表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/525

とあるご令嬢と冒険者の話 -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 アンナマリーを通して予め揃えて貰っていた、厨房にある食材を確認して、アリシアは料理を始めた。


「ここに貝とか魚があれば別のも作れるんだけど、今は仕方が無いねー」


 エバンス家なら港町から鮮魚を仕入れる事も出来るだろうけれど、今回はそういうのはやめて貰っている。


 今日は今後も普通に作れるモノとして、カルボナーラとフワフワのオムレツ、鶏のパリパリ焼きとオニオングラタンスープを作る。


 今回のオニオングラタンスープはキャンプの時の大人数向けのなんちゃって仕様ではなくて、ちゃんと一人分ずつ作る。


 あとはシャーベット。アンナマリーがどうしてもと言うので、こればかりは魔法を使う事になる。


「あの料理がこっちの世界でも食べられるんですね」


 アリシアに屋敷で料理を作って貰うのは初めて。ホントは他の、例えばビーフシチューとかの方がいいのだけれど、時間が無いから今回は仕方が無い。


 でも父親に食べさせたいと思っていたいくつかの料理が、ようやくこの屋敷に来るのは嬉しい。


「頑張って作るよー。でもやっぱりヒルダの屋敷の厨房とは広さが違うなー」


 厨房が良すぎてさすがに1人では難しいし、調理方法も覚えて欲しいので、厨房の人達にも手伝って貰う事にした。


  * * *


「アリシアが同席できないのが残念だ」


 元々アリシアが来る事を知らず、折角だからと無理を言って自分の分も作って貰って、さすがのマーロン国王も、申し訳ない気分になっている。


 料理が一つ一つ出てくるので、アリシアはずっと厨房で料理をしていて、この昼食には参加できない。


 平民だったならまだ気も楽なのだが、子爵になっている人物が厨房に押し込められている。


 でもこればかりは仕方が無い。もともと本人の希望でもあるし。


 子爵に料理をさせているという、よくよく考えると変な状況をエバンス家の面々も気にしつつ料理を待っていると、まずはオニオングラタンスープが出てきた。


 チーズをとろけさせる為にオーブンに入れていたという事で、陶器の容器ごと熱々の状態で運ばれてきた。


「この上に載ったパンとチーズが面白いな」

「スープにタマネギの味もしっかりと感じられていい」


 予め「上等なものは作れません」と言われている。確かにアリシアが選んだ材料は大した物ではないが、出てきた料理は最初から大した物だった。


 それに季節も冬ともなれば、温かい食べ物は嬉しい。


 食べ物から暖を取ると、次にパンとオムレツが出てきたのだが、プルプルと震える丸く黄色い塊が出て来た時は、アンナマリー以外の全員が驚いたモノだった。


「なんと柔らかい。今にも崩れてしまいそうなのに、どうやってこの状態に作っているのだ」

「材料はシンプルだが、中々奥深い味がする」

「アンナマリー、本当にあのアリシアは毎日こんなものを作っているのか?」

「い、色々作ってます」


 娘からはやどりぎ館の料理は美味しいと話は聞いていたけれど、とりあえず2個、豪華さは無いが随分な物が出てきた。


 次は何かと待っていると、カルボナーラが出てきた。わざわざ一人分ずつ作っているので、冷めないうちに、まずは国王から食べ始めた。


「何と濃厚なソースなのだ。しかし材料的にはまた単純なモノのようだが」

「あの、ソースはベーコンと塩、胡椒と、卵とチーズだけです。たまに生クリームを入れるのですが、今回は使っていないと思います」

「このベーコンが良い味を出しているものだな」


 ソースに混ざっているだけでなく、カリカリなベーコンが上に追加トッピングされている。


「お前は下宿で何を食べているのだ?」

「あの、もっと色々と作ってくれるんです。上手く言えないんですけど」


 ランセル将軍からの追求が続く。


 そして鶏肉のパリパリ焼きが出てきた。お皿には小さく刻まれた、芋のオーブン焼きと甘くソテーされた人参が付け合わせとしてついている。


 ソースがかけられた鶏肉は、皮が香ばしくパリパリになるまで丁寧に焼かれていて、ダメな人はダメな、あの独特の食感が消されている。


「こんな焼き方があるのだな」

「アリシア君はなかなか丁寧に料理をするのだね」

「あの、下ごしらえしたお肉を一晩寝かせたり、シチューを丸一日以上煮込んだりとかしてます」

「お前はそんなモノを食べているのか?」

「毎日じゃないです」


 あれ、アリシアって平民の、大衆食堂の家出身じゃ無かったっけ? と全員が首をかしげた。


 しかし、さっき来たばかりで、あまり手の込んでいないはずの料理も、実によく出来ている。王族も上流貴族もこれまでの料理に文句は無い。


 そして最後に、半分氷になっているようなリンゴのシャーベットが出てきた。こんなもの食べた事がない。


 カチカチに凍らせた果汁を一口サイズのブロック状に削って舐めながら食べる事はあるけれど、この中途半端な氷は見た事がない。


 まるで魔法のような…、いやアリシアは高位の魔術師だった。


「随分と口の中がさっぱりするな」

「このシャリシャリといった、すぐ溶けていく冷たい口当たりがなかなかいい」

「アンナマリー、アリシアのいる館の話は以前に聞かせて貰ったが、どうなっているのだ?」


 今日の料理を全て食べ終えて、ロイヤルミルクティーも出てきた。


「あの、異世界で、色々と調理用の機材もあって、食材も色々と集まるんです。港も近くて海産物も簡単に手に入るようで」

「しかしそれを彼は、こちらの世界で作っているはずだ」

「私もまだ2ヶ月くらいですのでそれまでを知らないのですが、こちらの世界に帰る準備はしていたようで、ヒルダ様の所にも色々と料理を教えるついでに、持ってこられる料理の検討をしているそうで」


