小樽で休日 大きいのと小さいの -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
個人用の小さな土鍋の蓋を空けたら湯気がもわっと出てきて、ハンバーグとお肉と、付け合わせの野菜がデミグラスソースで煮込まれていて、見た目にもとても美味しそうだ。
ライスは普通の白ご飯とガーリックライスの二種類を用意した。アンナマリーが好きだというコーンポタージュのスープも用意されている。
「美味しすぎるゾ」
「ロンドンに帰りたくない」
「…屋敷で食べたい」
館の外ではまた雪が降ってきたので、暖かな料理の魅力がさらに増してきた。これまでは鉄板の上に乗って、熱々な感じに出てくる料理だったけれど、今日は違う。同じように熱々だけど、シチューっぽい作りになっているのが料理の暖かさを演出しているのだろう。
屋敷の料理に比べて、そこまで上等な料理じゃないのに、なんでこんなに美味しいのか、アンナマリーには解らない。
フィーネもワインを飲みながら、静かに料理を口にしている。
「食後にアイスもあるからねー」
全員が伽里奈の顔を見た。
* * *
「雪を見ながら食べるアイスがこんなにも美味しいなんて」
冷たいものを見ながら冷たいものを食べるとは北海道はおかしい。
今晩は予想外に強く雪が降ってきた。別に異世界人でもないシャーロットも驚くほどだ。テラスだけでなく、庭も段々と白くなっていっている。
「温泉から雪が見えたらいいんだけどね。さすがに住宅街じゃ無理だからねー」
浴室には換気のために開閉する曇りガラスがあるけれど、それは天井間近にあって、外なんか見えない。
だから雪の季節になると、テラスに続くガラス扉の前にキャンプチェアを置いている。それで入浴後に座って雪景色を楽しむ人もいる。
「アーちゃん、これだけ降ると町が白くなってしまうんじゃないのカ?」
「そうだよ。もう少ししたら春まで庭だけじゃなくて町も雪で埋まるよ」
「とんでもないところに住んでるナ」
「異郷の魔術師よ、それを見ながら熱い酒を飲むのも一興なのじゃ」
「熱い酒?」
「この国の酒は冷ましてもよいし、暖めてもよいのじゃ。今度休みに来た際には一献いこうではないか」
これからルビィは2人部屋を使って霞沙羅と轟雷の杖の事と、こちらの魔術を教わるので、お酒は飲んでいない。
以前も一応休暇として来たけれど、結局は伽里奈の作った書類を読んでいたから、お酒も少々だった。
確かにこのフォーネが言うように、いつかはトコトン何もしないという怠惰な休日を過ごしてみるのもいいかもしれない、とルビィは思う。しかし伽里奈の作る魔術書類も気になるから悩む。
「小僧にはまだまだこの家にいて貰わねばならんのでな、機会はいくらでもある」
「私は半年も無いんですよ」
「異国の小娘はロンドンへの道が開ければいつでもここへ来られるようになる。退居した後も気軽に来るとよい」
「え、そうなんですか?」
「この家に認められた者は、己の意志で出ていった後も縁は切れぬ。その為に宿泊部屋があるのじゃ。先日の先代管理人夫婦もこられたであろう?」
「それ以外の人も、たまに泊まりに来るからね」
「へー、じゃあ伽里奈に料理を教えて貰いにも来れるの?」
「いいよー」
「月が変わる頃にはロンドンへも繋がるようだから、あなたの弟妹も連れてきて良いのよ」
「う、うん」
家族にはこの家の料理の話をしているので、弟妹も美味しい料理を食べたいみたいだし、たっぷりの雪で遊ばせてあげたいから何回かは誘ってあげたい。
あとはやっぱり柴犬を見せてあげたい。愛犬のミニチュアダックスが可愛くないわけは無いけれど、それとは別の話。
犬好きの2人に写真を送ったら興味津々だった。ネットで調べると、欧米でも最近はあれが可愛いと気が付いて人気なんだとか。
「ところでルーちゃん、霞沙羅さんと一緒の部屋で寝る事になるけど、寝る前にボクを呼んでね。霞沙羅さんをマッサージして眠らせるから。そうしないと寝相が悪くて、床に落ちたりするんだー。夜中に起こされたくないでしょ?」
「あの人はそんな癖があるのカ?」
「かなり寝相が悪くてねー」
と、伽里奈は印刷してきた書類を渡した。
以前に中瀬と早藤の受験勉強に使ったテキストだ。初歩の初歩だから、丁度いい。
