最高の、ちょっと変わった魔術師 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
アンナマリーとシャーロットが今日も管理人室からぬいぐるみを貰って自室に戻っていると、宿泊部屋の扉が開いていて、その中で伽里奈が部屋の掃除をしていた。
もう夜の8時すぎだけど、そんなに急ぐ事があるのだろうかと覗くと、ベッドのサイズがやけに大きくなっていた。
「何だそれは」
横も縦も5割くらいサイズが増していて、一体誰が寝るのかと思ってしまうほどだ。
「これは吉祥院さん用だよ。休暇ついでに一週間くらい泊まりに来るんだ」
「へ、何が来るんだ? カサラさんの知り合いなんだろ?」
「そうなんだけど、シャーロットは知ってるよね、吉祥院さんが大きいの」
「実際に会った事はないけれど、背が高いっていうのは知られているわね」
「大きいんだよ、エリアスより」
エリアスが女性としては背が高いといっても、180無いくらいの、常識的な範疇だ。だから特別なベッドは使っていない。
アンナマリーがちょっとベッドに横になってみると、屋敷にある自分のベッドのような余裕のある感じになっている。
いわゆるキングサイズといったところだ。
そんな物が置かれているので、部屋がちょっと狭くなっている。
「その何とかって人はいつ来るんだ?」
「明日の朝に来るよ。まずは学校を見に来るんだって。アンナマリーは明日お休みだから、朝から会えるよ」
「えー、どんな人なんだよ」
「すごい魔術師の人だよ。霞沙羅さんから見て、ボクにとってのルビィみたいな立ち位置の人かな。この日本での地位はもっと上だけど」
「吉祥院さんの家は、この日本という国の魔術師のトップのお家なの。もう何百年も、いつの時代もね」
「そんな人がこの国にいるのか」
「あとシャーロットに会うのも目的かな」
「そ、そうなの? 直接会えるなんて、緊張するわね」
「ちょっと変な喋りをする人だけど、中身は変な人じゃないから、ビックリしないでね」
* * *
翌朝になり、丁度朝ご飯という頃に、正面玄関から大柄な人間が入ってきた。
「うわあ、きょ、巨人っ!」
長い黒髪の、妙に白い化粧をした、巫女のような紅白の袴姿の、巨大なシルエットの女性と目が合ってしまい、アンナマリーが悲鳴を上げた。
なんせ身長210センチ以上の上に、ゆったりとした服装のせいで更に大柄なシルエットになってしまっている。
「話に聞くアリシア君のところの新人入居者さんでありんすか」
「おう伽里奈、吉祥院が来たぜ」
ソファーで新聞を読んでいた霞沙羅が、厨房にいた伽里奈を呼んだ。
「はーい」
「わあ、アンナ、階段で何してるのよ」
アンナマリーが階段で腰を抜かしている後ろから、シャーロットがやって来て、巨大な人影を発見する。
「きょ、巨人が…」
「え? き、吉祥院さん?」
「シャーロット嬢であるな。ようこそ日本へなのだ」
大きいとは知っていたシャーロットも、初めて見る吉祥院の巨体には引いてしまった。
「アンナ、まあ私よりも背が高いけれど、彼女は人間よ」
声を聞いてやって来たエリアスよりも30センチ以上も背が高い。後ろにあるドアの枠から頭がはみ出ている。
「まあ最初はボクも驚いたけどね。取り合えず朝ご飯だから。吉祥院さんの分もありますからねー」
* * *
アンナマリーにとっては朝からショッキングな出来事があって散々な休日の始まりだったけれど、朝食を食べ終えた伽里奈達は附属高校に向かった。
「うーむ、目立っているでありんす」
日本人離れした長身だけでなく、普段着としては疑問符の出る服とやたら白い化粧の吉祥院は、学校に近づけば近づくほど増えていく生徒達にいちいち驚かれていく。
「今に始まった事では無いのでござるが」
何度も小樽には来ているけれど、基本的にはやどりぎ館からはあまり動かなかったから、日常風景からかけ離れた人物として目立ちまくっている。
「空間転移をすれば良かったですね」
「いやいや、アリシア君、運動は大事でござるよ」
これでも軍人。超が着く魔術師で、こんな動くのに支障がありそうな服装をしているけれど、吉祥院は歩いたり走ったりする事は苦ではなく、日常的に散歩は日課にしていたりして、実に健康な体をしている。
魔術師だし動きもゆっくりに見えるけれどそんな事はなく、見た目通り腕力も常人離れしていて、下っ端の兵隊が数人がかりでも手も足も出ない程度の白兵戦能力も持っている。
「か、伽里奈アーシア、ひょっとしてそのお方は」
学校がもうすぐ側になって、小樽駅方面からやって来た一ノ瀬と藤井に出会った。
「吉祥院千年世様?」
「あーダメだよ、名前は呼んじゃ。霞沙羅さんだってやってないんだから、名字だけにしてあげて」
「そういうことでありんす。で、どちら様で?」
「い、秋田の、一ノ瀬、美哉、です」
「じ、従者の藤井、恭香、です」
大きいだけではない、日本魔術界の頂点に位置する吉祥院にを前にして、二人はガチガチに恐縮しまくっている。
「そういえばここにいるのでござったな」
吉祥院、という名前を聞いて、というか、もう目立ちまくるその姿のせいで、各学年のA組所属者達が挨拶をしようと集まってきた。
「高校生諸君、すまぬが教職員への挨拶があってござるので、通してくれると助かるのだ」
吉祥院は背後から伽里奈の肩を掴むと、グイグイと押して職員用の入り口に向かっていった。
「シ、シャーロットさん、どうして吉祥院様と一緒に?」
説明をしてくれそうな伽里奈が連れて行かれ、いつの間にかエリアスもいなくなっていて、たった一人取り残されてしまったシャーロットに、一ノ瀬が質問してきた。
「骨休めと学校と札幌駐屯地の見学に来たのよ」
「ど、どちらにお泊まりなの?」
「え? 伽里奈の下宿よ。さっき来たばかりなの」
「そ、それなら、ご挨拶にいってもいいのかしら…」
「それは、伽里奈にでも聞いて貰える?」
* * *
吉祥院に連絡も無しに来られてしまい、朝から恐縮しまくる附属高校校長と、噂を聞きつけてやって来た大学学長と挨拶をして、吉祥院は附属高校の見学を始めた。
「いつもギリギリでござるよ」
一般的な住居と比較すると、学校の一フロアの床から天井までは高いけれど、背伸びをするほどの余裕はないし、ドアを通ろうとするといちいち屈まなければならない、
「大きいのも不便なモノですねえ」
「霞沙羅かエリアスくらいの身長で良いのであるが、我が一族は昔から大きいのであるよ」
その中でもこの千年世は特に背が高い。弟と妹は2メートルには届かない。直系である父親は2メートルちょっとといったところ。
「10センチくらい譲って欲しいですね」
「アリシア君は今くらいが丁度いいと思うのでげす」
「そうですかねー」
先日、疲れた霞沙羅に肩を貸そうとしたら、背が低いからとエリアスに役を奪われてしまったのがちょっと悲しいのに。
「背が高くなると着る服が無くなるでゲス、アリシア君の場合は特にそれが顕著になるでゲス」
「そうかも」
女子寄りの服を選ぶ場合、エリアスからはサイズに困らないからいいわねと言われ、逆にエリアスは困っている事がある。
伽里奈の趣味嗜好的には、男の服も女の服もどちらもサイズが揃う今の身長も悪くないのかもしれない。
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