とあるご令嬢と冒険者の話 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
一応魔法学院に職員として復帰しているので、久しぶりに魔法学院が何をしているのか見学させて貰う事にした。
そのついでにアンナマリーは、一度エバンス家の屋敷に戻って服の交換をする事にして、アリシアが帰る時に回収するという予定になった。その前にちょっと頼まれ事があるけれど。
王都ラスタルにはもう何度も来ているので、土地勘が戻ったアリシアはエバンス家の前であっても正確な転移が可能になり、アンナマリーを屋敷に送り届けると、魔法学院に向かった。
町ゆく人の、特に女性からの視線がなぜか集まって気になるけれど、もう顔パスで学院の正門からルビィの研究室に入っていった。
「アーちゃんはなんでそう両極端なんダ?」
「えー、こっちの世界に馴染めるかどうかの確認なのに」
こっちで使うはずの服装なので、折角の機会なので例の執事服を着てやってきた。
「なんか人にじろじろ見られたけど」
「その服であんまり外を歩かない方がいいゾ」
本を書いた張本人なので、ルビィもアリシアがじろじろ見られる原因が解っている。
最後に見たのは3年半くらいぶりだけれど、幼なじみのルビィの目から見ても今のアリシアはいい。
女子が執事の男装をしているように見えるけれど、それがいい。男っぽくないだけで、アリシア自体の見た目が良いので、ちゃんとした服が結構映える。
ボディーガードの仕事をしながら、屋敷のメイド達から熱のこもった視線を向けられていたのも見ている。
「まあアーちゃんが王宮での服装について考えているのはいい傾向だと思ウ」
「でしょー。さすがに王宮はねー、この前の式典で解った」
あのアリシアが変わろうとしているのだから、もう少し様子見をしようと決めた。
「ところで火山ってどうなったの?」
「絶賛噴火中だゾ。今のところ400年前ほどの溶岩は流れていないが、山体にかかっている森はどんどん燃えている、とのことダ。夜になれば火山の方角がちょっと赤く見えるくらいニ」
日本と違って夜空には月や星以外の明かりがないから、ラスタルから何十キロも離れた場所の火災が空を染めるようだ。
「森を削ったのが上手くいってるといいけど」
そんな事を話ながら、ルビィに学校を案内して貰った。
卒業してから6年ちょっと、職員を辞めて5年ちょっとなので、施設自体はそれほど変わっていないし、授業風景に変わりは無い。
授業の進め方自体は、教師任せなので、それぞれ工夫をしているかもしれないけれど、そこは見ただけでは解らない。
今度ちょっと教室の片隅にでも座らせて貰おうかと思う。
「図書はちょっと変わったかなー」
「新しい論文やレポートも増えているから、ローテーションをしていル。あとほら、ああいうコーナーが出来タ」
本棚の一角にはアリシアコーナーという事で、棚1マスの半分くらいが、ルビィが纏めたアリシアのアレンジ魔法の書類が置かれている。
何冊か抜けているので、誰かが読んでいるようだ。
「錫杖とかの書類が置かれる事はないと言っていタ」
「あれはダメだよ。異世界の魔術が載ってるからねー」
あれは禁断の書だから、一部の人間の手元にだけあるべきだ。
「それから今は宝物庫の改良をしようという事になってル」
「あの宝物庫から錫杖だけが持って行かれた手段は、何か解ったの?」
相手がどんな人間か解らないけれど、歴代の賢者達が補強していった宝物庫から、部外者が誰にも気が付かれずに、最深部に保管された王者の錫杖が盗まれたというのが、アリシアにも信じられない。
ほぼダンジョンという宝物庫内に進むには多くの扉を開けなければならないし、当然罠も仕掛けられている。
「どうやって持っていったのかはまだ解っていないから、とりあえずもう一枚くらい最深部に防御壁を作るしかないと皆は思っていル」
「何もやらないよりはいいと思うけど」
前代未聞だし、アリシアにも解らないので、それは今いる賢者達に任せるしかない。
「やっぱり分校とは設備が違うねー」
ダンジョンのような宝物庫もそうだけれど、今日改めて設備を見て、何もかもが分校には足りていない。
