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最高の、ちょっと変わった魔術師 -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 小樽魔術大学襲撃については警察主導の案件だったとはいえ、実際にその多くを片づけたのが霞沙羅と伽里奈(アリシア)であった為、犯人4人以外の魔術的なデータは2人の中にあり、最終的には本来は軍の出番となるレベルの、幻想獣の完成態が現れたわけで、警察からのデータも貰い、道内の他のエリアへ情報を共有すべく、関係部署を集めての勉強会が行われる事になった。


 今日は北海道の4つのエリアから各代表者が呼ばれ、ここ札幌に集まっている。


 事務担当者に印刷を任せていた冊子類は、会議室に届いており、会議室につくなり早速吉祥院が読み始めた。


「人間というモノは昔から余計な事を考えるモノでありますな」


 幻想獣の力を取り込んだ素材で武器を作ろうとか、本当に余計な事をやってくれた。


 古い日本固有の魔術基盤だったので、当時の書類があったとはいえ、資料を纏めるにはちょっと時間がかかった。


「取り込んだ体を消滅させて力だけを残す、この術式が間違っておいででやんす」

「研究するならお前の家に頼めってんだよ」

「そうなってしまうと研究者の立場が無いだっちゃよ」

「お前は寛容だな」

「今は各都市の立ち入り禁止区域の浄化という、もっと重要な研究案件もあるのでやんす」


 じきに参加者達も集まってきたので、伽里奈(アリシア)が座席に資料を配り、勉強会が始まった。


  * * *


 鐘については昔に作られた聖法器であるために、欠陥を含めたその構造についての説明を行った。


 鐘から出てきた幻想獣については、出てきてから10分と経たずに跡形も無く焼かれてしまったので、その姿と、伽里奈(アリシア)と霞沙羅による魔力感知の結果と、学校のセンサーが測定したデータ以外の資料は纏められなかった。


 傭兵団4人がつけていた、転移用の差し歯については、あそこまで小さなサイズにまとめ上げた技術力の高さが注目された。転移先までの距離は短かったけれど、それは取捨選択の結果なのだろう。


一番問題なのは、あれだけの数の幻想獣を校内に送りつけた方法についてだ。


 幻想獣は基本的に自然発生するもので、どこかで生まれたモノが出てくるか、上位のリーダー的な存在が率いて現れるかで、人が任意に持ち運ぶような事例は古今東西聞いた事が無い。


 傭兵団からの情報では、知らない誰かから提供された物らしいが、誰なのかは知らないようだし、肝心の物は何も残っていない。


 伽里奈(アリシア)的には類似品に心当たりがあるのだが、物が残っていない以上情報が混乱してしまうので、霞沙羅にしか話をしていない。


「これはまたどこかで使われると考えた方がいいね」


 こういった勉強会や講義となると人が変わる吉祥院も興味を示した。


 しかし物が無いだけに今はこれ以上は何も出来無いのが悔しい。


「それにしても新城大佐は解るとして、伽里奈君の活躍がすごいな」


 道南地区の担当者が口を開いた。


 厄災戦時にユニットを組んでいた吉祥院か榊なら話はわかるけれど、全然関係ない伽里奈(アリシア)が霞沙羅と組んで、何の対策も予備知識も無しのぶっつけ本番という状況で、完成態を最小限の被害で撃破したのが恐ろしい。


「函館に貸して欲しいくらいだ」


伽里奈(アリシア)が作成したとされる、現在は道央地区でしか使われていない軍用の魔術教本は、次の春から全国区でも使われる事が決まっているので、既に各地域の責任者の目を通っている。


 勿論、場を和ませる半分冗談な発言でもあるけれど、半分は本気である。北海道地区だって災厄戦後の人材不足が続いているから、今いる若い隊員達の育成が急務だ。


「ホールストン家のお嬢が来ているからなあ。なんならここに研修しに来るか?」

「それも考えておこう」


 ホールストン家のお嬢様を予定通りにロンドンに帰すのは外交的な重要事項なので、一度、道北道東道南の3地区で対象者を選抜して、道央の霞沙羅に預けてみるのもいいかと結論づけた。