 食材は特別ではないけれど、料理としてはとても丁寧で、上等と言ってもいい出来だった。王や上級貴族でも良いランチだったと思っているほどだ。


 このミルクティーだって、この屋敷の茶葉を使っているのに、さっき意見交換をしていた時に飲んだものとは全然違う。


 ミルクがとてもリッチに感じる。


「アリシアを呼んでもらえないか?」


  * * *


 厨房は厨房で皆で違うモノを食べていたところを呼び出されたアリシアは、食堂まで向かった。


「あの、ダメでした? やっぱりもう国王様ですし」

「逆だ。良すぎる。口に合いすぎる」


 若い国王だし、もっと若い頃に同じ戦場に立った事がある相手だから、マーロンの言葉がちょっとくだけている。


 本人もそれに気が付かないくらいに衝撃を受けているということだ。


「それは良かった」


 館の中では自信を持って料理をしているけれど、大都会の大人の貴族とか王族とかが何を食べているのか解らなくて、今日作った料理が受け入れられてホッとした。


「ヒルダ殿の所へ料理の提供を続けているというが、どの程度の料理をこちらに持ってこられそうなのだ?」

「冒険中にメモをした調味料だったり、香辛料だったりが、向こうのどれと代用出来るのかは解ってるんですが、食材も含めてこの国で手に入らないモノも多いんですよね。だから出来るところから始めてます。食文化の違いもありますけど」


 帰還後1回目に会った時は料理をこっちに持ってきたいという話は聞いたけれど、やや遅れているようだ。


 先日の砂糖については、王族や土地持ちの大臣達やその他家臣達には衝撃が走ったのだが、あれは砂糖の流通量を増やしたいのもあるけれど、価格が下がる事で、料理を持ってきやすくするためでもある。


「下宿なので、基本的には庶民向けの料理を作っているつもりなんですけど、食材の生産性と流通量の差で、アシルステラだと価格が高かったりでいろいろ悩んでます」

「それでヒルダ殿の所で作っているのか」

「ヒルダは食べるのが好きですからね。自分の家で食べたいのもありますし、騎士団の食事改革もやってますから、色々手に入るんですよ」


 モートレルで手に入る食材にも限界はあるけれど、アリシア的には予算を気にしながらも、ヒルダがお金を出してくれるので、お財布は気にせずにとりあえず料理を作る事が出来る。


 ここにいる誰もが、2年間旅を共にした冒険仲間を優先する事に文句は言わないけれど、調理が成功したなら早い所こっちにも持って来て欲しい。


「今、お前が問題にしているのは何だ?」

「フラム王国はお米をそれほど食べないという点と、魚介系が手に入りにくい事です。ライアのいるリバヒル王国はそうでもなくて」

「むう」


 そればかりは土地と風土の問題なのでどうする事も出来ない。ただ、お米は生産はしているから、どうにかなる。でも、魚介については、国の地形のせいで港町が一つしか無いので解消は出来ない。やれる事というえば、あの町の港を漁師達の為に拡張するくらいだが、流通しないのであれば多く釣っても意味が無い。


「魚介系は対策を準備してますので、もう少し待って下さいね」

「な、なんだと」


 王族と上級貴族なので港町で獲れた新鮮な魚介を食べていないわけでは無いけれど、一手間かかる。


 貴族によってはわざわざ別荘を建てて、食べに行く者もいるくらいだ。


「何か策があるのだな」

「どこまで出来るか解りませんけど、まずは毎日定期的に王都への運搬が出来ればと思ってます。建造してるんですよね、飛行船?」

「タウかルビィ辺りから聞いているか。まずは学院が発注した船がそろそろ出来上がる。森の伐採で予想外の木材が手に入ったからな」


 魔女戦争時代に全て破壊されてしまった飛行船が建造中だという事は、少し前にルビィから聞いた。あれがあれば箱を積み込んで、日に一往復させるだけでも、ラスタルの市場で鮮魚が取り扱えると思っている。


「我が王家用の2番船も、シンジョウカサラ殿のおかげで木材の問題も無くなった」


 建造は北の街道を抜けた先にある町で行われている。噴火中で一般人は街道を抜ける事は出来ないが、遠くまで噴石が飛んでいるわけでもなく、火災も起きていないので、技術者と職人達の移動は阻害されていない。


「それであれば、お前の策とやらを楽しみにしておこう」


 たまたまエバンス家に来てみれば美味しい料理は食べられたし、アリシアから妙な計画の話も聞けたので、マーロンは満足して帰っていった。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