小樽で休日 大きいのと小さいの -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
シャーロットが小樽に来て、生活にも慣れてきた所で、杖の製作が始まった。
この杖は魔法の発動体だけでなく、武器としての機能と、魔力の増幅機能を盛り込んだ、13歳が持つには上等な、本格的な魔装具だ。
シャーロット専用に作るので、本人の体に馴染むように何度も調整が必要となるので、完成までに結構時間がかかる工程が組まれている。
シャーロットはこの工程に最初から関わり、随時霞沙羅からの説明を受けたり、作業を手伝ったりしながら、完成まで、自分でレポートを纏めながら、じっくりと付き合っていく。
「すごいなー」
自分専用の武器なんか伽里奈には無い。愛用の魔剣はヒルダのロックバスターと同じ人が何十年も前に作った、誰用でも無い物だ。
「今はお前専用に改良しただろ」
魔力の刃が鞭のように変化するようになったので、もはや伽里奈にしか使えなくなっている。
「何なら自分で作るか?」
「槍を作りたいんですよね、あの突撃用のランス。一時期使ってたんですけど、壊れちゃって」
「お前の構想でも立てろよ。監修はしてやる」
「はーい」
「しかし、この前のドラゴン退治の時に結局まともに触れなかった『轟雷の杖』を見たいもんだな」
森林伐採の時に、イリーナは普段使いのハンマーだったけれど、ルビィは本気用の『轟雷の杖』を持ってきていた。
ドラゴン退治後はルビィがシスティーに乗って伐採した木の後始末をしていたので、結局霞沙羅はちゃんと見る事が出来無かった。
霞沙羅から見てもロックバスターに匹敵するほどの強力な魔装具だったので、シャーロットの杖を作る際のちょっとした参考にしたかった。
「呼んだら来るんじゃないですか?」
「じゃあちょっと呼んでくれよ」
今回は霞沙羅のお客として館に呼ぶ事になった。
* * *
「うわぁ、巨人ダッ!」
ルビィに連絡をとって、轟雷の杖を霞沙羅が見たいと言っている、と伝えると喜んでやって来た。
ただ、エリアスが直接やどりぎ館にルビィを引っ張ってくるとなると、当然待っている人がいるわけで。
「これがアリシア殿の所の専門魔術師でありんすか」
今回の吉祥院はルビィに悪戯をする気でエリアスの側で待っていたので、予定通りの反応を示した事に、してやったりと笑っている。
不意に驚かれるのは心外だけれど、驚かせる意志があって驚かれると、これ以上なく楽しい。
悪戯にひっかかったルビィはビックリしてアリシアに抱きついてきた。
「こいつが私の所の専門魔術師だ」
ソファーでコーヒーを飲んでいた霞沙羅が話に入ってきた。
「吉祥院千年世さん、ボクの講義の中でも何回か口に出した人なんだけど」
「アンナマリーも朝から腰を抜かしていたわね」
「きょ、巨人族ではないのだナ」
「こっちの世界に巨人族はいないよ。ただ大きい人ってだけ」
「ルビィ殿、よろしく頼むでありんす」
吉祥院が握手のために手を伸ばしてくる。ルビィとは身長差が60センチ以上もあるので、掌のサイズはまるで大人と子供程の違いがある。
包まれるような握手をして、早速談話室で話を始めた。
「座高が高イ」
座っても吉祥院の頭が立っているルビィよりも上にある。
「学院には来ない方がいいゾ」
「あははー」
伽里奈はお茶と用意をしていた、きな粉をまぶした団子を出した。
「何だこれハ?」
「お米の粉に水分を加えて練って丸くしたのを湯がいたものに、大豆の粉末に砂糖を混ぜた物をまぶしたお菓子だよ。ダメそうだったらクッキー出すからねー」
「お米と豆と砂糖だト」
アリシアが作ったモノだし、材料的にはダメな物は無い。とにかく口に入れてみると、柔らかな弾力のある中身と、絶妙に甘い粉が口の中で合わさって、派手さは無いけれど、中々に美味しい。
「これは、フラム王国でも作れるのカ?」
「材料は揃ってるから作れるよ」
「そうカ」
食べた事のない食感のお菓子だけれど、ルビィは気に入ったようだ。
「しかしすごい杖でがんすな」
ルビィがきなこ団子を食べている間に、霞沙羅と吉祥院は轟雷の杖を調べていた。
「だが性能がピーキーすぎるんだよな」
「この杖はこっちの世界では使う場所を選びすぎる魔装具だっちゃ」
「室内とかダンジョンではただの増幅用の杖でしたよ」
「そっちの世界にはやはりダンジョンがあるのでござるか?」
「ありますよ。時間と材料がいりますが、ボクでも作れますよ」
「何だと、お前はダンジョンが作れるのか? 聞いてないぞ」
「魔導士にもなれば出来に大小の差はあっても、大体の奴が作れるゾ」
「だって、こっちの世界にはいらない技術じゃないですか」
「今度教えろよ。どこか手頃な所にサンプルになるダンジョンはあるのか?」
またTRPG好きの伽里奈が騒ぎ始めた。どういうダンジョンを用意するかはゲームマスターの腕の見せ所だ。
「学院に、職員用の実験室としてのダンジョンがありますよ」
「あと、王都から一日くらい行った森にダンジョンが見つかって、今は冒険者を集めるなり調査隊が編成されているゾ」
「どっちでもいいから今度案内してくれよー」
「学院の方なら見せられるゾ」
本当に困ったお姉ちゃんだ。
「しかしこの杖だが、ヒルダと同じような装置をつけるか?」
「ヒルダの剣も先生に弄って貰っているようだが、どういう事をするのダ?」
「15段階くらいに威力を調整する装置をつけるんだよ」
霞沙羅はタブレットPCで構想中の設計図を見せた。
ロックバスターの魔術基板に拡張処理をして、調整装置を取り付ける。改造する魔術基板もデザイン済みで、とても解りやすく纏まっている。というか霞沙羅がちゃんとアシルステラの魔術を理解している事がよく解る。
「先生はすごいな」
「こいつも理解してるぜ」
それは吉祥院だ。
「複数の世界の魔術に精通しているとは羨ましイ」
「だったら今日は泊まっていくか? お前のこの杖の改良計画を話すついでに、こっちの魔術の基本を教えてやるぜ」
「ぬう、明日は午後からしか講義がなイ」
「まだ食事の追加は出来るよー」
明日は平日だけど、アリシア的には朝食後にラスタルに送り返せばいい。
「今日の夕飯ハ?」
「土鍋焼きハンバーグっていう、牛の挽肉を丸く練った物とカットステーキを一旦焼いて、デミグラスソースっていう、ビーフシチューの元になるソースと一緒に土鍋で煮込んだものだよ。サラダとスープもあるけどね」
「泊まル! あと杖の改造を頼みたイ」
「よしよし。じゃあ後で魔術基盤を空中投影する方法を教えてやる」
「ワタシも色々と話をしたいところでありんす」
アリシア以上の魔術師という事で、吉祥院も興味津々だった。
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