「集まってくる生徒も違うし、こっちは完全に国立だからナ。っていうか、アーちゃんはいつ部屋なんか貰ったんダ」
「先週くらいに、ちょっと作りたいのがあるって言ったら。家も近いし、霞沙羅さんにもちょっと監修して貰えそうだし」
「くうー、狡イ。しかもあの、大きな、キッショウインさんもいるんだロ」
「吉祥院さんはたまにしか来ないよ。あの人は国の中心にいる人だから」
魔術師協会の理事の一人であり、横浜大の教授でもあり、軍の中佐でもある。吉祥院も忙しいのだ。
「ボクもシャーロットとアンナマリーの相手をしながら管理人をしてるから、時間も無いしねー」
ルビィから見ても、アリシアと霞沙羅と吉祥院の3人組が羨ましい。
本校には天望の座もいるし、他にも優秀な魔術師も多くいるし、図書だってたっぷりあるから、学べる事はとても多い。
でも霞沙羅と吉祥院は日本という国の英雄で、軍でも活躍していると聞いている。それぞれ独自の技術を持っているし、霞沙羅は何と言っても自力で魔装具や魔工具、聖法器まで作る事が出来る多才な人間だ。
一緒にいればきっと教わる事は多いハズだ。
「霞沙羅先生達もルビィに会うの楽しみにしてるみたいだから、また来てね」
「うむ、また行こうじゃないカ」
* * *
ルビィも受け持ちの講義時間が来たので、今日の見学はここまでにして、アンナマリーと合流する為にエバンス家の屋敷に戻った。
門番にはアリシアが来る事が伝わっているので、すんなりと通してくれて、人生初となるエバンス家のお屋敷に入る事になった。
いつも外から見ているだけだったお屋敷はやっぱり広い。果たしてこの敷地には自分の実家は何軒入るのだろうか。これぞ上流貴族パワーだ。
「ん、あの馬車は?」
フラム王家の紋章がついた馬車が屋敷正面近くにいた。
誰か王家の人間が屋敷を訪ねて来ているようだ。さすが先代将軍と現将軍を排出した家だ。
大きな正面扉の前に着くと、使用人の男性に屋敷を案内されて、アンナマリーの部屋にやって来た。
「服の入れ替えは終わった?」
アンナマリーはメイドの1人に手伝って貰って、服の入れ替えをしていたようで、丁度終わって鞄を閉めるところだった。
客人のアリシアがまさかの服装をしているので、そのメイドさんも声をあげて驚いた。
「なんか町の人の視線が痛いんだよねー」
「それはそうでしょう」
ルビィの本を読みながら夢にまで見た、執事姿のアリシアが自分の部屋に来たと、ちょっと嬉しそうにしているアンナマリーは、アリシアのまだ解っていない台詞に呆れた。
しかしあのご婦人も、眠れないからとアリシアを呼びつけて、夜の部屋でおとぎ話よろしく、冒険の話や魔法学院の話しをさせていたとか、なんて羨ましい事を、と思ってしまう。
いや、自分は知らなかったとはいえ、もっとすごい事をやらせてしまっている、と考えると赤面してしまう。
「ところで王家の人が来てるみたいだけど」
「マーロン様がお爺様に会いに来ています。お父様達と3人で、騎士団についての意見交換をしている最中です」
さすがに実家という事もあって、アンナマリーは外向きのちょっと突っぱった喋り方は止めてしまっている。これにはさすがのアリシアも「元に戻してー」とは言えない。
「王様来てるの? お昼ご飯どうするの?」
折角の機会なのでアリシアが昼食を作ってくれる事になっていたのだけれど、さすがに王家の人間に出せるような料理は考えていないし、王子だった魔女戦争時代はともかく、国王になった人間に直接料理を出すとか、それは無い。
「食べると言っていました。城にもこの屋敷で食事をしてくると言ってきているとのことで」
「そうなのー? じゃあボクが料理を用意する人って誰?」
「国王様とお爺様とお祖母様、お父様とお母様、それと私です」
「あれ、上のお兄さんて結婚してなかった? 奥さんは?」
「兄は仕事で、お義姉様は子供2人を連れてちょっと実家に遊びに行っています」
実家と言っても同じラスタルに屋敷があって、日中だけ両親に子供を見せに遊びに行っているだけだ。
「じゃあ、まあ厨房に行こうか」
いいのかなー、と思いながらも国王本人が食べたいと言うのだから、仕方が無い。
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