最高の、ちょっと変わった魔術師 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日の夕食はシスティーによるスープカレーだ。
システィーは半年以上前からこのスープカレーにハマって、休日になれば札幌を中心に色々なお店を回って、食べ歩いた成果を時々披露してくれる。
毎回味も変えて、具材も変えて中々飽きさせないその姿勢は、とてもではないけれどあの大きな星雫の剣とは思えない。
「カレー、これがカレー?」
カレーというには想像もしていない姿の料理が食卓に並び、シャーロットは困惑している。
サラサラな、スープにしか見えないカレーに、今日は魚介系を中心とした具材が豪勢に盛られている。
「スープカレーっていう、札幌発のローカルフードだよ」
「カ、カレーって、色々あるのね」
シャーロットはこのスープカレーをデジカメに納めた。
やどりぎ館に来てから食事の度にシャーロットはこうやって画像を残しては、家族や知り合いに連絡を取る際に日本で何を食べているのかを報告している。
「日本を楽しんで貰ってなによりだっちゃ」
「満喫してやがるよなあ」
霞沙羅もシャーロットがこの留学を楽しんでいるのを見て安心している。まだやどりぎ館と学校の往復くらいしかしていないけれど、近所の柴犬に会いに行ったり、お向かいの北海道犬に会ったりと、やりたい事を消化していっている。
この土日にはエリアスと小樽の観光地を歩いたり、札幌に行く予定もある。
歳も近くて、人種的に似たような姿をしているアンナマリーとはすぐに打ち解けているし、ネコの取り扱いを通してフィーネにも抵抗が無くなってきている。
霞沙羅と伽里奈による魔術の勉強もこなしているし、学校の事についてもヒアリングをしてきたりと、とても充実した生活を送っている。
「んー、じゃあいただきます」
そして初めてのスープカレーに挑み
「辛ーい、でも美味しい」
本来のカレーに比べて薄い感じのスープの意外な辛さに驚きながらも、抵抗なくモリモリと食べ勧めていく姿に、料理をしたシスティーも満足そうにしていた。
* * *
「いつの間にやら雪が降っているわね」
夕食が終わった頃、外を見ると雪が降り始めていた。
初雪は少し前にあったけれど、明日も一日天気が悪いという事もあって、ちょっと積もるだろうとの事。
実際にフワフワとした、しっかりとした雪が降っていて、テーブル席を片づけたテラスは白くなってきている。
これが積み重なって、12月になればこの町は白くなっていくのだ。
「ゆ、雪だ」
前回の降雪の時はすぐに解けてしまったので残念そうにしていたアンナマリーは、早速外に出て行って雪を触り始めた。
「小娘は騒いでおるが、まだ根雪にはならぬであろうな」
「横浜は冬のどこかで一回積もるくらいでありんす」
同じ神奈川県内でも箱根や丹沢などの山の中では積雪は何度かあるだろうけれど、南関東の平野部は冬に1回か2回、ちょっとした積雪がある程度だ。
雪が無ければ寂しくもあり、いざ降ると交通網が壊滅することではた迷惑なのが南関東の雪だ。
「こやつもそろそろ散歩が出来ぬようになるのう」
「にゃー」
「その時はどうしてるんです?」
アマツをナデナデしながら、室内からシャーロットはテラスではしゃいでいるアンナマリーを見ている。
「基本的には家の中でぬくぬくしてるよ。外に出るのは、霞沙羅さんの家とここを往復する時くらいかなー」
「お向かいのワンちゃんに挨拶に行けなくなるのね」
「だからたまに預かるんだよ。向こうも寂しくて遊びたいみたいだからね」
「あのワンちゃんを? いいわねー」
「にゃー」
「来たら絶対お風呂に入れてあげるんだから」
ここの管理人としては、楽しんでくれて何よりだ。
* * *
次の日まで降り続いた雪はそれなりに積もったけれど、その翌日には晴れたので、雪も道の片隅に残っている程度になってしまった。
本格的に積もるのはまだまだ先になりそうだ。
エリアスとシャーロットは予定通りに小樽の観光地に向かい、伽里奈は霞沙羅に連れられて、先日の大学襲撃に関しての説明をしに、3人で札幌駐屯地に向かっている。
「お前が乗るには狭いな」
「ここのメーカーは前が広いので何とかなっているでげすよ」
助手席を限界まで後ろに下げて吉祥院は座っている。そのおかげでただでさえ狭めの後部左座席は座れなくなり、今この車は3人乗り状態。
「いつも思うのであるが、霞沙羅はよく雪の上を走れるでござるな」
今は雪がないけれど、本格的な雪の季節が始まれば、関東なら通行止めになるような状況でも北海道はバンバン車が走っている。
自分で運転する事が無い吉祥院でも、あの状況が信じられない。
「こっちに来た時にはさすがの私もビビったぜ。実際、駐屯地や演習所の道を地元民のヤツにナビして貰って練習したんだぜ」
「シャーロットを乗せたら大騒ぎしそうですね」
「アンナのやつも水族館まで送るんだろ。その前に一度は車に乗せないと騒ぐぜ」
「そうですねー」
「まあ私は馬車に乗りたい」
「今度ヒーちゃんに乗せて貰います?」
「あるのか、あの家?」
「そりゃありますよ、立派な貴族ですよ。孫を迎えに、孫バカな両親が毎日来てますよ」
王都の、王家やエバンス家のような貴族が乗ってるようなお上品な外見はしていないけれど、近隣の町に行く事もあるので、勿論持っている。
「乗りてえな。あの町を車内からバシバシ撮影したい」
「霞沙羅はもうアシルステラには顔出ししているのでありんすか?」
「いろいろあってな。こいつの所の国王にも会ったたし、学院のトップにも講義を頼まれたぜ。お前も来るか? それとも呼ぶか?」
「アリシア君のところの魔術師専門家をでござるか?」
「お前とは逆で小さいぜ」
「そこまで小さくは無いでしょう。150くらいですよ」
「5歳の時のワタシくらいだっちゃ」
アンナマリーが初見で腰を抜かしたくらいだから、向こうの世界に一歩でも入ったら、町の人はさぞ驚くだろう。
「ところで、あの少女が口にした巨人族というのは、いるのであるか?」
「大昔にはいたんですけど、とっくに滅んでます」
「どのくらいの巨人だったのでありますか?」
「発掘された骨があるんですけどね、3メートルいかないくらい」
「ワタシはそこまでないで大きくはないでがんす」
人類史上、最も背の高い人間が270ちょっとくらい。それでもやや足りない。
スポーツ界隈に行けば、バスケやバレーの選手に紛れれば吉祥院は丁度いいくらい。勿論、吉祥院家の人間にスポーツ業界から声がかかる事はないけれど。
「朝起きていきなりお前がいればな」
「ウチの世界は大きい男でも180ちょっとくらいですかねえ」
古風な化粧はともかくとして、アンナマリーは180の騎士を見ても驚くくらいなのに、朝っぱらから210越えの吉祥院はさすがに怖かったようだ。
今でも椅子に座っている姿を見ても違和感があるようなのに。
「エリアス殿はどうなのです?」
「エリアスにもちょと驚いてましたよ。女性にしては大きいですからね」
こちらの世界なら「大きいですね」くらいで終わるし、モデルをやってますといえば納得される程度だ。しかしアシルステラで180近い女性はまずいない。
「まあ向こうに行く時は気をつけた方がいいな」
仲間のところに吉祥院を連れていく事があったら、予め言っておこうかなと思う伽里奈だった。
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