  * * *


 会議が終わり、吉祥院が来ているので、霞沙羅の部隊の鍛錬を見る事になった。


 今日は魔法の演習中で、練習場所にやって来た。


「寒くなってござるなあ」


 また天気が悪くなってきた。天気予報では夕方からまた雪がついている。 


「それでも野外演習場には行くんだぜ。戦場に晴れとか雪とか関係ないしな」


 さすがに安全を確保した上であるが、別の場所にある演習場に赴き、雪の降る中、雪原を歩いたり、雪上での戦闘訓練だってやる。


「全員止め」


演習を仕切っていた曹長さんの一声で、全員の手が止まった。


「吉祥院中佐に、礼」


 全員振り向いて、ビシッと足と手を揃えて敬礼をした。


「ワタシはただ見ているだけでござるよ」


 吉祥院の階級は中佐。霞沙羅よりも下だけど、ここでも魔術師であるのならば恐れ多い人。曹長や霞沙羅を前にしてもここまでは畏まらないだろうというほど、畏まっている。


「このまま予定通り続けて欲しいでありんす」

「畏まりました。全員再び始め」


全員一礼すると、元の向きに戻り、練習を再開した。


「彼らから見た伽里奈君の扱いはどうなっているでありんすか?」

「恐れられてるぜ、大学の件もあって余計に」


 伽里奈(アリシア)はここにいる誰よりも年下。体は16歳で、実際は19年生きているといっても、ここにいる隊員達は普通に大学を卒業して軍に入隊した人達だ。


 最初は霞沙羅のサポートから始まったけれど、様々な演習に参加し、圧倒的にな実力を見せつけたので、すぐに不満を言う隊員はいなくなった。


 それとキャンプ料理で皆の胃袋を掴んだので、好意的には受け止められている。


「本部にもそう言っておくでござる」

「変な事言うなよ」


 じゃあ大佐なりの事務仕事でもするか、と執務室に帰ろうとしたところ、帰る前に演習風景でも見ようとしたようで、こっちに向かってきていた道南の担当者が部下と何か揉めていた。


「揉めてるってレベルじゃねえな」


 4人が、真ん中にいる1人を取り囲んで、「やめろ」だの「武器をおろせ」だの言っていて、上司が左手で右腕を押さえている。


 よく見ると地面に血が滴っているので、怪我をしているようだ。


「どうした」


 3人が近づいていくと、真ん中の男がサーベルを構えて、他の3人が銃を手にしたり、刀を構えている。


「魔剣じゃねえか」


 サーベルを持っている男の階級は少尉。霞沙羅や吉祥院もそうだけれど、魔術師団と呼ばれる対幻想獣の職にある人間は、その力を発揮するために、ある程度の階級になると、自前で武器を用意する事が許される。


 階級的に魔剣を持っていてもおかしくはないが、それを見た霞沙羅がサーベルに異常性を感知した。


「またかよ」


 先日横浜で被害を出した類いの、いわゆる妖刀系だ。つまり今の彼はサーベルに操られている。


「おい、剣を奪う。合わせろよ」


 霞沙羅が飛び出ていき、【気】を纏った手で振り下ろされたサーベルを掴み、その上から吉祥院が振り下ろした大きな拳で少尉を殴り、後ろに回り込んだ伽里奈が、顔面から地面に激突しないように抱き留めた。


近接戦闘の専門ではない吉祥院であっても、それなりに鍛えたその巨体から繰り出される拳の一撃は強烈だ。少尉はあっさりと昏倒した。


「大丈夫か、そっちの中佐は」

「あ、ああ、腕をちょと切っただけだ」


 道南の中佐は血の滴る腕を押さえながらも、意識はしっかりしている。


「中佐殿、腕を見せるでござるよ」


 吉祥院は怪我を直す事にして、霞沙羅は少尉の手から落ちたサーベルを調べた。魔術基板を浮き上がらせてそれを解析する。


 伽里奈(アリシア)は抱き留めた少尉の体を地面に降ろし、同じグループの3人に任せると、とりあえず拘束した。


「何だこれは」


 霞沙羅はとりあえずサーベルの解析を終えた。


「どうしたんです?」

「サーベル自体は知っている工房の作なのは間違いないが、魔術基板が、巧妙に偽装されているな」

「この少尉はどうするでござる?」

「とりあえず拘束しておけ。今のところ私はシロだと思うが念のためだ」

「新城大佐はそうお思いか」


 吉祥院の治癒魔法によって結構ざっくりいっていた傷が直った、上官である中佐は、霞沙羅の言葉にホッとしたように聞く。


「詳しくは今から調べるが、あの工房にこんな知識があるとは思えんからな」


 伽里奈(アリシア)も吉祥院も空中に浮かび上がった術式を見て、霞沙羅が言った意味が解った。


 この術式をきちんと使用できる人間は、この世界にはここにいる3人しかいないはずだ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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