最高の、ちょっと変わった魔術師 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「その少尉は限りなくシロだ」
執務室でサーベルに刻まれた術式の確認を負えた霞沙羅達3人はそう結論づけた。
「簡単な説明は明日にでも出してやる。とりあえず地球側の魔術基板に偽装しているが、使い方次第で別の魔術基板が作動するようになっている。それはこの世界の魔術ではない」
「工房には連絡を取った方がいいだろうね、霞沙羅」
事件という事もあってか、また吉祥院がモードチェンジしている。
「これをあの少尉がどうやって手に入れたのか、ちゃんと調べた方がいい。あくまで犯人扱いはせず、上司として落ち着かせて、事件解決のためだとプレッシャーを与えるな。本人も上官を傷つけてショックだろうしな。今のところあの少尉は被害者だ。何者かの計画に巻き込まれたんだろう」
世間的にも、軍の中でもトップクラスの鍛冶としての地位もある霞沙羅の言葉を聞いて、函館の中佐とその部下達は胸をなで下ろした。
「横浜事件の延長戦でござるな」
「巧妙になってやがるがな」
「こんなやり方があるんですねー」
例の魔術基板は一見存在しないようになっているけれど、仕掛けられたギミックを見破ったので、純凪夫婦の世界の術式が浮かび上がってきた。制作者はまた同じだ。
霞沙羅からの指示を受けて、中佐達は急いで少尉が運ばれた部屋に向かった。
「誰の仕業か知らんが、今度は内部の人間に持たせやがったな」
霞沙羅が一息ついたところで、この部屋に誰もいないのを確認して
「霞沙羅先生、モートレルの事件の時にシスティーが壊してしまったんですが、これと同じような症状が出る魔剣がありました」
その言葉を聞いて吉祥院がドアの鍵を閉めた。
「距離があったので術式は確認出来ませんでしたけど」
手元に何も残らなかったので、アシルステラ製の魔剣かと思っていたけれど、日本で2本目が出てきたとなれば、ひょっとするとあれも同類だったのかもと思い始めた。
「話だけでも聞こうじゃねえか」
モートレル事件の時に出てきた偽アリシアの持っていた魔剣は、エリアスが言うには、役者の女の子を操っていたようだった。それ以外にも何かしらの攻撃的な魔術も仕掛けられてはいたけれど、使用されなかったのでそこは不明だ。
「その魔剣も、錫杖や他の魔工具をくれた人から貰ったそうなんですよね」
「そっちにも同じようなのがあったって事か?」
「跡形も無いですけど」
「システィーが壊したのか?」
「たたき割りましたからねえ」
「星雫の剣であればそうなるだろうね。アリシア君が他に気がついた事はあるかい?」
「え…」
「何でもいいぜ」
「そうですね、半分くらい消失してましたけど、レポートにも書いた神降ろしの杖があるじゃないですか」
「あれもヤバかったな」
神降ろしは超一流の神官が所定の儀式をもってようやく行う事が出来る、本当に最上級の神聖魔法だ。
しかも時間もかかるので、戦いの形成が悪くなったという理由で、シューティングゲームのボンバーみたいに気軽に使えるような魔法では無い。
そもそも、少しでもミスしたら使い手が死ぬなら可愛い方で、失敗して儀式をしていた空間が消滅したりとリスクが大きすぎる術だ。
間違っても中途半端な能力の神官が杖一本持って出来る魔術ではない。
「考察を見たけど、杖自体が儀式を省略できる構造だから、消失した部分に触媒的なものがくっ付いていたんだろうね」
術式も何らかの付属品にアクセスするように出来ていた。
「それがなんだ?」
「ええと、呼び出したのは、オリエンスの眷属神で、反逆神レラっていういわゆる邪神が率いている配下なんですけど、気になってるのは、色々と残党が持っていた魔剣も取り込んだハズなんですけど、その偽物役の子が持っていた剣をベースにした剣を使ったんですよね」
