魔法術科の問題 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
昼休みの次の授業は選択制。授業には魔工具の作成入門もあれば、格闘術もある。普通科だと美術とか音楽もあるけれど、魔法術科の文化的な選択は、軍に入った後も役に立つ料理しかない。家庭科ではなく料理。
ただ魔法術科の一年で料理を取っているのは藤井のたった1人だ。
そんな中、シャーロットはこの料理を選択した。何の知識も無いものをゼロから勉強するという事もしたかったので、折角日本に来る事になって興味を覚えた料理にしたのだそうだ。
天才魔術少女とは言っても、料理は未経験。
担当教師はシャーロットの家柄を気にする事無く生徒達に紹介を終えると、下宿の管理人である伽里奈のいるグループに合流させた。
「シャーロットちゃん、解らない事があったら遠慮なく言ってね」
A組なのに気さくな性格の藤井が声をかけてきた。
今日は11月後半に予定されている、料理実習のメニューの予算と材料決めだ。
当日の調理時間時間も予算も決まっているので、何でもというわけにはいかないし、季節によって発注出来る食材も変わってしまうので、その時期に専門の業者さんが扱っている予定のリストをもらい、教師が決めたテーマに沿って料理を決める。
前回の授業では全ての班が料理を決めたので、どういうカレーを作るかを詳細に決めて、リストから食材をピックアップしていく。
「今回の演習から校内でやるから、校内の調理室で料理をするんだよ」
ロンドンと違って、北海道の冬は雪に包まれる。冬の到来が迫っている中、いつ雪が降ってもおかしくないような寒空の下で料理をするのかと思っていたシャーロットは、その言葉を聞いてホッとした。
軍人になれば季節も天気もへったくれもないけれど、学生にそこまでは求められてはいない。
「となるとシャーロットさんは魔術演習には参加しないのね」
「あの、シャーロットは教わる事がないから」
A組がいるとはいえ、高校生が撃つ程度の魔法なら、年齢が二桁になる前にはとっくに卒業してしまっているから、もはや参加の意味は無い。
「そうよね」
A組に在籍で対魔師の一族に関わっている藤井もそれには苦笑いしかない。
「この別枠の予算って何?」
シャーロットも予算いくら、という表を貰っているけれど、それをこれから決めるので普通なら白紙だ。でも既に「その他」のところに金額が印刷されているから、これは決定事項だと解る。
「これはデザートだよ。他のグループも同じ金額が避けられるんだ」
前回全員分作ったというアップルパイは、本来はそんな予定はされていなかったと聞いている。それと同じ事を今回も行うのだ。だからどの班も同じ金額だけ避けられている。
「何作るの?」
「アイスだよ。バニラとチョコと苺の三種類を作るんだ」
「寒いのに?」
シャーロットも前回の伽里奈と同じような疑問を抱いた。なぜ町に雪が積もるほど寒いのに冷たいアイスを食べる必要があるのか。
「北海道の人は部屋を暑くするから、喉が渇くでしょ? それで部屋でアイスを食べるのが定番なのよ」
道民の生徒が、ロンドンから来たばかりのシャーロットに事情を説明してくれた。
「あの館も?」
「あの館の空調はアイスが食べたくなるほどあつあつにする気はないけど、ボクが作ったシャーベットかアイスはデザート用にいつも冷凍庫に入れてるよ」
「伽里奈君の下宿に住みたいわね」
どれだけ料理が好きなんだと藤井も苦笑い。
「私はまだ食べてないわよ」
いつも入っていると言われても、館に来て一週間くらいで、アイスが出た事は一度も無い。まさかそんな隠し球があったとは。
「シャーロットが来てから誰かが買ってきた果物とかプリンがあったからね。じゃあ、今日の夕食後に出すよ」
「絶対よ」
アイスの話はともかく、この班で作る事になっているトルコライスの材料を決めないとダメだ。
トルコライスはライスをどうするかでも材料が変わってしまうので、ネット情報を見ながら、どういう姿にするのかを決めて、リストに書き込み、金額の計算も行うのが今日の課題だ。
「と、トルコライスなんて…。日本でトルコ料理なんかつくるのね」
「シャーロットちゃん。名付けの由来には諸説あるけど、長崎市の名物料理で、長崎の人が勝手に名前つけただけだから…」
「なんでそんな紛らわしい事をするのよ」
自分で思いつく限りのトルコ料理を盛ったお皿を想像していたら、とんだ肩透かしだった。スマホで画像検索したら、全然トルコ感が無い、豪華なカツカレーだった。
「これと似たので、根室発祥のエスカロップっていうのもあるんだよ。カレーをかける事が無いから今回のテーマと違うんだけどね」
今度はエスカロップの画像を検索すると、確かに似ている。でもどっちも美味しそうだ。美味しくなさそうなモノがお皿の上に見当たらない。
「今回はカレーがテーマだから」
「か、カレー、日本のカレー…」
「日本のカレーは欧風とかイギリス流って言われてるけどね、イギリスではあんまり食べてないんだよねー」
「最近カツカレーが人気よ」
なんだか楽しそうな授業じゃないかと、シャーロットは珍しく前のめりになってミーティングに参加した。
このグループには料理上手が2人、伽里奈と藤井がいるので、この2人をメインに、意見を纏め、料理を進めていくことになる。
ここまで数回行われている料理実習は全て大好評なので、班の結束も固い。
他のグループも和気藹々と自分達のカレーの完成形とそれの食材をを決めているのを見て、いい授業を選択したとシャーロットは感じた。
なんと言っても自分が一番下の立場。周りは料理が出来て、自分は一から勉強しないといけないという状況は人生の中であまりなかった。
不安もあるけれど、伽里奈がいるのでちゃんと手を引っ張ってくれる安心感がある。女子の藤井もなかなか面倒見がよさそうだ。
そしてシャーロットも混ざっての話し合いの結果、どういう姿のトルコライスを作るのかは決まった。
次回の授業では当日の役割分担を決めるという。シャーロットに何が出来るかは解らないけれど、授業を取ったのだから、何らかの調理は任される。
そこは伽里奈と藤井がサポートをしてくれると言うから、館に来て料理に興味が出たシャーロットには、予想もしていなかった楽しい授業になりそうだ。
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