「アシルステラでも何が起きるかわかんないから、対策で頭に入れておいてね」
説明も無いので中身は解らないけれど、先日から伽里奈が随分と魔術的な書類を作り溜めしている事が解っている。
ルビィは研究が大好きだったから、書類作成も慣れたモノだったけれど、アリシアがこうも性格が変わるとライバル心が湧いてくる。
元々、初心者にも教えるのは上手かったけれど、それは口伝。でも先日、霞沙羅達用に纏めたというアシルステラ向けの魔術テキストを読んだけれど、本当に解りやすかった。
アンナマリーにも少しずつ教えているというし、本校で教員もやっているルビィはちょっとした脅威を覚え始めている。
それであれば研究だと、この後の話に取り組む事にした。
* * *
伽里奈はフィーネへのマッサージを終えて、自分の部屋に戻る所で、もう寝るからと2人部屋から吉祥院が出てきたので、霞沙羅のマッサージをしに入っていった。
「おう、また頼むぜ」
「アーちゃんよ、私も頼んでいいカ」
霞沙羅からとても上手いと聞いたので、折角だからと、ルビィもマッサージをお願いした。
「うん、いいよー」
まずは霞沙羅から足裏マッサージを始めた。
相変わらず良いツボに入ると「ん、ん」という色っぽい声を発しながら、あっさりと寝てしまった。これで朝までぐっすり眠ってベッドから落ちる事はないだろう。
「じゃあルーちゃんだね」
「い、痛いのカ?」
「あんまり痛くしないようにするよー」
アシルステラの人でも、例えば肩こりなんかは、何となく肩を叩いたり揉んだりとやってはいるけれど、まさか足裏にツボなどという、全身に効くものがあるとは思っていないので、霞沙羅がマッサージされるのをハラハラしながら見ていたルビィも、伽里奈が慣れた手つきで良い感じにツボを刺激してくるので、何となく気持ちよくなって、ベッドに仰向けに寝転んだ。
「もういいと思ったら止めるからね」
「ん、んン」
良い所を刺激されると痛みと共に、痺れのような心地よさが残る。こんな気持ちいいのは初めてだ。
「霞沙羅さんはそんなに癖は無いけど、吉祥院さんとは付き合えそう?」
「あの人もウチの魔術を結構習得しているんだナ」
「まあ、こっちの世界に慣れるためにあの人の家にいた時期もあるからねー。その時にね。ただ、あの人はこっちの魔法の入門に入ってこなかったでしょ」
「カサラ先生の独壇場だった」
「とりあえず基礎を覚えれば話に入ってくるよ。あの人さ、生まれたばっかりの馬がすぐ歩き方を知ってるみたいに、本能的に魔術を身につけた状態で生まれてるから、教え方がわかんないんだよね。イライラするって」
「昔アーちゃんに同じ事を言った事があるようナ」
子供の頃だから言葉としては覚えていないけれど、酷い事を言ったという感覚は覚えている。
「まあねー、ボクはホントに基礎から始めたから」
「今となっては、ちょっと羨ましい。私の作る書類はある程度魔術を知っているのが前提だからナ」
「でもまあ、こっちの世界の魔法を基礎から始めるわけだから、それで感覚を掴んだら?」
「そのつもりダ」
でもある程度はスイスイと覚えてしまうだろうと思いながら、大きなアクビを一つした。今日は色々な魔術の話をしたから、満足もしたし、初めての魔術を頭に入れて疲れてしまったようだ。そしてなによりマッサージのせいで、心地よい眠気がやって来た。
「なんか面白い所だナ」
「魔術師的にはね、やっぱり面白いよ」
「アーちゃんは料理が一番の、興味のあるモノみたいだがナ」
「料理を覚えるにはね、ホントいい環境だよ」
またルビィがアクビをした。
目もしょぼしょぼしてきてしまっている。
「そろそろいいかな」
「うン」
「じゃあお休み」
伽里奈はマッサージを止めて、明かりを消して部屋を出ていった。
* * *
戸締まりを確認して部屋に戻ると、いつも通りエリアスがベッドに入って待っていた。寝間着替わりのYシャツ姿なのはいつもの事だけれど、今晩はやけに足をアピールしてくる。
「マッサージ?」
「これでもラスボスなのよ」
「わかりました、女神様」
愛しいラスボスさんにしっかり足裏マッサージをして、伽里奈の今日は終わった。
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