あの時は気にならなかったけれど、今になって思うと何であの魔剣だけを選んだのだろうか。
「お前の所、よく解決できたよな」
横浜は妖刀一本に翻弄されたのに、同一人物と思われる人間がかなりの協力をした上に、完全に動かないとはいえ、本来なら領地一つを支配下における杖もあり、最後に神降ろしとか、霞沙羅達3人が揃ったとしても1つの町が崩壊しそうなレベルだ。
「エリアスもフィーネさんもいましたし」
あの2人は大したことはしてないけれど、人間では難しい事をやってくれたので、被害が少なかったとは思っている。
「話しを聞くと、その牛の魔人を抑えつけたのはヒルダとルビィと騎士団なんだろ。それはそれでよくやったぜ」
「星雫の剣も、小さな神様と考えて良いからね。上手い事、事件と戦力がかみ合ったんだろうね。ワタシもアリシア君のお仲間に興味が出てきたよ」
「それで、魔剣は残りませんでしたけど、神降ろしの杖とセットだったんじゃないかなって。そう考えるとあれも同じ人が作ったんじゃないかって」
地球でも同じ事件が起きるかどうかはともかくとして、霞沙羅と吉祥院は新しい情報として、メモをとった。
前回の刀と今回のサーベルにはそれ以上の何かと連結するような作りにはなっていなかったけれど、軍の情報として、異世界で実際に起きた事を夢物語として放置するような事はしない方がいい。
何といっても自分達は魔術師だ。伽里奈レベルの魔術師の考察を世迷い言だと斬り捨てるわけがない。
「学院の連中には刀のレポートの中では書いたが、お前の考察話はしておいた方がいいぞ」
「ルビィにでも言っておきます、何と言っても見ましたからね」
「仲間内に目撃者がいるなら共有しておけよ」
* * *
この後、部下を止めてくれた事と、その無実を擁護してくれたお礼として、函館の中佐が、少尉との話し合いについて真っ先に情報をくれた。
あのサーベルは少尉がわざわざ工房に出向いて、工房主と仕様をつめて、普通にお客として発注した物とのこと。
完成前には一度、工房からの連絡で再訪して、実際に手に持って確認をしているし、完成品には正式な保証書も書いて貰っている。
サーベルの納品があったのは霞沙羅が、前回の妖刀関連で講義をする少し前なので、異世界の術式が漏れる事はないし、今回の魔術基板はそれをコピーしたでは無く、その発展型だ。
霞沙羅の講義に参加した人間は、内部の上層部と、魔術師教会のトップという限られたメンバーなので、いち工房に漏れる事は無いし、あの講義に参加しただけで、同類の魔剣がすぐ作れるほど魔術は甘くない。
「どうあれ工房に連絡を取り、事実確認から始めよう」
「工房の手から離れて、受け取る前か受け取った後に、誰かと接触していないかを調べた方がいいぜ。ただ…」
一つだけ心配がある。
「相手は人の記憶に干渉する技があるようだから、色々と注意だな」
「あの少尉はどうするのでありんすか?」
「一旦、函館の駐屯地に連れて帰って身体の検査は行う。問題無しとなったとしても、しばらくは監視だな。何者かの計画かどうか解らないが、失敗した事もあって降りかかるかもしれない身の危険も考慮しないとダメだ」
サーベルは残念ながら軍が回収することになる。霞沙羅のレポートと共に、函館の方でも解析してみるとの事だ。
「大佐には優先的に連絡はしよう」
「ああ、よろしく頼むぜ」
少尉の方は最初こそ、違う違う、と混乱状態にあったようだけれど、新城大佐直々の鑑定結果があるから心配するなと、上官として犯人扱いをしなかった事から、今は落ち着いているようだ。
中佐は霞沙羅に一礼して、部下と今後の事を相談するために、部屋を出て行った。
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