使えるしナ」


 ルビィ的にも、早速今日の夕飯でやってみようと思った。


「よし、お前も頼むぞ」

「ええ、解ったわ。お客さんに何をやってるか解らないように、やる時は裏でやりましょう」


 とりあえず実家に料理を2つ伝えて、今日はやどりぎ館に帰る事にした。


  * * *


 実家での用事を済ませてモートレルに転移後、館に帰る前に、ヒルダに「練気」について確認する事にした。


 教えてから何日か経ったけれど、どうなっただろうか。ヒルダはかなりやる気だったけれど、上手くやれているだろうか。


 屋敷の方に行くと、騎士団の方にいると言うので行ってみると、団員達の演習を見ていた。


「あらアーちゃん、どうしたの?」

「あの練気ってやってる?」

「毎日やってるわよ。書類仕事でイラッとした時とかにも」

「そ、そうなの」


 やる気があるのは解ったけれど、そんなにやらなくても。


「じゃあちょっとやってみてよ」

「よしよし、見せてあげようじゃない」

 自信満々にヒルダが立ち上がって、足をちょっと広げて、拳を握った手で腰の脇に構えて、静かに呼吸する。

 そうすると割とすぐに、ヒルダの下腹部に気が貯まっていく。


「うわ、早いなあ」


 元々コツを掴むのは早いだろうと思っていたけれど、アリシアの想像以上にヒルダは練気の基礎を身につけてきている。


「アーちゃんが言うなら、そうなんでしょうね」


 構えを解くと、すぐに気は霧散した。


「あれよ、ハルキスに話をしたらオレにも教えろって言ってたわよ」

「まあハルキスにも教えるつもりだけど」


 次に何か料理を伝えに行く時にでもと思っていた。霞沙羅もハルキスのハルバードを見たいそうだから、その時にでも話せばいいかなと。


「お父様からも何をやっているのか訊かれたから、時間があったら教えてあげて」


 あのルハードも領主を引退したとはいってもそれは表面だけで、まだ現役バリバリの人だから、きっと使いこなせるだろう。


「練気はもうちょっとしたら、次に向けて確認に来るね。それともう一つ、神聖魔法の件で募集してるの?」

「あの話はモートレルにある各教会にも連絡しておいたわよ。基本的には誰かは参加させるって」

「そうなんだ」

「騎士団からも何人か手を挙げてるわ。それとギャバン教の本部からも一人二人呼ぶようよ」

「聖都からわざわざ?」

「転移出来るでしょ」


 神聖魔法には上位最上位になっても個人が使える転移魔法は無いけれど、設備用の魔法として、神殿と神殿を行き来する転移魔法がある。


 専用の設備が必要なので、それなりに大きな設備同士でしか出来ないけれど、モートレルの神殿くらいになれば、転移設備があるから、神官達は日帰りも出来る。


 残念ながらオリエンスの教会と聖都セネルムントとの繋がりは無い。


「アンナマリーがしっかり回復魔法を覚えているもの。だったらもう何人か、団員にいてもいいでしょう?」

「機会は無いけど、疑似聖剣化と除霊もマスターさせてるよ」

「疑似聖剣はやらせて損は無いわね」


疑似聖剣化は除霊だけでなく、魔剣化が付与され武器や、魔剣その物とも斬り合いが出来るようになるので、使える人間が班に一人いるだけでも、生存確率は上がる。


 神聖魔法は、一般的な信仰心からワンランク引き上げて、多少の修練さえあれば、初級レベルであればは身につける事が出来るから、魔術よりも習得は難しくない。敵を倒すには少し向かないけれど、使用者が一人でも増えれば、それだけ騎士団には恩恵にあずかることができる。


「大事にならなきゃいいけど」


 ただ、アンナマリーが騎士団の中で存在感を増しているのであれば、教えている側としては嬉しい。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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